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日本の水族館をめぐる論点2023

2019年にまとめた日本の水族館をめぐる論点から早くも4年ほど経過したので、ここ4年間の環境変化を踏まえて「日本の水族館をめぐる論点2023」をまとめました。 なお、全5回を端的にまとめると、コロナ禍での環境変化は、これまでくすぶっていた水族館の経営問題を顕在化した一方、歴史的に新陳代謝は繰り返され、常に新たなスタイルの水族館が誕生している。機能発揮を前提に、資金を集め、生き物や従業員にも回る仕組みができるかが問われている、と考えます。 ちなみに前回の「論点2019」は以下のURLよりどうぞ。 https://togetter.com/li/1371108
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Harasawa.K @AaarcherK

当然、水族館とは視点の異なるメディアが、水族館の伝えたい通りの内容で伝えてくれることを期待するべきでない。経営目線での情報発信とは「ブランディング」の一環であり、短期的な集客や話題ではなく、個々の水族館及び水族館業界としてどんな施設として見られたいか、を戦略的に考える必要がある。

2023-05-27 20:58:20
Harasawa.K @AaarcherK

水族館は多様であって然るべきだが、水族館業界が同じ目的を目指さないのであれば、一定の基準を設けて線引きすることも必要となってくる。それは、世界の水族館が業界として取り組む自律的な仕組みであり、水族館の社会的な役割をビジネスモデルに組み込むためのスタートラインにもなるだろう。

2023-05-27 20:59:12
Harasawa.K @AaarcherK

もちろん生き物に対する「可愛い」という感情を否定すべきでないし、娯楽や癒しに通ずる「レクリエーション」も水族館の立派な機能・役割の一つである。しかし、変化する環境の中で生物を「消費」することの意義はより厳しく問われ、レクリエーション「だけ」を提供するのは存在意義に疑義も生ずる。

2023-05-27 21:00:01
Harasawa.K @AaarcherK

「面白くてためになる」という概念は水族館学の世界でも繰り返し問われてきたが、これまで両者のバランスの必要性は収益上の論点が中心であり、許容される社会の倫理的な水準もこれまでと違った。動物福祉への目などは明らかに変化している中で、「ためになる」は事業の最低基準と理解すべきだろう。

2023-05-27 21:00:51
Harasawa.K @AaarcherK

一方、水族館が的確にその役割を持続的に発揮するためにも、きちんと収支を確保しなければならず、そのためには一定の来館者数がなければならないことも事実だ。そこで、利用者にとっても身近な「入館料」を起点に、水族館の収支問題を考える。

2023-05-27 21:02:26
Harasawa.K @AaarcherK

ひとまず今回の連投は終了。 水族館の収支問題は、水族館における労働問題とも切り離せない関係にあり、次回は水族館の入館料に関するテーマをきっかけとして話を広げていきたい。

2023-05-27 21:05:40
Harasawa.K @AaarcherK

論点4:複雑に絡まる水族館の価格問題 国際的な情勢不安等から電気料金をはじめ様々な物価が高騰している中で、水族館でも光熱費、飼料、建築関係などの負荷が大きくなり、収支を圧迫していることについて全国的にも報道が相次いている。 (参考nikkei.com/article/DGKKZO…

2023-06-10 20:30:49
Harasawa.K @AaarcherK

水族館の収入は、入館料収入を基本に、レストランやギフトショップでの売上をはじめとした付帯収入で成り立っており、施設特性に応じて指定管理料などもあるが、いずれにしても来館者を軸にしたモデルで、特に公営の場合は教育的なユニバーサルサービスの観点などから水族館の入館料引き上げは難しい。

2023-06-10 20:31:27
Harasawa.K @AaarcherK

公立や公営の水族館などでは入館料の改定に議会の承認が必要であるなどの事情もあり、政治家にとって人気公共施設である水族館の利用料を引き上げるインセンティブは低い。割を食うのは、施設が改善されない生き物や、給与の上がらないスタッフであって、水族館の機能発揮を抑制する歪んだ構造にある。

2023-06-10 20:33:40
Harasawa.K @AaarcherK

水族館における動物福祉の問題も大きな論点だが、ここでは経営課題としての労働問題にも着目したい。今や水族館は人気の就職先であり、労働市場は供給が過多であるため、数少ない需要に群がることで需給バランスが偏り、市場原理の結果として、非正規契約が増えたり給与は低位で安定してしまっている。

2023-06-10 20:36:14
Harasawa.K @AaarcherK

こうした構造は「やりがい搾取」などとも揶揄されるが、水族館に技術が蓄積されない要因ともなるなど水族館側にも悪影響がある。もちろん個々の水族館が意図して「搾取」しているわけではなく、業界として解決すべき構造的問題である。労働需要を変えることは、仕事の内容を変えることを意味する。

2023-06-10 20:41:31
Harasawa.K @AaarcherK

水族館の経営の仕組みが変わり、様々な面でより高度な専門知を扱う場となる分、高い給与を得られる職種になることは、就職難易度を量的にではなく質的に上げることで供給を引き締めることを意味し、水族館のあり方を踏まえた労働市場の健全化が期待される。最終的には求職側の変化も当然に必要だ。

