【ある冒険者の信仰】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の信仰23】「そんなに困ってるなら神様に祈ったらどうだい？」 「困ったときだけ頼っても助けちゃくれねえだろ」 「慈悲深い神様は救いの手を差し伸べてくれるさ」 「へえ、さすが神ってだけのことはあるな」 「慈悲深くない神様だと天罰が下るけどね」 「余計に事態が悪化しないか？」

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【ある冒険者の信仰24】「食前の合掌も君らの習慣なのかい？」 「ええ。食材となった命への感謝を表すのです」 「お前らがまんまと騙されて俺様に食われるなんてありがたい話だねえ！」 「あんなこと言ってるぞ」 「どのような形でも感謝の気持ちは大事です」 「なら素直に食われるか？」 「まさか」

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【ある冒険者の信仰25】「俺が依頼した剣は一振りだったはずだが」 「もう一つは鍛冶神への奉納品さ」 「そうか。で、どちらのほうが出来がいいんだ？」 「もちろん、どちらも同じ会心の出来映えだとも」 「なるほど。意地の悪いこと聞いてすまなかったな」 「よくあることだ。気にしておらんよ」

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【ある冒険者の信仰26】「お世話になりました。旅人様の道程に追い風のご加護がありますように」 「ありがとう。君も元気で」 「加護って文字通り追い風が吹くのか。こりゃ楽だ」 「道を曲がっても追い風になるのか。凄いな」 「お前がよそ見すると船が曲がるんだ、気をつけろ」 「なんてこった」

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【ある冒険者の信仰27】「うむ、我が信徒は今や山二つを覆ってなお余りある数よ。お主はどうだ」 「一人だ」 「何？ 謙遜ではなかろうな？」 「国中の信徒の肉体と魂を繋ぎ合わせて一つにまとめたのだ。効率的に管理できる」 「お主いつか邪神認定されるぞ」

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【ある冒険者の信仰28】「ドリアードが野菜を食べるのは共食い？ 共食いは禁忌じゃないとか？」 「ははは、君らは豚や牛の食肉を共食いと言わないだろう」 「あー、なるほど」 「もっとも、そういう思想もあるにはある。そんな子は肉食になるぞ」 「その肉には人も含まれるの？」 「聞きたいかい？」

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【ある冒険者の信仰29】護衛もない僧侶の一人旅、格好の獲物だと思っていた。仲間の四肢が瞬時に切り落とされるまでは。 「なんで僧侶が剣を持ってんだ！ 教義はどうなってんだよ！」 「教祖様は言いました。血が流れなければ問題ないと。ですから、火の神の加護を受けた剣で傷口を焼けばいいのです」

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【ある冒険者の信仰30】「信者の数は減る一方……何か対策を打たねば！」 「教義や戒律に問題があるんじゃないですか？」 「まさか！ 礼拝参加自由、掛け持ち信仰自由、恋愛自由、殺傷も問題なし、禁則事項なし、自由を縛らない冒険者向けなのだぞ！」 「それ、わざわざ信者になる必要もないですよね」

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【ある冒険者の信仰31】「重傷だ！ 薬が足りねえ！」 「あんた、神に仕えてんなら回復とか蘇生とかできるんだろ!?」 「そうは言いましても不信心者には効果が薄いもので……」 「わかった！ わかったから！」 「先輩と同行した方々がこんなに信心深く……一体どうやって？」 「まあ色々あるんですよ」

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【ある冒険者の信仰32】「この町では犬が守護獣として崇められてます。失礼のないように」 「ははあ、何事も犬が最優先ってことかね」 「いえ、私の知る限りでは対等な友として生きることを是としているようですよ」 「それなら気楽に過ごせそうだ」 「飯が犬と同じなのか……」 「対等ですから……」

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【ある冒険者の信仰33】「長らく寂れていたとは思えない活気だ。君に依頼して正解だったよ」 「美食に観光に毛皮ふわふわな獣人と三拍子。後は知名度だけだったってことさ」 「一体どんな宣伝をしたんだろうな」 「あの村は自然を敬うだけあって飯も旨いし景色もいい、何より住人が皆全裸なんだ」

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【ある冒険者の信仰34】「狩った巨竜、どうやって分けよう」 「俺が現金で買い取ろう。それを皆で山分けしな」 「わー！ 神！」 「刃が欠けたか。私の落ち度だ、もう一振り作る。代金は不要だ」 「神対応だ！」 「即興ですが、いかがでした？」 「神演奏！」 「神多すぎない？」 「そうかなー」

