ディフュージョン・アキュミュレイション・リボーン・ディストラクション #1
マルノウチ・スゴイタカイビル。ニンジャスレイヤーをニンジャスレイヤーたらしめたあの悲劇の舞台こそが、今回の旅の終着点であった。コフーン遺跡でフジキドが見、そして遥か遠くで同時にシルバーキーが感知した幻……ナラク・ニンジャが指差す先にあるランドマーク。 23
2011-11-27 23:21:34あの日、聖なるヌンチャクは、フジキドのニューロンの中で不本意な眠りに沈んだままのナラク・ニンジャを一時的に覚醒させた。まるでそれはセキバハラのストーンヘンジでの、あのイグゾーションとの戦いで起こった出来事めいて。そしてヌンチャクは、フジキドに力を与えたのだ……敵を倒す力を。 24
2011-11-27 23:36:19ナラク・ニンジャは再び眠りについたが、その際、マルノウチ・スゴイタカイビルを指差した。スゴイタカイビルはフジキドが最愛の妻と子を失った呪われた場所だ。しかし同時に、ナラク・ニンジャがその身に入り込んだ場所でもある。ナラクがその地を指し示すのであれば、そこには必ず何かがある。 25
2011-11-27 23:59:49フジキドはナラク・ニンジャの力を取り戻す必要を痛感していた。ザイバツとの戦いは激しさを増す。イグゾーションのような強敵は今後も現れる。そしてそこにセキバハラのストーンヘンジは無い!ヌンチャクの力を引き出すために、ナラクが必要だ。ラオモトとの戦いで見せたあの共振が必要なのだ。 26
2011-11-28 00:15:22そしてシルバーキー。彼は、己が見続けたビジョンをニンジャスレイヤーに語って聞かせた。(「きっと俺の役目なんだ、あンたの見た物を俺も見たっていうのは」)そしてマルノウチへの道すがら、ナンシーを立ち寄る事を提案したのもシルバーキーだ(「俺の力で、物は試しだぜ」)。 27
2011-11-28 00:37:09かくして今、二者は昏睡状態のナンシーを前にしている。「なぜ助ける?」というニンジャスレイヤーの問いは、ある意味もっともな疑問である。シルバーキーとて、ナラクの恐ろしさ、それを覚醒させる事のリスクを知らぬはずが無い。だが……シルバーキーは自身のモチベーションの源を語らぬのだ。 28
2011-11-28 00:48:32……「こいつはしかし参ったな」数時間後、シルバーキーは再びマインド潜行を中断し、血の涙を拭いながら告げた。「ちょっとおかしいんだ。まるで彼女のカギがどこかに置き去りにされてるような感覚だ。うまく言えねえんだけど」「カギ?」「ああ、カギだ。……ザゼン中毒なのかな?本当に?」 29
2011-11-28 00:58:13ネオサイタマ・ステイションを降り立ったそのニンジャは、精鋭部隊めいたクローンヤクザ達に周囲を護られながら、時間ぴったりにロータリーに走り込んできたリムジンに滑らかに乗り込んだ。リムジンのルーフには仰々しいシュライン飾りがデコレートされており、瀟洒である。 31
2011-11-28 01:36:56シュラインには小さな旗が数本立てられ、風になびく。意匠は垂直に二分された正ダイヤ文様と、その中に文様めいて書かれた「罪」「罰」の二文字。闇社会に身を置くものであれば瞬時にそれがザイバツ・シャドーギルドのエンブレムである事を見て取り、場合によっては恐怖のあまり失禁するだろう。 32
2011-11-28 01:39:50運転ヤクザは自らこの主に向かって無駄口を叩くようなまねはしない。車内で聞こえるのは、フロントガラスを撫でるワイパーの音だけだ。しめやかに運転されるリムジンはそのまま道なりにしばらく進み、人気の無い鉄橋にさしかかった。33
2011-11-28 01:46:28鉄橋のたもとには、風景にとけこむようなたたずまいで、ニンジャが二人直立していた。これも、時間通りである。リムジンは道路脇に寄せて停止し、まずクローンヤクザが降りて傘を広げると、車内のニンジャがゆっくりと降車した。路上の二人のニンジャは素早く跪いた。 34
2011-11-28 01:49:11「ドーモ……」「フーンク」二人のニンジャは片膝の姿勢で両手を額の前で組み、厳かにアイサツした。「長旅おつかれさまでございます、ダークドメイン=サン。私はワイルドハントです。此奴はインペイルメント」「フーンク」「此奴は喋れんのでして……」「知っておる」ダークドメインは言った。 35
