三国志こばなし集 2023年5月号

三国志こばなし集 @omikanboy3594

関索「花関索参る！」 孫「さあこい！」 夏(敵わないなぁ…) 劉「…」 孫「覚悟！」 索「やられた！」 孫「参ったか！花関索！」 索「むむむ…」 孫「なにが」 夏「尚香！」 孫「なに？」 夏「阿斗様が何か言いたそうだよ？」 孫「どうしたの？」 劉「あの…」 孫「？」 劉「いい子いい子！」 孫「…」

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夏「すごい器ね！阿斗様！」 孫「…」 夏「男の子たちをやっつけた尚香を手なづけちゃった！」 孫「…そうかもね」 娘「反省しなさい！男の子！」 興「次は負けないぞ！」 苞「燕人張苞！必ず勝つ！」 索「花関索だって！」 孫「修行しなさい！」 夏「すっかり懐かれちゃったね！」 孫「…そうかな？」

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孫尚香…もしかして、ここにも私の居場所ってあるのかな？ 夏侯氏…ごめんね、尚香… 関興…自慢の自作美髯が立ち合いの邪魔になっていた。 張苞…尚香の弓の腕前にびっくり！ 関索…花関索の花を選んでもらった。 張氏…私のお姉さんになって！尚香さん！ 劉禅…優しさとここぞの胆力は一番かも。

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劉備「…じゃあ俺らが益州に入る手筈は済んでるんだな」 法正「はい。間違いなく劉璋は、あなたを歓待することでしょう」 劉「…なんだかなぁ」 龐統「気持ちは分かるがね、劉備殿」 法「もうあなたがお持ちの情とやらは全てかなぐり捨てなされ」 劉「法正」 法「あなたの情は、もはや無意味なものだ」

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関羽「法正！」 張飛「てめえ！言って良いことと悪いことが」 孔明「聞きましょう。お二方」 法「あなたたちの情がこの乱世で意味あるものだったのならば、既にあなたたちは結果を残しておられるはずです！」 趙雲「我らの戦働きの評は、結果ではないと申すのか？」 法「その通り」 簡雍「おいおい…」

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劉「聞かせろ」 法「あなた方が今まで売りとしていた人徳とやらは、用途を全く誤っていました」 劉「で？」 法「人徳や情とは、きちんと統治する領土や民があった上で意味成すもの」 劉「…」 法「それも定かでないのに情をかけた戦をし続けていたからこそ、今の今まで、あなた方は駄目だったのです」

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劉備…腹は立つがその通りかもしれねえな。 関羽…我らの今までを無駄と申すか！ 張飛…だが俺らのやり方にゃ限界はあったよな… 簡雍…賢い人はすげえや… 趙雲…ここまで直言を言う者は初めてだ。 孔明…私ではもち得ぬ毒をもった男だな… 龐統…直言も過ぎたら毒だけど、言う必要もあるんだよねえ…

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法正…劉備らの能力は十二分に認めているが、不要すぎる情を持ち過ぎたが故に、ここまで確かな領土を持ち続けることが出来なかったと結論づけた。

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劉備「…」 孫尚香「どうされました、旦那様？」 劉「…」 孫「旦那様！」 劉「おう…尚香ちゃん！」 孫「ぼんやりとされて、どうしたの？」 劉「…なんでもねえよ」 孫「…」 劉「…」 孫「嘘つかないでよ」 劉「…」 孫「やっと私、ここに来て自分に正直になれたんだから」 劉「…すまねえな、尚香」

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孫「私に話したくない、話せないことがあるの？」 劉「…」 孫「…分かってるから」 劉「てえと？」 孫「…旦那様の立場だったら、私に話せないことが沢山あることなんて、分かってるんだから」 劉「…」 孫「でもね、旦那様」 劉「…」 孫「それは、寂しいの」 劉「尚香」 孫「寂しいの！旦那様！」

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劉「…」 孫「お爺ちゃんも陳到師匠も最近変なの！」 劉「…」 孫「まるで、私と稽古できるのが今日で最後みたいな風に、いつも本気の稽古をつけてくれるの！」 劉「…」 孫「それは嬉しいよ。とても嬉しい」 劉「…」 孫「だけど、その理由が分からない…」 劉「…」 孫「それが私は凄く寂しいの！」

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劉備「…あのじゃじゃ馬のお転婆が、こんな俺らのことを考えてくれるようになるなんてな」 孫尚香「それ私のこと？」 劉「当たり前だ！おめえがここに初めて来た時、なんて言ったか忘れてねえぞ！」 孫「…ごめんなさい」 劉「それはもうとっくに許したじゃねえか、尚香！」 孫「…」 劉(…言わねえと)

