編集部イチオシ

日本の水族館をめぐる論点2019

大人から子供まで、国民的な人気のある水族館ですが、イルカの飼育・ショーを巡る議論や恒常的な赤字体制など、たくさんの問題点・課題も抱えています。 水族館経営を研究する立場から、日本の水族館における論点に関する一連のツイートをまとめました。 なお、元となった「いきものAZ」がサービス停止によりツイート内のURLリンクが全て切れています。 以下に全文バージョンを掲載していますので参考にしてください。 https://aquarium-japan.jp/aquarium-issue2019/
38
Harasawa.K @AaarcherK

第5回では『民間会社にとっての水族館』として、民営の水族館におけるモチベーションの源泉を軸に、「シナジー効果」といった概念で民営水族館を考えた。経営管理という点では、多角化、グループ展開、輸出(海外進出)などもキーワードとなる。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/41374

2019-05-04 18:42:04
Harasawa.K @AaarcherK

第6回では『担当部署から考える公営水族館』として、ちょっと違った切り口から公営水族館を捉えた。こうして所管部署という目線で俯瞰すると、水族館行政のバラバラ感が浮き彫りになる。さらに、指定管理やPFIなどの官民連携が出てきて、水族館の経営は複雑さを増す。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/41546

2019-05-04 18:42:50
Harasawa.K @AaarcherK

日本の民営水族館は多様である。鉄道や観光関係の会社が比較的多いというくらいにしか傾向は無い。また、日本にはいわゆる「水族館法」が無く、業界団体であるJAZAも指導的な立場に無いため、動物福祉のレベルなどに業界を串刺すような「スタンダード」が不在である、というのが基本的な構造。

2019-05-04 18:46:40
Harasawa.K @AaarcherK

母体が株式会社であれば、形式的には単なる1つの「事業」としての「水族館ビジネス」でしかないし、オリックスや西武HDのような上場会社であれば、機関投資家や不特定多数の株主の顔色を見ることになる。本質的に「営利」が主眼にある会社形態の民営水族館は「エンタメ」に走りやすい宿命とも言える。

2019-05-04 18:46:56
Harasawa.K @AaarcherK

こうした中で、民営水族館が保全や教育といった「儲からない」機能・役割のために資源を投じるインセンティブを働かせることが難しい。業界の立場からは「お客さんが求めない」と言いがちだが、これでは思考停止である。保全や教育をお金に変える仕組みを考えていかなければいけない。

2019-05-04 18:47:30
Harasawa.K @AaarcherK

もちろん、保全や教育、研究といった取り組みは、資金獲得だけの問題では無い。今まで以上に生き物に対する姿勢が問われる時代において、極端に言えば「営利目的の株式会社が生き物の命を使ってお金を儲ける」なんていう「攻撃」に対抗するためには、民営水族館こそ、本気で取り組むべきであろう。

2019-05-04 18:48:33
Harasawa.K @AaarcherK

一方で、公営水族館には、これに加えて「税金を使うことの正当性」という別のロジックがある。(特に赤字の場合には)市民の税金で水族館を運営することの意義を説明できないといけない。その意味では「自分のお金」を自分で使うだけの民営水族館よりも、積極的な開示・説明が無ければいけない。

2019-05-04 18:48:57
Harasawa.K @AaarcherK

特に公営水族館においては、寄付に限らず現行制度でも理論的には同じなんだけど、動物に使うお金があるなら俺たちに使え!という社会的圧力はありうる。動物福祉とは違って、公共とは何か、という論点からの批判。公営水族館がエンタメ路線だけではいられないことには、こういう正当性の問題もある。

2019-04-20 21:57:08
Harasawa.K @AaarcherK

第7回では『いきもの達の生活を支える水族館のお金の仕組み』として、簡単に収支構造をご紹介。収支の問題は、昨今盛り上がった飼育員の皆さんの待遇などとも直結する話であるし、保全への投資を可能にするなどあらゆる問題の根源と思っています。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/41764

2019-05-11 20:37:16
Harasawa.K @AaarcherK

日本の水族館では、平均して7割程度を入場料に依存しており、この構造は少なくても10年間ほぼ変化がない。厳密には、公営水族館において「指定管理料」などが含まれているが、物販などその他収益が変化していない点は変わらない。収益の複線化は今後のキーワードになってくると思う。

2019-05-11 20:37:50
Harasawa.K @AaarcherK

水族館(・動物園)クラスタで飼育員さんの待遇が悪く、意識の高い人が辞めていってしまうという話題。根強いこの業界の構造です。評価の手法を変える、というのも真っ当ですが、無い袖は振れないので、目指すべきは「きちんと収益を確保するためのビジネスモデルの変化」と思い、研究を続けています。

2019-05-04 16:07:11
Harasawa.K @AaarcherK

この点で私が重視しているのが年間パスポートの見直し。継続利用者にとって「実質的な無料チケット」でしかない現状から、マーケティングツールとして昇華させ、メンバーシップの仕組みを収益の柱の一つとして活用すべきだ。これが無いとコンテンツの高度化は難しいし、寄付なんて夢のまた夢。

