稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.06.29)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（ああ、これは何かやってんじゃねえか） と思いましたよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ほいで、“トコトコ”って戻って来たんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

茶畑みたいなね、野生の茶畑みたいのがあるんですが、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこでもって、寒かったんでね、 ちょっと夜の風は冷えますからね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

むろん、夏ですから、 気候自体は、暖かいんですけど、 用をたしてたんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そうしたら、下の方からみんなが、 “ワイワイ”上がって来る。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「おっ。もうみんな来やがった、しょうがない」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思って、茶畑の後ろへ、ポーンと飛び降りて、隠れたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（来たら、脅かしてやろう） と思ってね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

細い、山へ向かう一本道ですからね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

“ドンドンドンドン” みんな上がってくるんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でね、私の前まで来ましたら、 ピタッと止まったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（なんだ）と思っていたら、そのうちに、 “ザワザワ”という音になったんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（あれっ？）と思ったら、 “プッ”･･･。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

嘘のように、声が消えたんですよ、 しゃべり声が･･･。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（これは感付かれたな） と思ったもんだから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あれよっ」 と、飛び出たんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だーれも道にいない。 私ひとりだけ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

風が“ヒューッ”って吹いてんですよ、急に。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（わあ、たまんねんなあ） って、思った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その時に、誰かが私を見ているような気がしたんですよ。 月明かりだけ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

原生林がまるでねえ、白骨化した骨のようにですねえ、 こう、見えるんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（うわあ、すげえなあ、参っちゃったなあ、 ずいぶん上まで来ちゃったなあ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

って思って、それで、気になったものですから、 原生林の上にヒョイと、目をやったんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると、私の背後の広い原生林の奥に、 何かが見えるんですよ。