【冬の卵】福間健二 #k2fact352

福間健二 @acasaazul

出足のわるい調査班の先まわりをして、気温は零度。過去のものである使いつくされた肉体も、スノードロップの可愛らしい花に迎えられる。何も舐めずに橋をわたると地面に凍結防止のカルシウム。どんな善人が何を犠牲にしているのか。取扱注意のラベルテープをもつ手が見える。（冬の卵１）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

手を使う前に体全体を移動させる。客観的な矢印のとどかない場所。泣くんじゃなくて鳴くのだと自分に言い聞かせる。あるだろうか。実は、とことわるまでもなく、冬のものであるまぶしい青色を修正して歩む方向に。育ってはいけないもの。ナイフで引き裂かなくてはいけないもの。（冬の卵２）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

この体、この手には、なぜか反応してくれない自動ドア。企みをもって広がる円、その外に螺旋を描いて進行する物語に沿って寒い岸辺に出ればいいのだろうが、いやだな。円じゃなくてもなんでもその中心にきらわれる。それを意識するたびに模様を失って交尾する動物を見てしまう。（冬の卵）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

泣かない。笑わない。そういう赤ちゃんたちのことがニュースになって、肉屋で彫刻家でもある人のことはだれも話題にしない。包帯を巻かれた動物のしていること。傷ついた粘膜に生じる血豆とかは放っておけばいいが、恐ろしいのは匂いの変わった地区。そこからは何も成長しない。（冬の卵４）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

もうすぐ七十四歳、素晴らしきかな人生と言わせない鏡のつめたさと汚れには擦り方の作戦を練っているが、注射器の針を慎重に扱えない。ひとつの危機を回避したうれしさから大きな失敗をする。待つのはずっと苦手。「弱」にできるものに両手で感謝して羽が散乱しないようにする。（冬の卵５）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

精神と肉体。どちらも映る錯覚の鏡を割るまでもなく、風吹くサイクリングロードの下に降りて避けたいのは甘い香りのする木に囲まれる夢。右手と左足に不安のある老人が正面から入ってくる。手足の痛みとかどうでもいい。問題は若いときに匿った悪魔がおとなしくならないことだ。（冬の卵６）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

解けない問いという大きな卵のなかにある影をどう人間と椅子に分裂させるか。靴下を脱ぐのにかかった時間をとりかえすように走って、子ども時代からの愚行の波紋をひとつひとつ追い抜く。力を入れると痛い手。それ、何に触るのにもそっと触るやさしい手になってたらいいけどね。（冬の卵７）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

柵のむこうの細胞分裂。水と闇、喘ぎながらでも生きている自分のものにできる。手の指に血を戻す赤ワインの効用でゲームは終わり、柵によりかかって自分を哀れむ人たちの時間との境界線をどう引くかという現実の到着だ。なぜと訊かれてぼくは答える。そうならないはずないんだ。（冬の卵８）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

外に出る列に入るのをためらい、痛い手で湿った布をつかむ。部品がねじれる階段の、反響する足音のために終わらない夢だとしよう。その奥に自分を誘拐する。認める者は少ないけど、みんなそれをやっている。思い出しておこう。冬なら卵は、五十七日間、生で食べることができる。（冬の卵９）#k2fact352

福間健二 @acasaazul

白い椅子、さっきまで座っていたもうひとりの自分を巻いていた包帯、痛みを中心におかない円がそこから。昔の歌を口ずさみ、タバコを吸って、生きていることを確かめる。解剖の必要なんかないということだ。だとしても、I'm just a lonely boy、明日には涙わすれて卵ごはんさ。（冬の卵10）#k2fact352