2011-11-28 01:54:39二人のニンジャは素早く立ち上がった。「こちらでございます。温泉とスシを用意させております。ご入用でしたら、オイランも」ワイルドハントはうやうやしく説明した。「なるほど」彼らはダークドメインを先導して歩き出した。ダークドメインは配下ヤクザに傘をささせたまま、その後に続く。 36
2011-11-28 01:57:34「エドマエやツキジがありますから、スシは実際良いです」ワイルドハントは言った。「オーガニックの大トロやバイオウニをご賞味いただいて。オイランはガイオンのようにはなかなかいかぬのですが……」「なるほど」旅館のオモテナシめいた会話であるが、張りつめた空気は尋常ではない。 37
2011-11-28 02:03:11それもそのはず、ダークドメインは並のザイバツ・ニンジャではない。ザイバツ・シャドーギルドにおいてわずか数人。恐るべき戦闘能力と知力、チャの作法、ハイクの才を兼ね備えたグランドマスター位階のニンジャなのである。くわえて今、その虫の居所は……当然ながら……最悪であった。 38
2011-11-28 02:06:51土手の階段を下りると、そこにはかなり巨大な屋形船が停泊していた。「こちらです」「船の中に温泉か」「はい。湧き出た温泉を朝一番に汲み上げまして……非常に価値の高い木炭を用い、スモトリが風呂釜を最適温度に湧かしております」「……」ダークドメインは屋形船を無感情に見やった。 39
2011-11-28 02:13:16「ところで、俺がこうしてネオサイタマくんだりまでやってきたのは、くだらん接待にうつつを抜かす為ではない事はわかっておるな」「もちろんでございます!」ワイルドハントが勢い込んで片膝をついた。隣で直立しているインペイルメントを見、その装束の裾を掴んで、同じように膝をつかせた。 40
2011-11-28 02:20:43「憎きニンジャスレイヤー……このネオサイタマへのうのうと戻って参ったは、まこと遺憾の極みでございます」ワイルドハントは雨に打たれながら言った。「レッドゴリラ=サンも不幸な事と相成り……このように……貴方のようなお方にまでご足労いただくほどに」「その通りだ。無能者」 41
2011-11-28 02:25:02「ハハーッ!」ワイルドハントは泥の中にドゲザした。ブザマ!しかし彼とて低級のニンジャではない。つまりダークドメインが、彼をしてそのようなブザマな真似をさせるほどの権威と実力の持ち主なのだ!「……」インペイルメントは片膝姿勢のまま、ワイルドハントのブザマを見下ろした。 42
2011-11-28 02:28:28「先導せよ」「フーンク!」インペイルメントは立ち上がり、屋形船に向かって歩き出す。ワイルドハントも状況を察してドゲザを解き、仲間に続いて小走りになった。客の到着にあわせ、巨大屋形船の出迎えボンボリが灯り、チョウチンを掲げたスタッフが降りてきた。「イラッシャイマシ」 42
2011-11-28 02:34:10ダークドメインはチョウチンスタッフに右手をかざした。するとスタッフの足元の地面に円い暗黒が口を開いた。「アイエッ!?」彼は穴の中にスポンと吸い込まれ、一瞬にして見えなくなった。ダークドメインが右手を握り込むと、超自然の円穴は何事も無かったかのように閉じられた。 43
2011-11-28 02:39:00「え」ワイルドハントはダークドメインを振り返った。殺したのだ。ダークドメインは何の感情も見せず、屋形船に乗り込む。殺したのだ……何の理由も無く。いや、彼なりの理由はあったやも知れぬ。少なくとも哀れなスタッフとは何一つ関係の無い理由が。「まず温泉を」ダークドメインは言った。 44
2011-11-28 02:42:53(第二部「キョート殺伐都市」より:「ディフュージョン・アキュミュレイション・リボーン・ディストラクション」#1 終わり。#2へ続く) 45
2011-11-28 02:43:36(翻訳チームより:IRC磁気嵐により通し番号42が二度続いています。皆さんいろいろ気をつけてください。おやすみなさい)
2011-11-28 02:48:17