【ある冒険者の信仰】

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の信仰1】起床後の日課、それが彼にとっては武具の手入れだ。就寝前に済ませていても、依頼がない日でも、これは変わらない。 「ふーん。それが君にとっての『信仰』なんだね」 「単なる習慣だが……まあ確かに、これを忘れた日は調子が悪く感じるな」 「信じる力ってのは強いものだよ」

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【ある冒険者の信仰2】「頭を垂れ、偉大なる精霊に感謝を捧げよ。さすれば山への立ち入りを許す」 （ここは穏便にいくか……） 次の瞬間、長老は首筋目掛けて大鉈を振り下ろした！ 「うわっ！」 「あれれおかしいな。前は腕一本で良かったのに」 「切ってもまた生えてくる奴の言うことは違うねえ！」

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【ある冒険者の信仰3】「偶像崇拝を禁ずるってのは聞くが、推奨するってのは初耳だな」 「絵画も像も出来が良いほど強い加護が得られるということで、皆さん積極的に励んでおりますよ」 「俗っぽい神さんだなあ……」

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【ある冒険者の信仰4】「これはまた酷い……異教徒の襲撃ですか？」 「この町では偶像崇拝は特に禁止も奨励ない自由な方針だったんだが、あまりの出来の悪さに神がお怒りになっちまってなあ」 「俗っぽい神様ですね……」

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【ある冒険者の信仰5】「どうしてお日様はお空を動いてるの？」 「神様がそのようにお作りになったからよ」 「どうしてお空から雨が降ったり雪が降ったりするの？」 「神様がそのようにお作りになったからよ」 「神様ってなんか人が都合良「それ以上続けたら明日の太陽は拝めないと思いなさい」はい」

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【ある冒険者の信仰6】「儂の故郷では４や９が死や苦を連想させるから縁起が悪いとされていたのじゃよ」 「そういうの結構気になるよね～」 休憩する冒険者、そこへ猟犬を４匹連れた山賊９人が襲いかかる！ 「いい度胸じゃ。貴様らには徹底的な苦痛と死を授けよう！」 「めっちゃ前向きじゃん!?」

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【ある冒険者の信仰7】「信じる者を救うのが我々の仕事です」 「足元を？」 「困っている者が神に助けを乞うたならば、そこへ手を差し伸べるのが神の代行者の義務ですよ」 「無視しないでぇ……」 「相手が異教徒だったらどうするんだ？」 「改宗を勧めましょう。神もきっとお喜びになりますよ」

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【ある冒険者の信仰8】「神の言うことが絶対なら、死ねと言われたら死ぬのか？」 「はい」「当然です」「言うまでもなく」 「理解できねえ……」 「ねーえ？ 私、欲しいモノがあるんだけどなー♪」 「フ、もちろん何でもご用意しよう。我が女神よ」 「こういうものですよね」「ええ」「模範的だ」

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【ある冒険者の信仰9】「『戒律を守って仲良く楽しく信仰しよう』だって。何か軽いねえ」 「これは戒律が厳しい上に、破ったときの私刑が苛烈ということも十分に有り得る。だからこそ軽い言葉で信者を誘ってるのかもしれないぞ」 「そんなものかなあ。『猫を崇めよ讃えよ』って面白そうなんだけど」

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【ある冒険者の信仰10】人助けとともに布教を続けた旅の果てに、荒野に倒れ伏した僧の死体。命の宿らない肉体から荷物や衣類はおろか髪の毛一本に至るまで漁り尽くされたことを、ある者は浅ましい行為だと非難し、ある者は死後も他者の役に立ったと敬意を払う。僧自身の意思は、誰にもわからない。

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【ある冒険者の信仰11】「神がたくさんいるだなんて、俺の故郷では冗談みたいな話だよ」 「こっちじゃ神は万物に宿るって考えだからね。隣同士の国なのに全然違うんだなあ」 「思想や信仰が合うなら国が分かれる必要はありませんからね。案外、私達の神も元は同じものだったかもしれませんよ」