2019-05-11 20:41:36
Harasawa.K @AaarcherK

海外の水族館との大きな違いの一つが、イベントのターゲティングだ。日本では子供向け・無料のプログラムが基本となっており、これはこれで集客の理論が伴うのだけど、ブランディング的には単価引き上げや寄付の文脈には結びつかない。この意味で、まだまだ日本の水族館は「大人」向けとは言えない。

2019-05-11 20:45:23
Harasawa.K @AaarcherK

第8回で『水族館だからこそできる「研究」とは』として、水族館における研究の機能について紹介した。日本の水族館の歴史を紐解くと、初期には展覧会的なものと並んで、大学付属施設としての性格も強い。研究の質だとかそういうことではなく、その意義について考えたい。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/41985

2019-06-01 20:53:23
Harasawa.K @AaarcherK

水族館における研究について最も争点になるのは、繁殖下における行動を研究することの意義。記事では、観察の連続性や個体情報の豊富さ、再現可能性などの優位性を紹介したけど、限界があるのも事実。科学なのですぐに「結果」が出る必要は無いものの、次の研究への展開など、何らかの説明はあるべき。

2019-06-01 20:54:05
Harasawa.K @AaarcherK

特に公営水族館は、この研究機能は割とコアになると思う。(広い意味での)国民の税金で運営しているわけで、利用者だけが喜ぶ施設であれば「正当性」に欠ける。積極的に国民へ知見を還元すべきだろう。都道府県や市町村の単位での説明ができるとさらに良い。実際はなかなか難しいのだけど。。

2019-06-01 20:55:24
Harasawa.K @AaarcherK

第9回では『水族館はノアの箱舟になれるか』として、水族館における保全(簡単に言えば希少生物の保護・繁殖など)を軸に、教育やレクリエーションの機能を紹介した。第8回で紹介した研究の主な目的は、色々な形でこの保全を実現するところにある(べき)。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/42204

2019-06-01 20:55:56
Harasawa.K @AaarcherK

保全の論点は、野生復帰の実現可能性で、これは唯一の答え、というのは無いと思う。種によっては動物園・水族館での繁殖で自然個体を大幅に増やすこともできるだろうけど、そう多くはない。すると、域外保全を強調することにどんな意味があるのか?と言う問いへの答えは持っておかねばならない。

2019-06-01 20:57:24
Harasawa.K @AaarcherK

保全の問題は、WAZA・JAZAのイルカ問題が起きたことで、重大性が顕在化した。経営的な問題などの様々な背景はありつつ、日本では全体的に繁殖による循環を実現できてこなかったことは事実。パラダイムが変化する中で、経営資源の集め方・使い方を変えていかなければ変化に対応できない可能性がある。

2019-06-01 20:57:50
Harasawa.K @AaarcherK

レクリエーションについては、これまでも何度か持論を述べてきたが、水族館は興味や関心のきっかけを与える、といういわゆる「入口論」は否定しない。しかし、それより深く知りたい・関わりたい、というニーズに応えるコンテンツを持てているだろうか。これからの時代はそこが極めて重要になると思う。

2019-06-01 20:58:07
Harasawa.K @AaarcherK

第10回の『水族館では水槽以外の「サービス」も重要』では、経営学のサービス・マーケティングの概念を用いて、展示以外のサービス設計全体の俯瞰をs紹介した。生物の特徴などについて情報ギャップがあるため、展示の「楽しみ方」を伝えることも満足度を高める大事な方法。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/42663

2019-06-08 14:41:50
Harasawa.K @AaarcherK

長くなるので詳細は割愛したが、水族館におけるサービス設計の階層は多岐に渡る。私の研究では、これをサービス改善の手法として理論的に整理しているのだけど、そこで気付いたのは、多くの施設で「展示意図」が見えてこないこと。水槽が単なる「動く絵」扱いになってしまっている原因の一つと思う。

2019-06-08 14:42:39
Harasawa.K @AaarcherK

エリアのテーマやその水槽でなぜその生物を飼育・展示しているのか?といった「展示意図」を明確にすることは、内部的な効果測定にも不可欠。意図=目的が無ければ、達成の有無も不明。そして、お客さんが喜んでいるか?だけでは「エンタメ」を超えられない。これからは、その先を見据えることが重要。

2019-06-08 14:43:38
Harasawa.K @AaarcherK

そういう意味では、来館者数以外の評価指標を持つことと、それによって収益も確保できないと単なる理想論でしかない。これは研究者自身も課題であるし、業界としても乗り越え無ければならない壁と思う。私の研究は、「で、それでお客さん増えるの?」という現実との闘いである。。

2019-06-08 14:44:11
Harasawa.K @AaarcherK

第11回の『水族館の「半分」は観ることができない?』では、水族館を「面積」という観点で分析した内容を紹介。多くの人が感覚的には分かっている気がするけど、数字ではあまり目にしたことが無かったと思います。 ikimonoaz.ikimonopal.jp/article/42878

2019-06-08 21:28:44