リバタリアニズム思想史 1850-2020

アメリカのリバタリアニズム思想を1850年代ぐらいから見ていく思想史の本。
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吉良貴之|Kira, T. @tkira26

[お買いもの] 1850年頃からのリバタリアニズム思想史。 Zwolinski, M., & Tomasi, J. (2023). The Individualists: Radicals, Reactionaries, and the Struggle for the Soul of Libertarianism. Princeton UP. press.princeton.edu/books/hardcove… twitter.com/i/web/status/1…

2023-08-07 02:03:31
リンク press.princeton.edu The Individualists A sweeping history of libertarian thought, from radical anarchists to conservative defenders of the status quo 398
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

イントロ:19世紀中盤、英仏のリバタリアニズムは社会主義への対抗として始まった。アメリカでは奴隷制の廃止と労働者個人の財産権の確立が目標となった。リバタリアニズムには進歩的・保守的両面があり、柔軟なイデオロギーであることに特徴がある。本書は6つの概念に即してその「魂」を見ていく。

2023-08-07 03:23:22
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

1章:リバタリアニズムは、①私有財産、②権威への懐疑、③自由市場、④自生的秩序、⑤個人主義、⑥消極的自由の6つの印を(程度の差はあれ)支持する家族的類似である。共産主義やアナキズムなど、リバタリアニズムと似たものとされがちな他の思想はこのどれかを欠いている。

2023-08-07 04:00:37
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

リバタリアンを最初に自称したのはフランス生まれの無政府共産主義者、ジョセフ・デジャックだったよ。アメリカに渡って Le Libertaire (1858-1861) というアナキスト雑誌を発行し、そこでリバタリアンという言葉を使った。アナキズムなので私有財産と国家の廃止。 en.wikipedia.org/wiki/Joseph_D%… twitter.com/i/web/status/1…

2023-08-07 03:31:08
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

ブレナンの道徳的対等テーゼ:政府と一般市民が対等だとすれば、なぜ課税とかが可能なのか? Brennan, J. (2021). Moral Parity between State and Non-state Actors. In: The Routledge Handbook of Anarchy and Anarchist Thought. Routledge. routledge.com/The-Routledge-… twitter.com/i/web/status/1…

2023-08-07 04:09:39
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

2章:リバタリアンの3つの時代区分。 ①1850年代~イギリスだとスペンサー、フランスはバスティアとか。ポスト産業革命とアンチ社会主義。 ②冷戦期:ランド、ミーゼス、ハイエク、ロスバード、そしてノージック。理論的に厳格。 ③第三の波:bleeding-heart たち。社会正義も柔軟に主張。経験的。

2023-08-07 04:31:17
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

3章:自己所有権と財産権。ロック的な労働所有権、特に土地に対するそれはリバタリアン思想の系譜でもさほど強く支持されてこなかった。ロック的系譜とヒューム的系譜も、帰結感応性などで違いはあるが、おおむね収斂する。――面白いけど、左派Lに有利な歴史叙述になっていないか気になってきた。

2023-08-07 11:21:18
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

4章:19世紀後半からのアメリカのアナキズム思想史。いろいろ面白いエピソードが紹介されていて、ここはまあ、へぇ、という感じ。

2023-08-07 11:33:58
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

5章:大企業と自由市場。アイン・ランドの本は今でもエリートビジネスマンに大人気だが、こうした市場礼賛はリバタリアニズムの系譜では少数派。英仏のリバタリアニズムはマルクス主義のとつながりが深いし、アメリカも労働運動から始まった。リバタリアンの理想市場は大企業の既得権益を支持しない。

2023-08-07 12:03:24
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

6章適者生存みたいな怖いこと言うリバタリアンいない、という思想史的概観。スペンサーとかも福祉政策の非効率を批判しただけ。冷戦期リバタリアンも BI に好意的だったし、最近の bleeding-heart はもうマジ社会正義。共感に基づく相互扶助こそ繁栄の礎、という点ではむしろ真のダーウィン主義。

