ストレイトロード:ルート140(71~72周目)
- Rista_Bakeya
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川は変わりなく流れているのに、集落へ飲み水を運ぶ水路だけが枯渇している。まさか怪物が巣でも造ったか。怯える住民の頼みで調査に同行したが、見晴らしのいい場所に原因はなかった。「人間のせいってことはない?」藍の一言が住民達を凍りつかせた。冷たい風が集落の外れに向かって吹き続けている。
2023-05-01 18:52:47山を下る道から芝生の運動場が見えたが、坂の終点に立つ看板が正体を明かした。怪物の侵略が始まった頃に焼き尽くされた集落だ。人の手と年月が残骸を片付け、全て等しく雑草に覆われた。「どこが誰の土地なんてもうわからないよね」車を降りた藍が杭を拾ってきた。悪い大人のような企みでも考えたか。
2023-05-02 18:56:29140文字で描く練習、3511。雑草。 草花の名前どうこうではなく、招かれざる客の呼び方だと考えれば「存在する」もの。
2023-05-02 18:56:30「やっぱりやめた」「なら最初から来るな!」藍は質の悪い野菜を選ばなかっただけだが、店主は庶民を見下した態度と誤解したらしい。芋でも投げてきそうな剣幕で怒鳴られ、周囲の買い物客が一斉にこちらへ振り向いた。市場自体を敵に回したくはない。強気に言い返そうとする藍を宥める間に警察が来た。
2023-05-03 19:47:45ラジオからは雑音しか聞こえなかった。辛うじて繋がったネットで天候の情報を集め、雨雲の進路予想と走行予定のルートを重ねた。藍には過程を見せない。彼女が風を動かす可能性まで計算に入れたくないからだ。「明日の到着は不可能です」「じゃあ日程全部ずらすから連絡入れて」メールなら既に送った。
2023-05-04 19:53:59140文字で描く練習、3513。ずらす。 厄介な力を持つ魔女が自力で天気図描けるようにでもなったらもっと大変。
2023-05-04 19:53:59「どうか今回きりと言わず、立ち直る手伝いを」役場の職員に懇願された。怪物を一度遠ざけてもいつ次の危機が来るか。心配は分かるが、藍は役場が雇える年ではない。「ではお連れの方に相応の椅子を」「そういう話はパパを通して」藍が遮った。私も正規の手順では雇用できない。断片も言えない理由で。
2023-05-05 19:26:32広い空間に満ちた静寂を靴音が破った。藍が駆け出した廊下の先に、かつては荘厳な光景があったのだろう。教会だったその場所は片付けられて何もないが、四方から射し込む色付きの光に目を奪われた。天井の暗さは対照的だ。屋根が全て抜け落ちたはずの場所には今、怪物が廃材を敷き詰め造った巣がある。
2023-05-06 20:18:24「足を止めた。左の頭から来る」怪物が口を開けた姿はミラーに映らない。助手席から後ろを窺う藍の情報が頼りだ。彼女の合図でハンドルを切ると中古車が悲鳴を上げ、すぐ爆発音にかき消された。私の手足が軋む音は錯覚であってほしい。車より人間の耐久性能が先に限界を迎えてもおかしくないとはいえ。
2023-05-07 19:41:40「おじさんも肉球ある!」露店で魚を品定めしていたら、隣に現れた子供に手首を掴まれた。すぐそこで猫を追い回していた仲間達も私の指に興味を示して群がったが、残念ながらそれは血豆だ。「いつの間に?」藍の便乗するような笑みにだけは真面目に答えた。「今朝、貴女のネックレスを直したときです」
2023-05-08 19:02:56地下道は水浸しだった。藍を歩かせるには危険なので荷物ごと背負い、往路の倍は時間をかけて歩いた。途中で藍が見つけた滝は天井付近の配管から発生していた。太さも耐久性も異なるパイプを無理に継ぎ足したせいだろう。修理に必要な資材や職人を探す為にもまずは脱出だ。空気の通り道を辿って進んだ。
2023-05-09 19:09:02工場周辺をしばらく観察すると奇妙な点を見つけた。カート型の警備ロボットが巡回するのはいいが、常に同じ曲がり角で停止して人間の係員に回収されていた。今夜も定位置で迎えを待っているそれに違う人影が近づいた。二つ結いの。「いつの間に?」藍が機械を押して敷地内へ進む。まだ警報は鳴らない。
2023-05-10 19:00:27並ぶ車のフロントガラスに掲げられた特価の値札が眩しい。売れ残りはどれも一昔前の法律や条約が足枷になっているものばかり。維持費を考えれば店は一台でも手放したいはずだが。「わたしが行くと急に塩対応なんだけど」藍は警戒されていた。貴重な車を廃棄物にする為に買うものと疑われているらしい。
2023-05-11 19:33:34140文字で描く練習、3520。特価。 必ずしも無駄にするとは限らないんです、本当は。ゼファールが運転する車だって中古ですし。無茶はさせるけど。
2023-05-11 19:33:34夢を見ていた。数日前に村の住民と囲む食卓、破壊の塊が窓から飛び込んでくる直前までの和やかな時間を再現していた。どこか懐かしいのは遠い昔に捨ててきた場所と似ていたからか。「いつまで寝てるの」現実の入口で藍が待っていた。彼女は思ったよりも人々の手のひら返しに、冷たい扱いに慣れている。
2023-05-12 18:50:24「ここにいて」指定された位置から藍だけが離れ、手にしたボールを振りかぶる。投げるならそう言えば構えたのだが。「動かないで」魔女の一声と向かい風を同時に浴びた。ボールは私の耳をかすめて後ろに落ちた。「あの人に勝つには二刀流くらい目指さないと」動画で彼女を揶揄した投手と対戦する気か。
2023-05-13 19:33:26