エリザ氏による、ソ連と西側のバランスを操り、祖国オーストリアの永世中立を獲得したレンナーの偉大で狡猾な手腕の紹介

ソ連の傀儡政権の振りをしつつ、面従腹背、疑ってくる西側にも協力させて、祖国の永世中立を勝ち取った手腕たるや
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エリザ @elizabeth_munh

いんたーねっとRAFちゃんねる

エリザ @elizabeth_munh

お昼のTIPS。 二次大戦後、オーストリアは連合国に分割占領され、首都ウィーンもまた四カ国による統治に置かれる。この時期を軍政期と言う。 ドイツが東西に分割されたように、オーストリアも東西に分割され、ウィーンも西ウィーンと東ウィーンに分かれる可能性があった。 pic.twitter.com/0xh461p0qM

2022-09-10 12:48:08
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エリザ @elizabeth_munh

大戦中、諸国に先駆けてウィーンに殺到したソ連は当然、戦後を見込んで中欧の要オーストリアを親ソ的な衛星国に仕立て上げたいと考えていた。 そこでソ連は隠遁中の社会主義者、カール・レンナーを呼び出し、臨時政府の首班に指名する。75歳の老人だった。 pic.twitter.com/aVUHMoUl0U

2022-09-10 12:49:07
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エリザ @elizabeth_munh

レンナーは一次大戦前から政治に携わってきたオーストリア政界の長老で、人望がありつつも、穏やかで楽天的な性格から、レーニンのような革命家とは対立的であり、またオーストリア国内の左右両派の敵対的な人達を宥める事が出来ず、内乱状態に陥る祖国に絶望し、隠遁した人物。

2022-09-10 12:49:42
エリザ @elizabeth_munh

ナチスによるオーストリア併合の際には、ナチスに批判的な立場でありながら投げやりに合邦を容認する立場を取り、売国奴と罵られる。 謂わば政治的に終わった人であり、傀儡にするにはちょうど良さげだった。 「あの老いぼれ、まだ生きてたのか。丁度いい!」 スターリンは手を叩いて喜ぶ。

2022-09-10 12:50:15
エリザ @elizabeth_munh

レンナーの臨時政府は戦前から元々二大政党をやっていた右派の国民党、左派の社会民主党、そしてソ連を背景として急速に力を伸ばす共産党の三派によって成立する。 閣僚のポストがそれぞれ割り振られるも、レンナーは大臣の下に二人の副大臣を置く。この副大臣は、大臣とは異なる政党から出すとされた

2022-09-10 12:50:54
エリザ @elizabeth_munh

共産党には内政を司る内務大臣のポストが割り振られるも、副大臣によってその行動には掣肘が加えられ、上手く動けない。 レンナーは大人しく傀儡をやる気はなかった。望むのはどこの衛星国でもない、自由なオーストリア。ソ連の言いなりになったように見せかけての面従腹背がはじまる。

2022-09-10 12:51:28
エリザ @elizabeth_munh

レンナーの臨時政府は西側からすると露骨なまでの傀儡政権に見えたし、実際ソ連はそのつもりだった。 ハプスブルク家当主オットーはレンナーを認めず、アメリカに対してソ連の傀儡政権を承認するべからずと書簡を送った。西側諸国も当初、レンナーを傀儡と断じ、オーストリア東西分割が噂される。

2022-09-10 12:52:01
エリザ @elizabeth_munh

レンナーはオーストリア諸州と占領4カ国の代表で今後のオーストリアの行方を決定する会議を開こうと提案する。 ソ連は当初、会議の開催を嫌がった。自らの勢力圏と見做すオーストリアに西側の嘴を挟ませたくない。しかしレンナーは狡猾さを発揮する。

2022-09-10 12:52:38
エリザ @elizabeth_munh

「会議が開かれなければ、結局、私は西側から排除され、彼らは予定通り新しい代表を出してオーストリアを分割するだけでしょう。私は何せ、信用がありませんから」 ソ連は已む無く会議を承認。レンナーは会議の場でも老練な政治家ぶりを発揮し、不信の目を向ける西側の代表と交渉。

2022-09-10 12:53:11
エリザ @elizabeth_munh

「東西分割よりも、全国的な民意のもと、ソ連の影響を排除した方がいい。そのためにはあなた方の協力が必要です。我々を唯一の政権と承認してもらいたい」 粘り強い交渉の結果、レンナーは西側の信用を獲得し、臨時政府は東西両派から承認を受ける唯一の政府となった。

2022-09-10 12:53:41
エリザ @elizabeth_munh

アメリカの後押しのもと、オーストリアで自由選挙が実施される。国際的な監視の元ではソ連ができる事はなく、元来のオーストリア二大政党である国民党と社会民主党がほぼ半々で大勝する中、左派からすら根強い不信感を持たれていたソ連肝煎りの共産党は大敗する。

2022-09-10 12:54:10
エリザ @elizabeth_munh

一杯喰わされた事に気づいたソ連はストやデモ、暴動をけしかけるも、誰も踊らず。このやり方はナチスがオーストリアを併合した時に使ったやり方で、既に経験済みだった。 分が悪い。しかしこのままでは引き下がれない。 そんなソ連にレンナーは落とし所を提案する。

2022-09-10 12:54:40
エリザ @elizabeth_munh

それがオーストリアの永世中立化だった。 東側の勢力圏でもない。しかし西側の勢力圏でもない。 どちらかが武力でもってそれを侵害するならオーストリアは自らの力でこれを迎え撃つ。 「少しはマシか……」 ソ連はこの妥協案を呑んだ。こうしてオーストリアは独立を回復する。

2022-09-10 12:55:04
エリザ @elizabeth_munh

東西に分割されたドイツに対し東西政府からの承認を取り付けたオーストリアは分割される事なく戦後を迎える 売国奴と罵られた政治的な弱点すらも相手を油断させる強みに変え、傀儡となる事を拒否し、諸派を団結させ、国家への最後の奉公として分断を阻止したレンナーは現代オーストリアの国父となった

2022-09-10 12:58:34
エリザ @elizabeth_munh

大国の支配に対し、面と向かって歯向かうのでなく、やり過ごし、罠に嵌め、信頼させ、粘り強く交渉し、誰にとってもベターで利益を得られる妥協点を提示して、合意を得る。 これぞ外交の芸術。 ポリティクスの極み。 pic.twitter.com/boGCGvmoeG

2022-09-10 12:59:13
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Tar Sack @tar_sack

@elizabeth_munh ずっと知りたかった情報を思いがけず手に入れる事ができて、感謝しかありません。国力では到底敵わない相手に対して、伝統のある国は陰謀というお家芸で対抗するという、一つの見本です 音楽好きのオーストリアでも、特に人気のある「こうもり」や「ばらの騎士」も、いずれも陰謀が問題を解決してます

2022-09-10 13:43:14
ティルティンティノントゥン @tiltintinontun

@elizabeth_munh 東京が南北に分割される危険性があったと聞くのですが、そうなったら北東京代表には誰が就いていたんでしょうね。

2022-09-10 18:30:20