18世紀の英国治安事情が面白い。ボウストリート・ランナーズの活躍がもはや創作にありそう

日本の岡っ引きみたいな存在は英国にも居たのか。
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エリザ @elizabeth_munh

17世紀から18世紀、ロンドンは退廃の魔都と化し、都市は犯罪で渦巻いた。 急速に成長し、大都市として伸びゆくロンドンは無秩序に人々を受け入れており、貧しい人と富める人は隣り合って生活する。やっては来たものの仕事がなくてあぶれた人達は泥棒に身を持ち崩した。

2022-12-30 21:56:31
エリザ @elizabeth_munh

満足な照明がない当時、夜になれば街は完全な闇に包まれる。巡回の夜警は役に立たない。そして犯罪者を取り締まるべき警察は存在しなかった。当時のイングランドの法律では、物盗り強盗殺人の類があれば、大声を上げて、その場の有志が取り押さえるべきとされる。 勿論こんなものは機能しない。

2022-12-30 21:58:51
エリザ @elizabeth_munh

首尾よく泥棒を捕まえたとして、起訴するのに手間もかかるし、盗られたものが戻ってくる保証もない。ならどうするか。蛇の道に通じた蛇を放つよりない。 こうして犯人の追跡は民間が請け負う事になる。それが、シーフテイカー。泥棒捕り。 今で言う私立探偵のような役割を彼らは持っていた。 pic.twitter.com/CYlQzE4KrM

2022-12-30 22:03:06
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リンク 警察についてまとめたブログ シーフテイカーとブラッドマネー 18世紀のイギリスでは、泥棒を見つけたら、「こいつが泥棒してました」と言って法廷に突き出しそれが認められると、ブラッドマネーと呼ばれる報奨金が追放者に払われた。 その報奨金で食っていたのが、シーフテイカーである。 そのシーフテイカーだが、ほぼ全員に前科があり、職業も犯罪者と接触する機会の多い人物が多数を占めていた。 下層民対象のパブの経営者、質屋、監獄の看守などである。 更には、捕まえた犯人の所持…

盗品マッチポンプ「ジョナサン・ワイルド」

エリザ @elizabeth_munh

彼らは概ね前科者か、社会から除け者にされた人達であり、裏社会の事情によく通じていた。一種の賞金稼ぎである彼らは泥棒を捕まえて報奨金を得たり、盗まれた物を代金と引き換えに取り戻す。 しかし彼らは相当に怪しい人達で、泥棒捕りが泥棒を兼ねてるなんて珍しくない。

2022-12-30 22:07:55
エリザ @elizabeth_munh

大物の泥棒捕りであるジョナサン・ワイルドに至っては自分で盗んだ物を自分で持ち主に売りつけるのみならず、ギャングの親玉として配下の泥棒達が盗んだ物を管理し、遺失物引渡商を営んで財を築いた。マッチポンプとはこの事ね。 こんな具合でロンドンの治安は悪化の一途を辿る。泥棒は日常。

2022-12-30 22:10:29
リンク Wikipedia ジョナサン・ワイルド ジョナサン・ワイルド(Jonathan Wild、1683年5月6日洗礼 - 1725年5月24日)は、18世紀初頭に活躍したイギリスの犯罪者。泥棒の元締めにして盗品故買屋であり組織犯罪の先駆けともいうべき存在である。 当初はスリだったが、購入した保安官助手の役職を利用し、自ら盗んだ盗品を、第三者を装い被害者に謝礼と引き換えに返していた。 そして、この仕事をロンドンに拡大して盗品故買屋を作った。ワイルドは、ロンドン中の泥棒を恐喝して自分の言い値で盗品を買い取り、これを本来の持ち主に謝礼と引き換えで返した。

ボウストリート・ランナーズの誕生

エリザ @elizabeth_munh

「刑罰を厳しくしろ! 泥棒どもを吊るせ!」 重罰の威嚇効果は当時自明の物とされていたので、どんどん法律は厳しくなり、遂にスリや万引きでも死刑になった。なお、ロンドン郊外の道路を脅かす剽盗、ハイウェイマンはそれ以前から死刑だった。 しかしどんなに刑を厳しくしても犯罪は絶えない。

2022-12-30 22:13:40
エリザ @elizabeth_munh

最早民間の自助努力に任せるのには明らかに無理があった。こうして誕生したのが、ボウストリート・ランナーズ 劇作家にして小説家、ヘンリー・フィールディングによって設立された彼らは、イングランド初のプロの警察であり、泥棒を捕まえて得られる報奨金や、遺失物を取り返す代金に依存しなかった。 pic.twitter.com/Bn0jnKGvW0