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【ある冒険者の信仰12】「この国で蘇生は期待するな。自然信仰で蘇生は不自然だとかなんとか」 「でもお偉いさんの依頼だし」 「冒険者よ、死んでしまうとは何事だ」 （ほら。でも早速のお叱りはキツイな） 「王、時間です」 「そうか。では冒険者、安らかに眠れ」 「説教のためだけに蘇生したの!?」

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【ある冒険者の信仰13】海で生まれ育った魚人は、最期に海へ還ることを是とする。己の肉体は海の生物の糧となり、新たな生命の誕生へと繋がるのだ。 「ここで干からびたくないなら遺跡脱出の知恵を出してくれよなあ」 「生憎だが陸の知恵比べは経験が少なくてな」 「仕掛け解除に陸も海もあるか！」

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【ある冒険者の信仰14】「随分と古臭い鎧だなあ。もう買い替えたらどうだ？」 「これは代々継がれてきた由緒ある鎧だぞ。そこらの量産品よりしっかり俺を守ってくれるんだ」 「へえ。ご先祖のご加護でもあるのかね」 装着者の魂の吸収に比例して鎧が強化されていたと判明するのは、まだ先の話である。

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【ある冒険者の信仰15】「待った、角は一本だけ残して大地に突き立てておけ。こうしておけば、コイツの仲間が俺たちを追ってくることもないからな」 「へえ、それも狩人の知識？」 「うちの爺ちゃんの教えだよ。全部持っていくと罰が下るんだって」 「まあ理屈はさておき、山には敬意を払わないとね」

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【ある冒険者の信仰16】「旅に出るのね……お守り作ったの。無事でいられるようにって」 「ありがとう。手作りなんて心が籠もってるな」 「ええ。あなたの髪を編んで作ったのよ」 「俺の!? 普通は自分の髪を使うんじゃないのか!?」 「だって切ったり抜いたりするの勿体無いし」 「いつ集めたんだ……」

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【ある冒険者の信仰17】邪教徒の心得 ・その１『奪取せよ』 一生懸命集めた盗品が、邪教徒により町にばら撒かれてしまいました。 ・その２『妨害せよ』 知恵を絞って考えた強盗計画は、邪教徒により頓挫してしまいました ・その３『殺傷せよ』 丸々と太った豚が、邪教徒により調理されてしまいました。

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【ある冒険者の信仰18】「言ったでしょう？ 我らが教えのとおり、死は終わりではないと」 「いやだ、まだ死にたくない……」 「受け入れることも強さだよ。さあ……」 「待って、待って！」 「盤上遊戯くらい静かにできないのか貴様らは」 「だっておやつが賭かってるんだよ！」 「大袈裟なんだよ！」

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【ある冒険者の信仰19】「跳ぶ!? この大地の裂け目を!?」 「そう尻込みすると失敗するんだ。俺たちの馬ならできる！ 弱気になると屋根から飛び降りようとして雨樋に足を引っ掛けて腕から落ちて両手首を捻挫した俺……の友人みたいなやらかしが待ってるからな！」 「ずいぶんと具体的だね！」

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【ある冒険者の信仰20】「遠出の馬は必ず白馬にするんだ。願掛けみたいなもんだがな」 「白馬がいないときは？」 「白い馬具で我慢するさ」 「そんなキミにユニコーンの飼い主を探している依頼人を紹介しようと思うんだけど」 「俺が純潔の乙女に見えるか？」 「女装と香水でもイケるんだよ！ さあ！」

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【ある冒険者の信仰21】煮込み根菜に香味野菜を添え香辛料をふりかけたスープ、爽やかな香りが漂う瑞々しい果物、そして表面はカリカリ中はもちもちのパンが食卓に並ぶ。 「おや、口に合いませんか？」 「嫌いじゃないけど、肉が！ そろそろ肉が食べたい！」 「護衛の最中は戒律を守ってくださいね」

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【ある冒険者の信仰22】起床、食事、狩り、睡眠、その他様々な状況で彼は神に祈りを捧げる。 「ずいぶんと熱心だねえ。そんなに感謝されたら、神様もくすぐったいんじゃない？」 「大丈夫ですよ、祈る相手はいずれも違いますから。頼る先は多いほうが心強いでしょう」 「そんな考えってアリなのかな」