- rouillewrite
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ここ最近の頻度からすると珍しいこともあるものだと思いながら、西棟の廊下を歩くのは神薙焔楽である。
2023-04-02 21:09:56今は放課後。 彼が向かう先は音楽室だ。 軽音部である彼は、家の旅館の手伝いがなければ練習に参加して楽器に触れていた。
2023-04-02 21:10:48楽器だけ持ち出して空き教室か部室で練習するか、誰もいなければそこで、などと考えながら音楽室の扉を開く。 ガラガラと音を立てて開いた引き戸の先には、ひとつの人影が見えた。
2023-04-02 21:13:07扉の音に驚いたのか、背を震わせてこちらを見つめてきた大きな空色の瞳。 学校にあるにしては珍しい大きなハープをしっかりと持ち直して、西音寺聖遥が問いかけてきた。 準備中だったようだ。
2023-04-02 21:15:00焔楽は首を横に振り、淡黄色の袖を揺らしながらゆったりとした仕草で音楽室へと足を踏み入れる。
2023-04-02 21:16:10そのまま椅子に座った焔楽を見て、(見学するつもりかな)などと考えつつ、聖遥は準備を進めていた。
2023-04-02 21:17:37「…まぁ、バタバタしてて俺も練習出来なかったから来ただけだし…好きに見てていいよ」 「お、さんきゅ!」 「…それにほら。夜、練習は出来る気分になれないし」
2023-04-02 21:19:38「…そーだよな〜。太陽さんが帰ってきたから良かったけど、毎晩……朝もか、寝顔見る度吐きそうで何も手につかなかったもん。気分が乗ってるうちに練習すんのがいーよ」
2023-04-02 21:19:54焔楽は椅子を前後にガタガタと揺らし、呑気にそう答える。そんな彼を横目で見つつ、聖遥は弦を少し引きながら俯いた。
2023-04-02 21:21:20「…そりゃあ、目の前であんなの見せられて、怖くならない方が無理な話だろ。しかもその後、偽物?みたいなのが出たりしてるんだから…… 焔楽が言うように、出来る時に練習はするべきだよな。腕も鈍ってくる」
2023-04-02 21:22:46「偽物は別に…太陽さんじゃないならどーでも良かったけど。……まぁなんにせよ、生きてて良かったよかった。おかげでこーして穏やかな気持ちで聖遥と話せてるしね〜」
2023-04-02 21:23:08そうして、椅子に腰かけたまま、焔楽はぐ…と身体を伸ばす。少し間を置いて、弦が小さくキリ、と音を立てるのが聞こえた後、彼は小さく口を開いた。
2023-04-02 21:24:25「……────俺、あの夢に俺ら連れて来た奴、完璧な悪者だとは思えないんだよね」 「…………は?」
2023-04-02 21:26:41穏やかな気持ちと言っていた彼が続けた言葉に、反射的に聖遥の口から疑問の言葉が飛び出す。 困惑したような表情で顔を上げ、揺れるように微笑む彼を見つめた。 一呼吸置き、言葉を選びつつ問いかける。
2023-04-02 21:28:57