2023-08-07 19:11:37
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

左派からのリバタリアン歴史修正主義(悪い意味ではない)といった叙述で、現代に名を残すぐらいの思想家がそんな単純な適者生存とか言うわけないのだが、これはこれで、ではリベラリズムとどう違うんだという不勉強な批判を招き寄せそうではある。反権威主義や自生的秩序論を「魂」と言い張れるか。

2023-08-07 19:24:15
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

左派リバタリアニズムの思想史ということだと Vallentyne & Steiner 編のアンソロジーがあって、出てくる人もけっこう共通している。 Vallentyne, P., & Steiner, H. (Eds.) (2001). The Origins of Left-Libertarianism. Palgrave Macmillan. link.springer.com/book/978033379… twitter.com/i/web/status/1…

2023-08-07 19:38:15
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

7章:アメリカのリバタリアニズムは奴隷制廃止運動から始まったが(そこで銃所持の権利がクリティカル)、冷戦期Lは市場的解決を強調して反人種差別運動に消極的になった。近年のパレオLは私有財産保護という名目で敵対的。他方 Black Liberty Matters 運動のように構造的抑圧を問題化する動きも。 twitter.com/i/web/status/1…

2023-08-08 00:10:29
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

8章:リバタリアンなグローバル正義論は (1) 自由貿易、(2) 自由移民、(3) 反戦平和、の3つに集約される。(1) の最初はイギリスの反穀物法闘争から始まる。(3) は独立戦争や南北戦争には一応の大義があったが、冷戦期には保守派とLを分かつ重要な点となった。(2) 移民正義論は最近のトピック。

2023-08-08 00:23:57
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

というわけで読了。リバタリアニズムの多様な思想を、(1) 19世紀の英仏米における発祥の文脈、(2) 冷戦期の理論的厳格化の文脈、(3) 現代の社会正義重視の流れや草の根保守との関係、といったところから的確に位置付けていて、理論的にもいい感じだし、読み物としても面白いと思います◎

2023-08-08 00:29:18
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

問1:移民自由論についての著者の主張は? 答:思想史の本なので著者が積極的に主張するわけではないが……、(1) 移民の自由は(あまりに当然で?)最近まで論じられてこなかった、(2) 20世紀後半、貧困者も含めて国境を超える移動の自由は最重要のものとする議論が現れてきた(たぶん現在の主流)、

2023-08-08 15:13:44
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

その一方、(3) 私有財産を守るという名目でトランプ的な移民制限論に堂々と賛成する(同時に、資産を持つ「安全」な人は歓迎)リバタリアンも出てきた。本書は (2) (3) のように「自由」と「私有財産の保護」でリバタリアニズムが引き裂かれがちな事情を歴史を通して見ていくもの。

2023-08-08 15:14:11
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

問2:家族については? 答:本書は「個人主義」をリバタリアニズムの魂だとしているので、扱いにくかったか。本書を離れると、個人の自由最優先のリバタリアンが多数派だが、家族を守ってこそ一人前みたいな暑苦しいリバタリアンもやはりいる。思想史的にはフンボルト系列か。

2023-08-08 15:18:22
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

アメリカの歴史からすれば移民が家族経営で財をなしていく過程でリバタリアン的な独立心を強く持つようになった面もある。こうまとめてみると、現在のアメリカでいわれる「分断」がそのままリバタリアニズムの重視する諸価値に対応していることがわかる

2023-08-08 15:19:03
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

原著は430ページだけど、本文は250ページぐらいで、残りの注や文献を小さい字で詰めれば翻訳してもそんなに膨らまないと思います。ノージックとか日本で人気の思想家の記述が少ないのがややネックですが、他にない包括的な通史で、アクチュアルな問題も扱っているのでそこそこ売れそうではある。

2023-08-08 15:08:05