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日本の水族館をめぐる論点2019

大人から子供まで、国民的な人気のある水族館ですが、イルカの飼育・ショーを巡る議論や恒常的な赤字体制など、たくさんの問題点・課題も抱えています。 水族館経営を研究する立場から、日本の水族館における論点に関する一連のツイートをまとめました。 なお、元となった「いきものAZ」がサービス停止によりツイート内のURLリンクが全て切れています。 以下に全文バージョンを掲載していますので参考にしてください。 https://aquarium-japan.jp/aquarium-issue2019/
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Harasawa.K @AaarcherK

生き物好きのためのSNS「いきものAZ」の企画である”いきものがたり”での13回に渡った連載記事が終わりました。かなり基礎的な紹介にとどめていたので、改めて論点を加えて、ここで話題提供・論点整理をしていきたいと思います。最後にはtogetterにまとめたいと思います。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/42879

2019-03-30 11:55:51
Harasawa.K @AaarcherK

なお最初に表明しておきますが、私は水族館の存在や水族館が機能発揮することを積極的に支持する立場です。その上で、現状に問題意識を持ち、課題提起などを通じて、水族館及び利用者の双方の意思で「持続的な」発展をするための助けになりたい、と日々考えています。

2019-03-30 11:57:03
Harasawa.K @AaarcherK

また、随所に数字が出てきますが、特に断りのない限り私が修士のときに研究対象とした「2016年度時点でJAZA加盟、2007〜2016年度の10年間の開示が良好、全61館」が基本です。JAZA年報の数字は、厳密には微妙な部分もありますが、誰でもアクセス可能な客観的な数字ということで。

2019-03-30 11:58:13
Harasawa.K @AaarcherK

第1回では『 来館者数の10年トレンドから見る水族館』として、水族館の集客状況を整理した。年間パスポートでの重複カウントもありつつ、年間平均約3,280万人とディズニーランド・シーを合わせたよりも集客力に勝る水族館の「市場」は、着実に「成長」をしている。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/39948

2019-03-30 12:00:24
Harasawa.K @AaarcherK

昔から水族館は「夏のコンテンツ」と言われているが、来館者全体の約20%が8月に集中している。11〜2月の4ヶ月でやっと20%程度なので、夏がいかに稼ぎ時かということがわかる。ただ、平均気温との相関はあまり無く、GWや3月にアクセスが多い。つまり月間の休祝日の数と、より相関している。

2019-03-30 12:01:28
Harasawa.K @AaarcherK

10年間で増減しつつも来館者数は日本全体として約400万人増えている。ただ、その内訳は東京都内の水族館(ほぼサンシャインとアクアパークのリニューアル、すみだの新設)だけで300万人増えている。これらの数字は、感覚的には新規性は無いものの、数字で示されたことはあまり無いと思う。

2019-03-30 12:05:27
Harasawa.K @AaarcherK

その上で、水族館はその集客力ゆえに「集客装置(客寄せ)」として利用される面があり、来館者数全体も拡大傾向にあるが、近年の「市場拡大」という状況を単に「水族館は人気」と前向きに理解すべきことなのだろうか?

2019-03-30 12:06:14
Harasawa.K @AaarcherK

楽しみを目的としたレジャー業であれば、自由に売上や利益が拡大すれば良いが、極端に言えば、「生物を消費して利益を出す」というビジネスモデルに正当性はあるのかということに繋がりかねない。水族館は「質を追求した結果としての市場拡大」こそが目指すところではないか。

2019-03-30 12:07:45
Harasawa.K @AaarcherK

エンタメ要素が無いとお客さんが来ない、というのはよく分かるし、お客さんが来ないと機能も役割も果たせないので集客は絶対重要である。しかし、集客が目的になっては何の意味もない。来館者数を経営指標とする水族館も多いが、関心のきっかけを提供した後のサービスを用意しなければいけないと思う。

2019-03-30 12:09:21
Harasawa.K @AaarcherK

第2回では『リニューアルで水族館の来館者数はどう変化するのか』として、水族館の基本的な「ビジネスモデル」を紹介した。一般的なコンテンツビジネスと同様に、新設・リニューアルで来館者が伸びて、そこから逓減、数年後に再投資、というモデルとなっている。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/40156

2019-04-14 11:40:59
Harasawa.K @AaarcherK

加茂水族館はクラゲ特化、サンシャイン水族館は天空ペンギン、新江ノ島水族館はプロジェクションマッピング(PM)と、起爆剤となった手法は様々。しかし、3年程でえのすいはPMメインのイベントは控え、より生態を主体とした展開に切り替え。お客さんはデジタル映像に対してはシビアである、という印象。

2019-04-14 11:41:00
Harasawa.K @AaarcherK

いずれにせよ、リニューアルにはコストがかかるので、投資に必要な経営資源をいかに確保するかが不可欠。公営水族館によくある恒常的な赤字状態だと、理論的には、再投資分は負債性の積立金として税金に反映されているのが実態。公営については、本来はここに市民の合意があるべきと思う。

