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日本の水族館をめぐる論点2023

2019年にまとめた日本の水族館をめぐる論点から早くも4年ほど経過したので、ここ4年間の環境変化を踏まえて「日本の水族館をめぐる論点2023」をまとめました。 なお、全5回を端的にまとめると、コロナ禍での環境変化は、これまでくすぶっていた水族館の経営問題を顕在化した一方、歴史的に新陳代謝は繰り返され、常に新たなスタイルの水族館が誕生している。機能発揮を前提に、資金を集め、生き物や従業員にも回る仕組みができるかが問われている、と考えます。 ちなみに前回の「論点2019」は以下のURLよりどうぞ。 https://togetter.com/li/1371108
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Harasawa.K @AaarcherK

2019年にまとめた日本の水族館をめぐる論点から早くも4年ほど経過したので、この4年間での環境変化を踏まえて「日本の水族館をめぐる論点2023」をまとめます。経営的な観点を基本に、5つのテーマで徐々に投稿し、最終的にtogetterでも整理します。水族館のことを考えるきっかけになれば幸いです。→

2023-05-05 17:04:10
Harasawa.K @AaarcherK

論点1:日本の水族館の数は多いか まずは、これまでも度々話題になってきた「水族館の数」の問題を考える。コロナ禍では、緊急事態宣言から始まる度々の営業自粛などにより、一時は全国全ての水族館が休館を余儀なくされるなど、水族館の経営は大きな影響を受けた。 (参考aquarium-japan.jp/covid19-aquari…

2023-05-05 17:06:26
Harasawa.K @AaarcherK

収入が閉ざされたことで財務的な過去の蓄えは削られ、漫然と経営の継続が危ぶまれていた施設にとって、先行きの見えない経営環境は撤退の判断を後押しすることとなり、特に志摩マリンランドや油壺マリンパークなどのメジャーな「老舗」水族館が姿を消したこともインパクトの大きな出来事だった。

2023-05-05 17:08:54
Harasawa.K @AaarcherK

大規模施設以外にも、ヨコハマおもしろ水族館や山方淡水魚館の他、今後予定される丹後魚っ知館やマリホ水族館の閉館や東海大学海洋科学博物館の有料入館終了、むつごろう水族館の当面休館、カワスイの民事再生なども実質的な閉館の流れで、コロナ禍で惜しまれながら姿を消した水族館も記憶に新しい。

2023-05-05 17:09:52
Harasawa.K @AaarcherK

一方、コロナ禍では四国水族館、DMMかりゆし水族館、カワスイ、アトア、スマートアクアリウム、フォーチューンアクアリウムなどの新スタイルの水族館や、幼魚水族館、びわこベース、みなとやま水族館など小規模ながら独自の水族館も登場しており、今年は札幌でのAOAO SAPPOROも控えている。

2023-05-05 17:10:42
Harasawa.K @AaarcherK

こうした閉館・開館の動きは、水族館の新陳代謝でもあり、歴史を振り返ると、数多くの水族館が姿を消してきている。開業から50年を超えるクラスは珍しいが、閉館数としては極端に多いわけではない。コロナ禍での水族館の数の増減は、むしろ水族館の代謝力を再認識する事象と言えるかもしれない。

2023-05-05 17:12:08
Harasawa.K @AaarcherK

傾向として、デジタル技術を活用し、展示の視覚効果を高めたり(DMM、カワスイなど)、双方向的なコミュニケーション(アトア、フォーチューンなど)などを取り入れており、居抜き物件や商業施設内の設置など必ずしも長期的な事業継続を前提にしない「フットワークの軽い」水族館も散見される。

2023-05-05 17:14:24
Harasawa.K @AaarcherK

また、大型リニューアル(新設という方が適切かもしれないが)となる「神戸須磨シーワールド(仮)」は、シャチの扱いや比較的高額な料金などが大きな論争となった。2024年開業に向け動物福祉や飼育の意義、自治体財産の活用方法、ユニバーサルサービスなど様々な視点から引き続き動向が注目される。

2023-05-05 17:14:58
Harasawa.K @AaarcherK

こうした動きの中で、日本に水族館は「多すぎ」だろうか?施設が多ければ利用機会が増え、経済を活性化させ、競争が新たな価値が産むと考えられる一方、激しい競争は集客目的で「エンタメ化」しやすい、競走のために経営資源を割かれてしまい「本来のコスト」が不十分となる、ことなどが懸念される。

2023-05-05 17:16:21
Harasawa.K @AaarcherK

ここでの示唆は、単に展示の魅力があれば「教育」は不要だとか、来館者数が多いことが水族館の価値を決めるなどの考えは安易であって、水族館の存在意義も自然発生するものではなく、定量的・定性的に評価すべきということだ。数の多い少ないの前に、まずは現状理解を深めることが大切と考えられる。

2023-05-05 17:16:53
Harasawa.K @AaarcherK

ここでは論点の提示なので、多いかどうかの結論を得るわけでは無いが、ここ数年での水族館の増減や話題を振り返り、歴史的な意味や注目すべき視点を得た。 次に、施設としての数の問題とは別に、これを利用する来館者の数という観点から、論点2を考える。 ひとまずこのツリーは終わり。

2023-05-05 17:21:44
Harasawa.K @AaarcherK

前回から続く連投です。 論点2:意義が薄まる来館者の数 まずは利用状況を振り返る。水族館の来館者は2010年代中盤から年間3500万人の規模となっていたが、コロナ禍の大幅な来館者数の減少により、以前の半分程度にまで落ち込んでいる。 (コロナ禍の影響考察はこちらも参照aquarium-japan.jp/covid19-2020/