2022-12-30 22:17:05
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エリザ @elizabeth_munh

設立当時、ランナーズは泥棒捕りから採用されていたものの、賞金に依存する泥棒捕りらと異なり給料が支払われており、高いモラルを保った 「迅速な通報と突然の追跡を心掛けよ。貧しい人の依頼も受ける」 フィールディングは捜査に民間人を巻き込んだ。誰でも頼って下さい。代わりに、捜査にご協力を

2022-12-30 22:22:12
エリザ @elizabeth_munh

ランナーズは高い効率性を示し、ロンドンの犯罪率は減少を続ける。6人から始まったランナーズは50年後には68人を数える。ヘンリーが亡くなった後は弟のジョンが後を引き継いだ。ジョンは盲目だったものの、3000人以上の犯罪者の声を聞き分けることができたと言う。 pic.twitter.com/wpCVYkZQD3

2022-12-30 22:25:35
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エリザ @elizabeth_munh

ジョンは週刊紙を創刊し、犯罪に関する情報を掲載して人々の防犯意識を高揚させ、手口などを共有させる。こうして警察のない街ロンドンの治安を彼らは守り続けた。 1820年、彼らは歴史に残る大捕物を成し遂げる。クーデターを目論むグループを一網打尽にしたのだった。

2022-12-30 22:30:08
エリザ @elizabeth_munh

ナポレオン戦争終結後、革命思想に触れた人達は社会不安や不況から先鋭化し、反乱の機会を伺う。中でも過激なグループである『公安委員会』は閣僚達を皆殺しにして政府を転覆させ、急進的な革命を成し遂げるためのテロ計画を立てる。 ランナーズはいち早くこの情報を掴んだ。

2022-12-30 22:33:41
エリザ @elizabeth_munh

「まだこちらの事は勘付かれていないはず。すぐに襲撃するか?」 「いや、物証に乏しい。それに取り逃がす可能性もある。泳がせろ。それと……。あの手で行け」 ランナーズは密かに公安委員会を監視する。 一方、公安委員会は大胆な計画を立てる。

2022-12-30 22:36:14
エリザ @elizabeth_munh

「同志たちよ、閣僚襲撃の件だが、同志エドワードが素晴らしい情報を持ってきてくれた。来る2月23日、会合のために全閣僚が集結するらしい。この機会を逃さず我らは奴らを討ち、革命の狼煙とするのだ!」 リーダーのシスルウッドは1818年にも革命騒ぎに参加した筋金入りの反体制だった。

2022-12-30 22:39:01
エリザ @elizabeth_munh

一味には新入りの革命家であるエドワードがいて、シスルウッドはこの男に全幅の信頼を置いていた。気が利いて優秀でよく頭が回るし裏社会にも通じている。オマケにどこからか資金まで調達してくれるし、組織にはなくてはならぬ人間だった 「まったく、大事を前にこんな男と知り合えるとはツいている」

2022-12-30 22:41:36
エリザ @elizabeth_munh

しかし一味の中には疑問視する者もいた。 「出来過ぎじゃあ……。あれだけ優秀なら表社会でもやってけるのに何で」 しかしシスルウッドが信頼するので何も言えず。やがて彼らは襲撃の日を迎える。ご丁寧にその日の新聞は確かに会合がある事を報じていた。 「予定通り決行するぞ!」

2022-12-30 22:43:21
エリザ @elizabeth_munh

計画にはエドワードが大きく関わっており、侵入ルートもエドワードが調べた。ねぐらの手配もエドワードがやった。至れり尽くせりだな、と思ったところでシスルウッドは気づく。 エドワードにまるで誘導されてるようだ。 ふと振り返るとエドワードがいない。 「罠だ! 戻れ!」

2022-12-30 22:45:25
エリザ @elizabeth_munh

「動くな! ボウストリート・ランナーズだ!」 エドワードはランナーズの潜入捜査官だった。会合は偽情報で、届けられた新聞も偽物だった。 「くそっ! 図られたか!」 一味の半分は抵抗し、半分は震え上がって降伏する。シスルウッドは最も激しく反抗して警官一人を斬り殺した。 pic.twitter.com/sp650CXtX7

2022-12-30 22:47:33
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リンク fuguja.com カトー通りの陰謀
エリザ @elizabeth_munh

シスルウッド達は拘束され、大逆罪で裁かれる。ランナーズはクーデターの未然防止と言う大捕物を成し遂げた。 しかし19世紀、産業革命の成果がイギリスに行き渡り、ますます発展するロンドンにおいて、ランナーズも流石に力不足となる。更に大きな規模の治安組織が必要とされた。

2022-12-30 22:50:06

ロンドン警視庁が設立