【創作企画】第12夜 徒桜のベール【リグレット・カレイドスコープ】

【創作企画】リグレット・カレイドスコープ @Regret_kaleido

「悪い、……どうしてまた、そんなこと思ったの。焔楽のことだから、根拠とかも無しにそんなこと言わないだろうけどさ…」

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「まー、根拠って言っても俺の主観？ってやつだけど〜…俺、あの夢には感謝してるんだよ。 あそこで兄さんの気持ちと向き合わなかったら、今もずっと兄さんの真似してたと思うんだよね。」

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「確かにあの夢はタチ悪ぃけど、あの天気の中で、大事な人と戦って…目も逸らせないくらい心ん中抉られて、そうまでしないと見えなかったものを見せてくれたんだ。 あの夢には散々な目に合わされたけど……… …同じくらい、救われてる」

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救われてる、という言葉に聖遥の眉がピクリと動いた。 あの日あれだけ心苦しい思いをして、現実でも悪夢を見せられて、結果的に夢の中の出来事が原因でずっと学校にも来られなかった日々のあった彼からは考えられない言葉だ。

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「……多分、これは…オレがまだ焔楽みたいに大切な人と戦っていないから余計に感じることかもしれないけど……真逆の意見だったから、その話聞いて少し驚いた。」

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「オレが色々言ってるのは観戦側になった時に聞かれてるかもしれないけど…救われていても、傷つけられている人がいることも事実だから。 …戻ってきたとは言え、人1人殺されてるのにってのがある。夢っていうのに、わざわざ現実まで干渉してくるから趣味悪いなって思ってたから…真逆の意見だなって」

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キリ、と手元の弦が音を立てる。いつの間にかぎゅっと握りしめていたようで、触れていた指先にその跡がついてしまうほどに。 聖遥の様子に少しだけ何かを考えた様子の焔楽。 椅子をギシッと音を立てて後ろに倒し、どこか遠くを見るように呟いた。

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「……まぁ確かに、全員に恥ずかしいとことか見せたくないモン見せびらかしてってやり方は気に食わないけど。 でもさ、そうでもしないと分かんない事とか、人ばっかなのは事実じゃん？ 実際見てみてよ、あの夢でちゃんと向き合えた人達はみんな、スッキリした顔して前向いてる。」

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もちろん俺もね、と静かに付け足して。 結果論ではあるが、向き合った人達は確かに、そうなっている。状況が好転した人間が大半だ。

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「どれだけ苦しくても……向き合わなきゃいけないことってあるんだよ、多分。 んでさ、向き合わなきゃいけない時に、独りだと潰れちゃうから……人集めて、あんだけお膳立てされてんのかな〜とか、思っちゃうんだ。」

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「……………………………」

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あの夜を乗り越えたからこそ、出る言葉だ。 それに至るのも、決して否定しきれることではない。 聖遥は、その言葉に俯く。

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「…向き合わなきゃいけないことがあるのは、理解出来る。 独りで向き合うのは難しい話だし…誰の助けも受けないで、色んなことを一気に見て…向き合うのは出来ないよ。」 pic.twitter.com/kM59W2TMeB

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でも、と小さく言葉を続ける。

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「お膳立て、はちょっと違うんじゃないかな…もっと最初からきちんとこの空間を準備しているなら、変な男がオレらに手を下してくるのもよく分からない。遥人さんの時に色々言ってたけど…最初からどうなるかが分かっていたのなら、もう少し違う方法があったのかなって。あんな回りくどい事しないでさ」

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「正直、オレ個人の意見としては黒幕に関しては許さなくていいと思ってるし、悪い人だと思ってる。 …とは言っても、意見を強要したい訳じゃないから…1つの意見程度に思ってもらえれば」

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そう言って、否定でも肯定でもない言葉を落とした。 微妙に沈んでいく声に耳を傾けつつ、まぁまだ何かしらを抱えているのだろうと推察している焔楽は首を傾げる。

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「……その言い方だと、聖遥は黒幕のこと、許したくないんだ？まぁ大方、そう思う人達ばっかりだと思うよ。 ただ何となく、聖遥はいつも冷静だから、客観的に聞いてくれるかなって思っただけ」

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「…ゆるせない、かな。 …冷静だって言うけど、これでも結構キツい時はキツいからね。 ただ、心が折れそうな時…奮い立たせてくれる人の存在が大きいことを知ってるから。その影響で冷静ぶってるだけだよ」

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自嘲気味の微かな笑みを浮かべて、聖遥はそう答えた。彼にしては、少し珍しい。

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焔楽はその様子を横目で見ながら、「ふぅん」と軽く返すと「あ」と何かを思い立ったように足を床につける。 ガタン、と椅子の脚の音が音楽室に響いた。

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「……そーいえば、その…なんだっけ？俺その変な男ってのに会ったことないんだよね。みんなが話してるのは結構聞くんだけど……」 「あの男ね……話聞く分には厄介だし…大分気持ち悪いなとはオレも思うけど…そんなヤツ、会わない方がいいでしょ」

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「そっか。 ……うん、…やっぱ偉いよ、聖遥。俺も……」

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務めて冷静でいようとしている聖遥の言葉を思い出して、つい口に出る。 聖遥みたいになれたらいいのにな。と言いかけて、口を噤んだ。誰かの虚像に頼るんじゃなくて、いい加減自分の言葉で話さなければ。

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「……聖遥がしんどい時とか、キツい時でも、ちゃんとそう言ってよ？俺だって、今なら聖遥を支えることくらいは出来るんだからさ…………多分」