稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.04.27)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、店が終わって、外へ出たらば、 朝から雨が降っていたっていうんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

しょうがないからタクシーに乗って、 自分の家に帰ろうと思ったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

タクシーがロアビルの横のところの道をずっと、走っていると、 雨の中に女の人が立ってたんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

手を挙げて、タクシーを待っているらしいので、マスターが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「運転手さん、ちょっと方向聞いて。 同じ方向だったらさあ、乗っけてってやろう。 かわいそうだからさ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「そうですね」って。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

まだ、人が六本木の街を歩かないような時間帯ですから、 タクシーもつかまえにくかったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

道を聞いたら、同じ方向なんで、 「じゃあ、お乗んなさい」って、言ったらば、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「すいませ〜ん、お世話になります」 って乗ってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

初めはおしゃべりしていたんですが、 徹夜でお店をやっていたんですから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

マスター疲れてますからねえ、 うつらうつら寝ちゃったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だいぶ走ってからでしょうかねえ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「運転手さ〜ん」 って言って、マスターは、フッと目が覚めた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「はい」 って運転手さんが言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あら、あの子どこで降りたの？」 って、マスター、聞いたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「はあっ？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ほら、乗った女の子、どこで降りたの？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうしたら、運転手さんが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ええっ、乗ってますよ」 って言って、ヒョイと顎でしゃくった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

バックミラーには、 ちゃんとマスターの隣に座ってる女の子が映ってたそうですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ところがね、マスターの横には、 誰もいなかったそうです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「運転手さん！いないぜ女の子！」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って言った瞬間、運転手さんが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「うわっ！」 って、急ブレーキ踏んだっていうんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

マスター、「いやあ、恐かったなあ」 って言ってましたねえ。