2023-06-10 20:44:56
Harasawa.K @AaarcherK

仕事の内容次第で全ての職員が専門的な人材である必要はないが、水族館が社会に対して高い価値を提供するには、飼育・教育・経営など各分野での高い専門性が必要だし、当然それに見合った給与を得るべきだ。そのためにも、価格の引き上げなどでより多くの収益を確保する経営の仕組みが必要になる。

2023-06-10 20:46:44
Harasawa.K @AaarcherK

価格には一種のシグナル効果もあり、低価格自体が価値を毀損する懸念もある。これからの水族館(や動物園)は価格戦略が業界的な課題だ。この点、民営の動きが活発だが、全国的にここ数年で度々の価格改定が見られる。きちんと対価を得ることで価値を高め、継続的な発展の流れを目指したい。

2023-06-10 20:47:37
Harasawa.K @AaarcherK

そこで、これから特に重要になるのが、水族館の利用者が「何のためにお金を支払っているか」の認識を変えることができるか、だ。可愛い生き物を見て癒されたい、家族で観光のため立ち寄りたい、などの利己的な目的で水族館を利用するのであれば、当然ながら「安ければ安いほど良い」という圧力は強い。

2023-06-10 20:48:11
Harasawa.K @AaarcherK

支払った対価が水族館を通じて自然環境の保護や飼育生物のより良い生息環境に繋がる、という実態と理解があれば支出の意思も変わる。きっかけは生き物の可愛さ・面白さを楽しむことで良いが、行動の影響を認識する仕掛けが望まれる。SDGsの「つくる責任」「つかう責任」という概念も参考になるだろう。

2023-06-10 20:48:44
Harasawa.K @AaarcherK

水族館の価格については自治体の市長が「安くて気軽に行けた方が良い」趣旨の発言をし、SNS上で話題になった。公営の水族館においては、経済的事情に関わらず利用できる機会提供は大切であり、入館料を一定抑制する意義も見出される。そこで注目されるのが寄付などによる第三者的な資金の調達である。

2023-06-10 20:49:31
Harasawa.K @AaarcherK

以上で今回のツリーは終了。 お金の問題はタブー視されることも多いが、持続性を考える上で不可欠なテーマであり、よりオープンな議論があってよいと思う。次回は日本の水族館や動物園でもコロナ禍で動きの増えた「寄付」に触れつつ、業界でよく言われる「きっかけ」の問題を紐解き、最後にしたい。

2023-06-10 20:51:02
Harasawa.K @AaarcherK

論点5:水族館を「入口」とする限界 従来、日本の水族館では寄付の動きが低調だったが、コロナ禍でクラウドファンディングの取り組みが散見された。しかし、その後の継続的な寄付の仕組み構築は限定的で、来館者数の回復に伴い失速してしまったようにも感じられる。 (参考aquarium-japan.jp/res-crowdfundi…

2023-07-15 20:31:33
Harasawa.K @AaarcherK

例えばアメリカの水族館では恒常的な寄付を集める仕組みが経営戦略の一環として組み込まれ、重要な収益基盤となっている。偶発的・感情的な「お願い」に頼るのではなく、経営資源の配分による組織的な対応を伴う「経営手法」としての位置付けが不可欠で、寄付を単に「文化」と考えては思考停止だろう。

2023-07-15 20:32:36
Harasawa.K @AaarcherK

水族館が求める寄付の目的にも課題がある。コロナ禍でのクラウドファンディングの目的は総じて「餌代」が中心で、福祉の改善や保全など水族館の本質的な機能に賛同を求める内容とはなっていなかった。動物園では少しずつ動きが出始めており、海外だけでなく日本国内での実践事例などにも期待が高まる。

2023-07-15 20:34:39
Harasawa.K @AaarcherK

寄付の仕組みは、やや逆説的だがそれ自体が水族館の意義の明示にも寄与するものだ。この点、水族館業界で広く使われる表現に「水族館は興味や関心の入口だ」というものがあり、これを私は「入口論」と呼んでいるが、使い古されてきたこの表現が現状維持を肯定する概念になってしまっている懸念がある。

2023-07-15 20:36:44
Harasawa.K @AaarcherK

つまり、水族館は結果にコミットするのではなく、「きっかけ」を与えているだけであって、そこから興味を持つかどうか、行動するかどうかはお客さん次第ですよ、という考え方は、見方によっては責任の放棄であり、水族館の存在意義を問われた際の客観的な反論材料が不足する現状の課題にも繋がる。

2023-07-15 20:37:17
Harasawa.K @AaarcherK

もちろん「入口論」は完全に否定されるものではない。大多数の利用者は日常的に自然保護のことばかり考えているわけではなく、ハードルを下げた「きっかけ」が重要であることは間違いないが、自然保護の分野でも効果測定・開示が当然の時代となりつつあり、「きっかけ」に徹する姿勢はリスクが高い。

2023-07-15 20:38:50
Harasawa.K @AaarcherK

そこで大切なのが「出口」だ。水族館が示した「きっかけ」に接した利用者が具体的にどのような行動変容に至るのか、つまり入口だけでなく出口を担ってこそ、「入口」の意義を示すことができる。行動は多種多様であり、必ずしも水族館で捕捉しきれないが、その一部を水族館が受け皿となることも有効だ。

2023-07-15 20:39:26