魂魄悪鬼という邪念を棄てられないのだ

アイゼン(本垢) @aizen_423

「ぬぅ……！」「けへっ…存外に器用な御仁ですね」笑いを含んだ声が届く。嘲りとも本気で関心しているとも、どちらとも取れる声音だった。「魂魄流が一芸、霞返し――誇る程の技では無い。同等の技術ならそちらにもあるだろう――、一刀流の射命丸文」「へっへ……目利きも大したモンで」　#魂魄悪鬼

アイゼン(本垢) @aizen_423

「これだけ立ち合えば、太刀筋の一つ二つは読みとれる。増してそれが、日の本に冠たる名流なれば」「恐れ入りました。しかし妙なことをなさる……今の一刀、斬りきればお手前の勝ちだったじゃありませんか。私は今頃滝壺へ真っ逆様――どうして、そうされなかったので？　半霊の旦那」　#魂魄悪鬼

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「っ……そちらこそ。何故いたずらに勝負を長引かせる。この数合、俺を斬り落とす機会など一度ならずあった筈だが？」「へ、へ、へ……いやなに、『確かめたかった』んでね……」「何をだ」「けぇけけけけけ！ひぇっへへへへへへへ！！」「……」　#魂魄悪鬼

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「そもそも何故ここにいる。何故俺を襲う。新聞記者から、白狼天狗を主軸にした警備部隊に転属したワケではなかろう。先日の意趣返しか？」「別にそれでも構いませんがねェ……へへ、旦那には私が借りた物を返すような律義な天狗に見えるんですか？」「では、天魔の命令か？」「……さて」　#魂魄悪鬼

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「天魔の『統治政策』を、俺が妨害したから――始末にきた、ということか？」「さぁて。なんのお話やら――」「犬走椛」「……」「姫海棠はたて――天狗社会の高官でもない彼女らが曰くつきの業物を所持していたのは、何故だ」 #魂魄悪鬼

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「お前の両手が、天狗の蔵から刀を持ちだし彼女らに受け渡したからではないのか、射命丸文」「……へっへ、参りましたね。はたてのやつ、くたばる前にだいぶん余計な事を喋ったようだ――」　　はたて「ちょ、ちょっと！わたしは死んでないわよ！！」　#魂魄悪鬼

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「いや、ね。大した工作をしたわけじゃありませんよ。河童がここらで兵器研究をしてるって情報を、いくらか脚色してそちらへ流しただけで。桜色云々ってのを強調しときゃ、餌になるんじゃないかってね……結果は、まぁ案の定」「……」 #魂魄悪鬼

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俺が西行寺幽々子を追っていることは、姫海棠はたてと繋がっていたこの女ならば知っていても不思議ではない。そこに罠を張られていたか――「妖怪山の警備力が俺を殺せばよし。俺が河童の兵器研究を潰しても、それはそれで万々歳」 #魂魄悪鬼

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「あるいは俺の方があの怪物に潰されるかもしれないが――それでもお前は何も困るまい」「へっ。まぁそうかもしれませんが…そちらさんにとっちゃ別に私が先でも構わないんじゃないですかい？」「いや。あの怪物は胎内に監禁した人々を燃料にして動いている。彼らを急ぎ助けねばならない」　#魂魄悪鬼

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「どちらに転んでも、高見の見物の天魔は濡れ手で栗の丸儲け……そういう腹か」「へっへ――」 #魂魄悪鬼

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「――ならば何故でてきた？射命丸。俺があの怪物と決着を付けるまで、見物を決め込まなかったのは何故だ」「……」「その方がそちらにとって都合が良かろう。ここは退け、射命丸文」「はァい？」「逃げはせぬ。あの怪物を仕留めた後、お前の相手をするとしよう」 #魂魄悪鬼

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「へ、へ、へ……大した正義感ぶりで」「どう解釈しようが構わない」「いやいやァ、そうとしか解釈できませんねェ……って、なると――私は悪玉の用心棒ってワケだ！」「射命丸――ッ！」　#魂魄悪鬼

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「へェヘェヘッ！助けに行きたいなら、私をどうにかしないといけませんねェ！」「ッ」何故だ。この女は、何を考えている？単なる利害だけではないというのか？俺を襲うのは――　いずれにしても。「く……」太刀を取り直す。遺憾ながら、ヤツの云う通り。やはり、斬り破る他に道はない！ #魂魄悪鬼