2023-05-13 14:26:48
Harasawa.K @AaarcherK

ちなみにこの来館者数の統計はJAZAという動物園水族館の「業界団体」に加盟する水族館に限定したもので、昨今はこれに加盟していない浅虫水族館、仙台うみの杜水族館、新江ノ島水族館、大洗水族館など、全国的にも知名度のある水族館が含まれなくなっている、という問題がある。

2023-05-13 14:28:04
Harasawa.K @AaarcherK

これは業界団体であるJAZAが追い込み漁で捕獲したイルカの導入を禁じたいわゆる「イルカ問題」をきっかけに脱退が相次いだ、という指摘もあるが、近年は、魚津水族館、竹島水族館、ゴビウスなどイルカとは無関係の施設の脱退も続いており、「イルカ問題」だけの問題ではない、と理解すべきでしょう。

2023-05-13 14:28:48
Harasawa.K @AaarcherK

ただし「イルカ問題」は今後も水族館業界にとってイルカの飼育・展示を継続することの是非を経営的にも問い続け、しながわ水族館のような撤退の選択を後押しすることも想定される。無論、本質的には、各水族館が鯨類に限らず全ての生き物について飼育・展示の意義を内外へ明確にしていく必要がある。

2023-05-13 14:31:12
Harasawa.K @AaarcherK

JAZAにはアトア、カワスイ、シーライフ名古屋など新興の水族館も加盟しているが、上記の通り100万人規模の大型水族館が一部含まれていない統計になっていることは、その網羅性や継続性の観点などから来館者数の全容は掴みにくくなっており、今後はさらに数より質が意識された議論が大切になるだろう。

2023-05-13 14:32:18
Harasawa.K @AaarcherK

一方で、絶対的な接触機会の規模は水族館の意義を考える上で不可欠な要素で、必ずしも「勉強」を目的としない3000万人にメッセージを伝える機会があることの重要性を見失うべきではないし、収益的な観点や水族館の社会的な影響力を推定する指標として来館者の数が引き続き大切であることは変わらない。

2023-05-13 14:34:19
Harasawa.K @AaarcherK

コロナ禍ではインターネットを通じたイベント・発信・サービスなども大きく増え、「来館」をしないでも水族館を「利用」できる仕組みも広がった。まだその内容や事業性などは発展途上ではあるものの、こうしたコミュニケーションも、来館者数には現れない効果の一つと理解できる。

2023-05-13 14:35:24
Harasawa.K @AaarcherK

接触による効果に関して、水族館の多い日本における生物や自然環境への意識は遅れている、だから水族館に意味は無い、という論法は拙速だろう。水族館だけがこれらの啓発の責任を担っているはずもなく、また、過去に機能を発揮しきれてこなかったことは将来的にも存在意義が無いことも意味しない。

2023-05-13 14:39:07
Harasawa.K @AaarcherK

来館者の「数」で水族館を評価することには限界があり、来館者に及ぼす影響やサービスの「質」で水族館の意義などを考えるべき時代になりつつある。次回は、SNSやメディアとの関係で度々話題にもなる水族館における情報発信のあり方、情報コミュニケーションの論点を扱う。 今回のツリーはここまで。

2023-05-13 14:42:15
Harasawa.K @AaarcherK

論点3:情報発信は水族館の存在意義に通ずる ペンギンにクリスマス衣装を着せてみたり、生物の行動を表面的に人間に置き替えるなどの「擬人化」の問題、面白さや可愛らしさなどを強調した生物の生態とは無関係な行動の強要や、鯨類の上に乗る(踏む)などショーのあり方などは繰り返し論点となる。

2023-05-27 20:54:56
Harasawa.K @AaarcherK

展示設計やパフォーマンス計画など組織的な手続きを踏む場合には比較的リスクを回避しやすいが、SNSで現場スタッフが気軽に情報発信できるようになったことで構造的に問題を生じやすい環境となっており、企画や発信の際に根っこがブレないような人材教育や理念の明確化・浸透が重要となっている。

2023-05-27 20:55:56
Harasawa.K @AaarcherK

水族館の発信は集客だけでなく生き物への関心自体に影響を及ぼすものであり、可愛さの過度な訴求が密輸の問題とも密接なペット化を助長するなどの指摘もある他、「教育効果」の裏返しとして、人間と生き物との間違った関係性の擦り込みも度々懸念される。感覚的な感情を再構成するべき場であるはずだ。

2023-05-27 20:56:32
Harasawa.K @AaarcherK

この点、水族館としては「真面目」な発信をしたいが、それではメディアに取り上げてもらえない・ユーザーに見てもらえない、といったメディアのあり方も度々論点となる。タレントが笑いを取るためにペンギンプールに飛び込み、業界団体やテレビ局を巻き込む大きな話題となったことも記憶に新しい。

2023-05-27 20:57:02
Harasawa.K @AaarcherK

しかし、こうした「メディアが悪い」という嘆きは水族館業界に限らずあらゆる産業で言われており、記者の無理解、読者の教育が必要、といったことはどこでも耳にする。これは、第三者による表現となる「パブリシティ」の構造的な問題から避けがたく、正確性を犠牲に客観性を得ているとも理解できる。

2023-05-27 20:57:42