【一部セルフ引用あり】河野有理による「なんとなく社会福祉だけあってほしいアナーキスト」への考察

Shon Hori氏の戦後左派評が一部で話題になっていたので、それに対する河野有理氏の考察をまとめてみました。途中でまとめ主の考察も入っています。
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左派と対となる右派の存在

河野氏の疑問

河野有理 @konoy541

「社会福祉だけはほしい」、自称アナーキストの反対物はなんでしょうね。「ご近所と挨拶もしないナショナリスト」とか「同胞市民の苦境にさえ同情しないナショナリスト」とかでしょうか。「社会福祉だけ」が秀逸すぎてうまいものが思いつかない。

2023-08-02 15:59:42
河野有理 @konoy541

ふるさと納税に勤しんでおいて居住自治体の公共サービスの水準低下に文句を言う人とか、そういう感じなんだけど、うまいワードにならないね。

2023-08-02 16:23:33

シンホリ語録では

Shin Hori @ShinHori1

右派は右派で、ナショナリストといっても郷土とか共同体などのが解体した世界で家族の関係も希薄な状態で、自宅と職場やコンビニを往復しながら生きてる人が多数なので、結局は「自宅しか警備しないナショナリスト」になり、マンションの自分の部屋と抽象的な"国家"の二つがあるだけみたいな心情になる

2023-08-02 20:11:28

まとめ主考察 6 「根無し草な右派」

 先ほどは戦後左派の矛盾やご機嫌能天気に関する話であったが、今度は右派も同様ではないかという話。お客さん根性左派と主張の方向性は違うけど実は同類の、お客さん根性右派のことである。
 ツイートで述べられている二人の考えは似たようなもので、地域にしても国家にしてもゲマインシャフトとして捉えることはなく、家族や地域と言った共同体の中で生きることもない(或いは既に壊れている)状態で、自分と国家と言う存在を直結させている状態。

 それについて河野氏は「ご近所と挨拶もしない」「同胞市民の苦境にさえ同情しない」「ふるさと納税に勤しんで居住自治体に文句言う」と述べ、Shin Hori氏は「自宅しか警備しないナショナリスト」と述べている。同胞や共同体となるものへの認識が欠如しており、同じ国民に対してすら冷酷で、自分の居住地域を支えるという自覚もない。それで国旗を振って愛国者としての態度は大きいが、ではその人にとっての国とは何なのか?なにに基づく右派なのか?と。地域や共同体の同胞意識があってこそ、その先にナショナリズムも有り得るものではないか、それに欠けた根無し草な右派ってどうなのよという話である。

 右派の特徴を国粋主義や民族主義と考えるなら。日本のあり様を支えているのは大和の諸君であるから、右派の主義とは大和の同胞を守り、そして日本の国柄を守る思想になると言えるだろう。また大和民族も地域性を持っており、地域において個人を包摂する共同体があってこそ、とにもかくにも今日まで日本が続いてきたところがある。
 日本に限らないが、右派であるならば地域や共同体を保守することを無視して国家に直結するナショナリズムというのは成り立たず、それを無理にやろうとすると地域も民族も無視した「僕と国家だけの世界」というセカイ系のような世界観になってしまう。この僕と国家だけの世界を、Shin Hori氏は「自宅しか警備しないナショナリスト」、河野氏は「同胞市民の苦境にさえ同情しないナショナリスト」と表したと言えるのではないだろうか。国柄を支える同胞や地域や共同体を無視或いは軽視した「ナショナル」とは何を意味するのか。みんな好きさ?。

 実はこういう右派の自己中心性や軽薄さへの疑念自体は以前からある。今回の件とは無関係で外国のことではあるが、2020年にカナダ人youtuberが公開した動画の話をご紹介しよう。

Leclerc💉💉💉💉 @3adam15

カナダ出身のyoutuberローレン・チェンさんが「2020年右翼人士スターターパック」なる動画を投稿。彼女自身も右派だけど、これは軽薄な右派を皮肉る動画かな。何となく言いたいことは分かる。 twitter.com/TheLaurenChen/…

2020-03-27 13:10:11
Leclerc💉💉💉💉 @3adam15

1:インスタ保守女子 (IG Conservathot) ・去年まで左翼だった ・彼女の言う「保守的」とはリバタリアンのこと 2:にわかMAGA男子 (MAGA Boomer) ・自分が個人的に気に入らない戦争は嫌 (戦争への賛否が個人的動機?) ・団塊の世代が作った問題で、その子や孫ぐらいのミレニアル世代を叩く pic.twitter.com/Jl8zRf1nUM

2020-03-27 13:21:16
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Leclerc💉💉💉💉 @3adam15

3:保守的企業家 (Conservative Inc.) ・大量移民歓迎 ・フェイクニュースと戦う (但しオルタナ右翼のそれは放置) と言うことことかな?。日本でもあの人とかあの人とか思い浮かべてしまう。 pic.twitter.com/KhVvoEHLzT

2020-03-27 13:24:27
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 あのアカウントはまとめ主のもので、チェン氏の動画を見て自力で翻訳を試みたので間違っていたら申し訳ない。というか"MAGA Boomer"は今見ると「にわかMAGA男子」ではなく、「団塊MAGAジジイ」だったのではないかという気がする。