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「へぇ、へへ……半霊の旦那、あんたに私を殺せますかねぇ」「退かぬならば……斬る」「半霊の旦那ァ……私は、『殺せるか』ってェ、言ってるんですよ」「何…？」「今のところ、旦那の切先にはちぃとも殺気が乗っちゃおりませんが…？」　 #魂魄悪鬼

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「……無用の殺生は戒めるべき事。当然の心得だ」「そうですか……。けど、今はそうも言ってられないんじゃないですかねえ？――殺す気でやらなけりゃ、いつまでもここに釘付けですよ？」「……」「私を――殺しますか？」　#魂魄悪鬼

アイゼン(本垢) @aizen_423

太刀を体制、飛行中段に構える。射命丸の構えは右上段。妖忌（こちら）の下段へ斬り抜ける様に動く射命丸の機先を、更に潜り込んで封じる。封じ、封じられ――競り負ける。我が下方を奪取する敵の軌道。封じられた――その刹那には、俺の太刀は中段から下段へ下り、更に走っている。 #魂魄悪鬼

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「カカッ……」刃先が――指す――『首筋』を。「なっ――」あろうことか。射命丸は上体を僅かに捻り、迫る刃へ首を晒していた。このまま俺が斬り込めば射命丸は死ぬ。殺してしまう。俺は咄嗟に刃を踏みとどめる。瞬間、射命丸の嘲笑が木霊した。「カカカカカカッ！！」「ッ何を――！」 #魂魄悪鬼

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辛うじて、間に合った。苦悶の呻きと共に、声を絞り出す。「何の、真似だ！？」「駄目だァ！殺せねェ殺せねェ殺せねェ――ッ！」侮蔑、嘲笑、玩弄の叫びが夜天を割る。「ヘッヘェ！ヘ、ヘヘヘヘ！やっぱアンタは英雄の器じゃないわ！覚悟が足りないわ！駄目だ、駄目だァ！」 #魂魄悪鬼

アイゼン(本垢) @aizen_423

「……先刻、口にしたな。確かめたと。俺の何を確かめたと云う、射命丸文」「いやァ、なに。アンタがね、くっだらねぇ半端者だって事ですよ」射命丸の嘲笑は続く。 #魂魄悪鬼

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「嫌なんでしょう？私を殺すのが嫌なんでしょう？だって、ねぇ……私を殺したら、もう一人、罪なき人を殺さないといけないもの――ねェ？」「ッ！？　な――何故おまえがそれを！」 #魂魄悪鬼

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「見たんですよ。あの日、あの夜、あの一軒家で。――アンタが秋神の姉妹を二人、泣き喚きながら殺すのをねェ！」「……！！」「なんでアンタみたいな野郎があんな真似をしたんだか、わけがわからなかった……だから、調べたんですよ。アンタの持つ楼観剣ってツルギのことを！」 #魂魄悪鬼

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「そっちの方の文献を集めている坊さんに心当たりがいたんでねェ………そしたら、一個だけ。それに符合する伝承が見つかりましてね――呪いが、あるんでしょう？そのツルギには」「………ッ！」 #魂魄悪鬼

アイゼン(本垢) @aizen_423

「……ねぇ旦那。なんで山奥にでも引き篭もったりしなかったんですか？そんな厄介な呪いを抱えて、なんで世間をうろつき回ってるんです？」「……ッ、それは」「け、けけ……呪われた刀を使ってる癖に、やってることは悪党退治。ケケ！半霊の旦那、貴方は一体なにがしたいんですかァ？」 #魂魄悪鬼

アイゼン(本垢) @aizen_423

「悪党どもとやりあう為に、兎に角強い刀が欲しかった？沢山の人を救う為なら、多少の犠牲も止む無し？……いいですねェ、そいつは正義の英雄だ。でも英雄だってんなら、もっと堂々としなきゃいけませんよ」「貴様……」 #魂魄悪鬼

アイゼン(本垢) @aizen_423

「それとも人殺しが好きなだけか？いいですねェ、そいつは悪鬼ってやつですよ――でも悪鬼なら、もっと嬉しそうに殺さなきゃねェ……！」「黙れと……」 #魂魄悪鬼