2019-04-14 11:41:00
Harasawa.K @AaarcherK

ただし、経営資源の確保に注力した結果、来館者数の増加や黒字確保が「目的」となる本末転倒なことにもなりうる。日々の経営管理上もそうだけど、リニューアルなどを検討する場面で、質的な評価指標が不存在である状況を解消しないといけないと思う。せめて公営水族館は強く意識すべきと思うのだけど。

2019-04-14 11:41:00
Harasawa.K @AaarcherK

第3回では『インスタ映え時代の水族館の情報発信』として、SNSでの拡散を想定したサービス設計の重要性を指摘。水槽の反射や写り込みを少し改善するだけで、集客や満足度の向上に繋がりそうな展示もよく目にする。ただ、さらにそれよりもう一歩踏み込んだ活用を期待したい。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/40364

2019-04-21 22:16:09
Harasawa.K @AaarcherK

というのは、特に民営水族館は積極的に取り入れ、展示の満足度を向上させるために様々な「インスタ映え」する演出をしている。しかし、教育的なコンテンツではほとんどその手の切り口を目にしたことがない。視覚的な魅力がニーズにある以上、教育的なイベントでもオシャレ・キレイな演出は有効と思う。

2019-04-21 22:16:58
Harasawa.K @AaarcherK

教育を語る人の中にはそういう「小手先」の手法をよく思わない人も少なくないように感じる。しかし、海外のエシカルな運動なんかでも、オシャレなもの、つまり「自然の延長線」で参加できるようなものがウケている。日本の水族館でも、デザインや演出にこだわった教育的コンテンツを追求すべきだろう。

2019-04-21 22:17:38
Harasawa.K @AaarcherK

なお、記事でも触れたけど、写真の撮りやすさと生物のストレスはトレードオフになることがある。お客さんの満足度を追求するが故に、生物に負荷を与えるような演出にはなっていないか?を常に意識して欲しい。この裏付けのためにも、やっぱりコンテンツにもきちんと研究や検証があるべきと思う。

2019-04-21 22:18:12
Harasawa.K @AaarcherK

第4回では『生き物がいない水族館ができる?水族館の今と昔』として、水族館の歴史を少し振り返り、最新の技術活用などをご紹介。追加論点としては、何かと話題のヴァーチャル水族館などについて考えます。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/40613

2019-04-30 12:19:40
Harasawa.K @AaarcherK

水族館の定義は難しく、どんな水槽をどのように置いたら水族館なのか、といった考察は、それ自体がファンの間での話題になるし、法律の問題でもある。それこそ黎明期の水族館は、熱帯魚屋さんの大きいもの、くらいの施設も多く見られた。定説では19世紀後半からの歴史と、意外に浅いという印象だ。

2019-04-30 12:21:08
Harasawa.K @AaarcherK

私は、水族館の歴史は「技術革新によるマーケティングの変化の歴史である」と考えている。とりわけ、アクリルパネルがより大きく・安く製造できるようになったことは、水族館展示の表現力を圧倒的に変化させ、水質管理技術の向上と合わせて、今日的に「大人」を魅了するコンテンツ作りを可能にした。

2019-04-30 12:21:55
Harasawa.K @AaarcherK

「博物館」の1つの形態である水族館は、理論的には生きた生物がいなくても「水族館」である。この点、昔は海洋生物の標本や骨格展示が想定されていたが、さらなる技術の変化が想定するのは「ヴァーチャル水族館」である。今後は、この一切生き物のいない水族館がトレンドになるのだろうか?

2019-04-30 12:23:33
Harasawa.K @AaarcherK

私がヴァーチャル水族館に若干否定的なのは、何よりこれが「製作者の意図で作られたアウトプット」でしかないことにある。世の中には、生態が不明な生き物がたくさんおり、水族館では地道な努力で少しずつ研究・発表が行われている。飼育を通じた膨大なインプットは、生物や環境の理解深化に資する。

2019-04-30 12:24:42
Harasawa.K @AaarcherK

逆に言えば、ヴァーチャル水族館の登場により、水族館業界は「生き物を飼育することに積極的な意義を見出せているか?」を問われている。生態の展示が単に「何かを伝える」だけのためのものであれば、もちろんヴァーチャルにも強みや魅力があるので、徐々にデジタルに代替されていくであろう。

2019-04-30 12:25:35
Harasawa.K @AaarcherK

とはいえ、海外の水族館でも生きた展示を活用した教育プログラムが山ほどあるし、生きた展示でしか伝えられない「情報」もある、という伝統的な考え方は今でも十分に説得力があると思う。しかし、既存の手法には、動物福祉への配慮から否定されるものや、デジタルに代替できるものもあるだろう。

2019-04-30 12:26:33
Harasawa.K @AaarcherK

個人的な考えだけど、「答え」を提示するような展示で教育するよりも、考え方や目線、作法、つまり「ヒント」を教えた上で、(子供も大人も)自分たち自身で展示を通じて新しい発見、気付きがある方が、効率は悪いかもしれないが、記憶にも残り、より健全な教育と思う。検証できると良いのだけど。

2019-04-30 12:27:52