 それは置いといて。カナダのチェン氏は動画で右派に対する皮肉を表していた。去年まで左翼だった保守女子はリバタリアンだし、MAGAジジイは下の世代に責任を擦り付けている。保守企業家は移民大歓迎だ。どれも自分中心であり同胞という他人に冷酷である。いわば自分だけの自己実現の延長線上に右派や保守としての態度や言説があり、自己実現ベースだから矛盾も大いに孕んでいるということ。瑠璃色の…キャベツでないものが浮かんでくるよ…。

 こうして見ると現代の左派と右派は性根のところでは同じであり、表面的に異なっているようでいて、実は同じことをやろうとしているだけとも言える。左派も右派もその望むところでは共同体や、共同体としての国家が当然の前提となるはずだが、それを主張する者は共同体の成員としては資質や必要な認識を欠き、そこにあるのはひたすらに他者を無視した自己実現「のみ」である。

つまりどういうことなのよ…

 大まかに言えばフリーライダー批判であり、「何かを欲しがって文句を言うけど、どうすればそれが成るかまでは考えてない」ということである。今回の件とは別に話題となった「良い人だけで国を作りたいな」もそうだが、自分にとって都合の良い個人がバーっと沢山でてきて言うことを聞いてくれて、ガーっとやってダーなって上手いこといくよう期待していただけと。
 右派の方についても同様で、国家は称揚するが、もっと地味で地道で苦労が多い共同体や地域の保守は軽視しがちで、結局はお手軽に俺・私が気分よくなれるものが欲しかっただけではないかということになる。

 戦後今日に至るまでの左右両翼の変遷は、自分以外の他人を単なるモブキャラやNPCに、或いは自分がステージで輝く為の舞台装置にしてしまい、どこかから都合よく降って湧いてくるものとして扱っている。もちろん現実にそんなことは無い。というか本当の舞台装置だって道具係の人が作るもので降って湧いてはこない。両翼の立派な言説の裏にある、ご都合主義で自己愛しかない無様な有りように両者は言及していたのだ。

 これらの事柄の解決策は特に無いのだが、とりあえず戦後の数十年間で「なんだかんだ言って国も社会も必要なのに、その持続性を担保するものは減り続け、自己愛以外は特にない有難くない説教屋だけは増えた」という点に関しては、今回引用したご両人の主張はそれほど外れたものではないのではないだろうか。

バラモン左翼と商売右翼 (©トマ・ピケティ)

最後に両者のツイートを理解していく上での足しとして、フランスの経済学者トマ・ピケティ教授が提唱する「バラモン左翼・商売右翼」というものをご紹介する。今回の両者の話に直結したものではなく、またピケティはフランス人であるから階級社会で上下分断の強いフランス(欧州)を前提とした話だが、今日において日本社会の有り様を考える上でも一助となりうるものである。

リンク クーリエ・ジャポン トマ・ピケティ「欧米の左派政党は庶民ではなく、もはや高学歴者のための政党となった」 | 左派政党から庶民が離れたのは、左派政党の責任だ 経済学者トマ・ピケティ率いる研究チームが、戦後の有権者の投票行動について非常に大規模な分析を行ったところ、1980年代以降、欧米の左派政党の支持基盤…

 ピケティは「アイデンティティ政治には熱心だが、庶民の生活や経済問題には冷淡な高学歴左翼」をバラモン左翼、「口では愛国やフランス万歳を言いながら、富裕層や上流階級の都合ゴリ押しの富裕右翼」を商売右翼と呼んでいる。どっちも上級国民のオモチャであり、庶民の代弁者が居ないので困ったもんだという話。

 ピケティによれば昔は労働者が左派政党に投票し、高学歴層や富裕層は右派に投票していた。それぞれに代弁者を持っていたと言える。ところが時代が下ると高学歴層が左派に流れ込んできて、両翼共に庶民の声や要望を拾いにくくなってしまった。言い換えると左派に流れ込んできた高学歴層もエリートであるから、庶民の生活には根っこのところでは冷淡であり、関心も低ければ対策も打てないのである。

 商売右翼は日本にもいるが、ピケティが言うそれと、Shin Hori氏や河野氏が話していた右翼はまた違ったものである。商売右翼とは愛国的な言説を言いながら、「規制のない自由なビジネスが日本を強くするんや。ついていけない弱い奴や地域は勝手に淘汰されて滅びればええやん」みたいな人。ローレン・チェンの動画で言うところの保守的企業家が商売右翼であろう。
 バラモン左翼については、両氏が話していたものとはこれまた違うものの掠ってる部分がある。庶民やその生活には根っこのところでは冷淡で、それよりも少数者などの福祉には熱心。ただその福祉を実現するとして、庶民を含む社会のあり様まで考えているわけでもない。なんせ庶民に冷淡だから。

 ピケティの言説を補助線として入れて考えると、先進国は個別的には異なるが似た傾向の問題を抱えていると考えられる。社会の上下階層分断があって、上は社会を動かす力を持つが下の階層の生活や持続性に関心が無く、それでいて都合よく動いてくれるという期待だけは大きい。政治という言葉が持つ意味に「社会における様々な利害調整を行い、意思決定を実現していくこと」があるが、利害調整の部分がぶっ壊れているから意思決定も上手く行かないのである。