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劉「俺らは益州に行かなくちゃならねえ」 孫「え!?」 劉「周瑜らが戦する前からよ、俺らは益州の連中と仲良くしてたんだ」 孫「…」 劉「周瑜が死んじまって気の毒だとは思うが、それが俺らにはありがたくてな…」 孫「…それが、乱世なの？」 劉「ああ。俺らだって周瑜と美味い酒を飲みたかったさ…」

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孫「…」 劉「だがよ。このまま荊州の端っこでのんびりできるほど、俺らは楽できねえのさ」 孫「…」 劉「俺は益州に呼ばれててな」 孫「…」 劉「建前は益州の援軍で行くんだが」 孫「…」 劉「もう俺だって、まあまあな歳だからよ…」 孫「…」 劉「俺らで益州をぶん奪らせてもらいに行くぜ、尚香」

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劉備…初めて来た時にゃ、ここまでの娘になるなんざ思ってなかったんだがよ… 孫尚香…こんな運命って本当にあるんだな…

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劉備「…言っちまった」 孫尚香「旦那様…」 劉「なあ、尚香」 孫「はい」 劉「本当はこの事な。誰にも言っちゃいけなかったのさ」 孫「え？」 劉「新しい軍師に情なんざ全部捨てちまえって言われたばっかだったんだがよ」 孫「…」 劉「やっぱりそれ、俺には無理みたいだわ、尚香…」 孫「旦那様…」

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劉「そいつの言うことも痛いほど分かるのさ、尚香」 孫「…」 劉「その情のせいで、今までの俺たちは全部失敗しちまってたんだ」 孫「…」 劉「だから今度の益州行きは俺にとって、最後の最後の機会なんだな」 孫「…」 劉「こればっかりは、お前の仲謀兄貴にも、持っていかれるわけにゃいかねえんだ」

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孫「…」 劉「俺は益州に行く」 孫「…」 劉「もちろん尚香は連れて行けねえ」 孫「…」 劉「お別れする時は、きっと一生のお別れになっちまうだろうな」 孫「…」 劉「俺は尚香に酷えことを」 孫「もういい！旦那様！」 劉「…尚香」 孫「もういいから…私が諦めるしかないのなら、それでいいから…」

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劉備…こんな時にどうすればいいのかを知らずにここまで生きてちまったてめえを、許せねえよ、俺は。 孫尚香…涙が止まらないが、その涙は何による涙なのだろうか。

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孫尚香「…それが、この乱世で女として産まれてしまった宿命なんでしょ？」 劉備「…」 孫「ねえ、旦那様」 劉「ああ」 孫「もうね、何も言わなくて、大丈夫だから」 劉「…おう」 孫「私を、抱きしめて」 劉「当たり前だ！」 孫「もっと強く！」 劉「こうか！」 孫「全然足りない！」 劉「ギュッ！」

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孫「…」 劉「…」 孫「…もういいわ、旦那様」 劉「どうだった？」 孫「もう充分！」 劉「なにい！」 孫「私の国には、もっと上手で素敵な抱きしめ方をしてくださるおじ様がいらっしゃるんだから！」 劉「けっ！」 孫「…でも、これが旦那様なのよね」 劉「あ？」 孫「知らない！」 劉「俺だって！」

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孫「じゃあ稽古に行ってくるわ！」 劉「尚香」 孫「誰にも言うわけない」 劉「…」 孫「私を舐めないで、劉備玄徳」 劉「強くなったな、孫尚香」 孫「あなたたちの所に来れたからよ」 劉「…そうか」 孫「私の国と戦になった時は覚えてなさい！」 劉「ほう？」 孫「あんたを弓でぶちぬいてやるから！」

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劉備…こりゃとんでもない女将を鍛えちまったかもしれねえな！ 孫尚香…黄忠の稽古も陳到の稽古も今まで以上の力を発揮して挑んでいる。

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孫尚香「今日の稽古は…」 黄忠「奥方様」 陳到「お話が」 孫「…はい」 黄「今日をもって、我らの稽古は終いとなります」 陳「急なことですが、ご了承を」 孫「分かりました」 黄「…」 陳「…」 孫「その代わり、最後に相応しい稽古になるのよね？お爺ちゃん、師匠？」 黄「無論」 陳「覚悟されよ」

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黄「わしの最後の稽古は十発十中の会得」 孫「はい！」 黄「もうわしは何も言わん」 孫「…」 黄「今までの修行の成果、全て発揮して見せよ！」 孫「はい！」 黄「定刻までに出来ねば、腕の腱を斬る」 孫「…」 黄「その覚悟があるか？」 孫「言うまでもないわよ！お爺ちゃん！」 黄「やってみせい！」