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【ある冒険者の信仰35】「戻ったぜ。珍しいお土産があるぞー」 「どれどれ……お前、これ人前で見せてないよな？」 「この菓子がどうしたってんだ」 「この海の怪物を模した焼き菓子、クラーケン派とレビヤタン派で諍いが起きてな……一時期は戦争にまで発展したんだぞ」 「そりゃ狂気じみてるな……」

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【ある冒険者の信仰36】（ああ、死ぬときは強敵と戦って死にたかったな……） 「フフフ、敬虔な信者よ。望みを叶えてあげましょう」 （おお、これが神の恩寵……） 「さあ私と戦うのです」 （！？） 「おやおや、やはり神に刃は向けられませんか」 （いや武勇と無縁な神じゃないですか貴方） 「ぐう」

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【ある冒険者の信仰37】勝負の数日前から、十分な運動に管理された食事と適度な睡眠等、規則正しい生活を心掛ける。当日は念入りに体を清め、身嗜みを整えた上で瞑想により心身は最高の状態へと至るのだ。 「勝利の女神は健全な心身を好むってのが持論だからな」 （賭け事に入り浸るのは健全かなあ）

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【ある冒険者の信仰38】「武器も魔術も不要！ 信じるは鍛えた肉体よ！」 「でも斬ったり燃やしたりできる？」 男は手刀で丸太を両断し、摩擦で火を起こしてしまった。 「どうだ！」 《でも道具のほうが楽で便利だよね》 「うう、私も本当はわかってるのだ」 「体を鍛えても『説得』はできなかったね」

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【ある冒険者の信仰39】「我々も信仰心を高めてもらう努力をすべきだとは思わないか？」 「具体的には？」 「火神とか水神くらいには――」 「俺らみたいな知名度低いのが高望み過ぎるぜ」 「特典でも付けたら？ 信者になればご加護がありますよ～って」 「立派な加護を授けるだけの信仰心がない」

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【ある冒険者の信仰40】「異教徒？ だったら滅ぼさなきゃ」 「違う！ 俺は何も信仰してないだけだ！」 「無神論者？ 神を否定するなら滅ぼさなきゃ」 「だから違うって！ あくまで無宗教であって否定する気はないんだよ」 「そう……」 「分かってくれたか」 「信者にならないなら滅ぼさなきゃ」

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【ある冒険者の信仰41】「見よ、この大樹に浮かび上がる顔を……これが村に根付く怨念なのだ」 （トレントの仕業かと思ったけど、単にウロとか陰影の関係で顔に見えるだけっぽいな。だったら――） 「おお！ 大樹が笑顔に！」 「呪いが解かれたのじゃ！」 （俺の木工技術も捨てたもんじゃないな）

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【ある冒険者の信仰42】「貴様は既に立つことすら叶わぬはず……何故戦える！」 「神の加護さ！ 俺は死なない限り全力で動けるんだ！」 「神よ、私は認識を改めねばなるまい。平和を望みながらも、必要とあらばあのような加護を――」 『え、何それ知らん怖……』 「は？」 『アレ思い込みだよ多分』

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【ある冒険者の信仰43】「山の主様を狩るとは何と罰当たりな！」 「ただ大きいだけの個体だし、あんたらにも被害が出てるだろ」 「こんな温かい毛皮を剥ぐとは罰当たりな！」 「需要あるし高く売れるんだよ」 「主様の肉を美味に調理するとは罰当たりな！」 「食いながら言う台詞じゃねえよなあ」

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【ある冒険者の信仰44】「――ってことで賭け事に大勝して彼女もできて一流冒険者ギルドにも入れたんだ。だから君も入会しよ！」 「そんな胡散臭い話に誰が乗るか！ 賭け事はともかく彼女だのギルドだのはお前の実力だろ」 「そんなこと言われたの初めて……今度からお兄さんを崇めるよ」 「やめろ！」

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【ある冒険者の信仰45】「諦めるな！ 何よりもまず、自分が自分を信じてやろうぜ！」 「そ、そうですね！ がんばります！」 「もうだめだ」 「急にどうしたんです？」 「天の声が囁いたんだ……『ふーん、そんなに言うなら私よりも自分を信じたら？』って……神にフられた……」 「面倒臭いですね」