ジャック=ラカン

ジャック=ラカンの構造主義的な精神分析
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@EmileLacann

言語とは、人間が自分の頭に思い描いているもの、すなわち想像的なもの(仏:l'Imaginaire)を他者と共有しようとしたり、他者に伝達しようとしたりするために用いる象徴的なもの(仏:l'symbolique)であるから、言語は象徴界のものであると云える。

2011-10-28 22:20:13
@EmileLacann

いっぽう、社会はさまざまな人間がせめぎあう場であるがゆえに、無数の掟・契約・約束事などでできている。

2011-10-28 22:50:12
@EmileLacann

こうした掟は、象徴的な意味では言語で書かれているわけである。たとえば、不文律や「黙契」といった概念ですら、人間が言語を持たなければ存在しえない。また、掟を与えるのは象徴的な父である。

2011-10-28 23:20:13
@EmileLacann

ゆえに、上記の意味においては象徴界とは掟であり、父であり、言語であるといった図式が成り立つ。

2011-10-28 23:50:13
@EmileLacann

たとえば、ある大事件に遭遇した人々は、口々にその事件を語る。これは、その大事件という現実的なこと、もしくは現実界(仏:le Reel)を、言語という象徴界(仏:l'symbolique)を以って描き出そうとしているわけである。

2011-10-29 00:20:12
@EmileLacann

証言者Aは事件の決定的瞬間を語り、証言者Bは事件の背景に秘められた事情を語るなど、あらゆる角度から証言がなされる。

2011-10-29 00:50:12
@EmileLacann

これらを集めて「事件の全容を解明しよう」という動きが起こったりする。しかし、マスコミ用語としては耳に親しい「事件の全容」なるものは、実際には語り尽くされるのは不可能である。

2011-10-29 01:20:12
@EmileLacann

同じように、どうがんばっても言葉では現実そのものを語ることはできない。「言語は現実を語れない」のである。ところが同時に、人は「言語でしか現実を語れない」。

2011-10-29 01:50:12
@EmileLacann

これら二つの命題は、平板に見れば矛盾しているかのように聞こえるが、メビウスの輪のような立体的な論理として考えればそうでないことがわかる。

2011-10-29 02:20:11
@EmileLacann

ゆえに人は、より的確な言葉を探したり、より多くの言葉を重ねていくことによって、少しでも現実に近いものを描き出そうと奮闘する。この誠実さは評価される。それでも、言語活動=現実となる瞬間はない。これが象徴界と現実界が分かたれる一面である。

2011-10-29 02:50:12
@EmileLacann

すなわち、象徴界の参入という「言語との出会い」は、現実をラカンのいう「不可能なもの」(仏:l'impossible)に変える。

2011-10-29 03:20:13
@EmileLacann

われわれは一生、それに対する抵抗とあこがれの間で揺れ惑う。しかし人が事故的に現実を垣間見たり、現実に触れたりすることがある。その一形態が精神病である。

2011-10-29 03:50:11
@EmileLacann

いっぽう想像界(仏:l'Imaginaire)は、たとえば「日常」「平和」「不幸」といった、人であれば誰しも漠然とイメージできるけれども、その正確な描写となると大変な労力を要するような、言語(象徴界)に縛られている世界であり、なおかつわれわれが思っているものから成っている。

2011-10-29 04:20:12
@EmileLacann

この想像界も、けっして現実界と一致することはない。

2011-10-29 04:50:13
@EmileLacann

上記のように、現実界・象徴界・想像界が分かたれることから、ラカン流に人間世界を解明していくことが可能となるのである。

2011-10-29 05:20:12
@EmileLacann

ラカンの理論は内容的にも難解ではあるが、それに加えて、語り口が逆説的で、晦渋な言い回しを多用している。今日、彼の理論の評価は二分されており、それを「疑似科学」とする見方もある。

2011-10-29 05:50:11
@EmileLacann

例えばジャック・ブーヴレスは、論理実証主義的な見地からラカンを批判している。

2011-10-29 06:20:12
@EmileLacann

またラカンは、自らの理論の解説のために数式風の表現を用いたが(彼はそれを「マテーム」と呼んでいる)、物理学者アラン・ソーカルらは、これが数学的には全くのデタラメなものであるとして、ラカンの数式風の表現は科学的な外観を装う粉飾だと批判した。

2011-10-29 06:50:11
@EmileLacann

現在、岩波書店から次々とラカンによるセミネール原本の翻訳が進んでいるが、実際の治療の現場では、正直なところラカンは有効活用されていない。臨床家としてはラカン派の臨床例の少なさから、実際の臨床には有効活用にしくいという部分がある。

2011-10-29 07:20:12
@EmileLacann

また理論自体、日本ではしっかりと研究されているわけではなく、主にその紹介が哲学者や人文学者などの、精神科医とは分野の異なる者が中心に取り上げている部分もあって、どうしてもラカン理論は哲学などの分野で魅力的に取り上げられるのが中心となっている。

2011-10-29 07:50:11
@EmileLacann

もちろん精神科医の中には精力的に研究する者もいるが、その内容自体も難解なままに留まっており、ラカン理論は臨床技法や治療理論としてよりも、人間を理解する一つの精神理論、もしくは哲学理論として重宝されているようである。

2011-10-29 08:20:14
@EmileLacann

実際のラカン理論の有効性証明は現在においても不明なままである。日本の精神科医にはフランス語に熟練した人間がそう多くないという事も一因となっているのかもしれない。

2011-10-29 08:50:13
@EmileLacann

現代の精神医学においては、精神分析はその臨床使用においては科学的再検証や妥当性がしっかりと求められるようになっており、日本における紹介や普及がそもそも少ない現在においては、精神医学ではほとんど本格的に使われていないのが現状である。

2011-10-29 09:20:13
@EmileLacann

その証拠として、臨床心理学や発達心理学の教科書では、フロイトや自我心理学、カウンセリング理論は頻繁に取り扱われるが、ラカンの理論そのものが有用な医学の理論として紹介される事は稀である。

2011-10-29 09:50:13
@EmileLacann

むしろ彼は人文学系の教科書において構造理論や言語理論との関係で取り上げられるのが常である。

2011-10-29 10:20:13
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