ストレイトロード：ルート140（73周目～ゴール）
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Rista_Bakeya
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Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
ソファに寝転がった藍が携帯端末を掲げながら笑い続けている。友達と通話している様子ではない。余程愉快な動画でも見つけたのだろうと思って声をかけずにいたが、私の視線に気づいた彼女は急に姿勢を正した。「今、見たの」「何をです」「画面」「いいえ」正直に答えたのに疑う目をやめようとしない。
2023-09-05 19:23:52
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
わざわざ役所を動かして怪物退治の作戦を予告させ、住民の避難は無事に完了したが。「貴女が怪物を呼べると疑われていますよ」「知ってる」想定内とも取れる一言の後、長い髪が大きく揺れた。背筋を凍らせる鳴き声の主が風に乗って近づいてくる。「町の上を通過させれば観測データをすぐ送れるでしょ」
2023-09-06 19:12:56
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、3638。予告。 町の周辺以外の基地局とか中継設備とかはだいたいクリーチャーが壊していったので。
2023-09-06 19:12:56
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
子供達が思い思いに描く絵はほとんどが地上の乗り物だ。海を行く船や地中を進む探査機もあるが、空を背景にした子は一人だけ。広げた布で風を受けて鳥のように飛ぶ姿という。落下傘も彼らの世代には通じないか。「昔の映画で見たし、実在するって知ってるけど」藍にとっては馬車と似た位置づけらしい。
2023-09-07 18:53:22
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
カウンターの両側に座った男達は仲間らしい。互いを知らないと装いつつ交替で酒を勧めてくる。私を狙って酔い潰そうとするなら相応の目的があるのだろう。理性を手放さないよう抵抗しながら打開策を考えた。知人を誘うと言って藍に電話で報告したが、意図は伝わっただろうか。遠くサイレンが聞こえる。
2023-09-08 19:35:38
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
走りきった。協力者のトラックに引き上げられて荷台に腰を下ろし、一息ついた後、五感に情報が押し寄せた。両足はじめ全身の疲労。呼吸器の痛み。足元の揺れ。エンジン音。ここまで背負ってきた藍を下ろすよう促す声。彼女の頬についた涙痕。怪物の炎に阻まれ撤退を説得した時にはまだなかったはずだ。
2023-09-09 19:19:43
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
作戦中に指揮官が姿を消した。自らの慢心が招いた逆襲と劣勢から目を背け逃げたのだと直属の部下さえ噂した。人間の思惑や立場など知るはずもない怪物だけが雄叫びを上げる。「お前の仕業じゃないと証明してみせろ」藍のに問いながら私を締め上げる上官の手が緩まない。密室の尋問はいつまで続くのか。
2023-09-10 18:39:09
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、3642。劣勢。 誰のせいかではなく、どうすればいいのかが欲しいはずなのに。 あと10回。
2023-09-10 18:39:09
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
説得の末ようやく水夫が櫓を漕ぎ、舟を護岸に近づけた。野鳥が脚立の上に巣を構えたような姿の正体は油井やぐらで、掘削に使うドリル等の装置は幸い撤去済だった。構造物を占拠した怪物は藍の読み通り留守にしている。「あの日も、こんな天気」水夫が撤退の様子を語り始めた。藍から目を逸らしたまま。
2023-09-11 19:31:02
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、3643。櫓(ろ/やぐら)。 あと9日。 二つの読み方のうち前者は「艪」として一度お題に使ったのですが、両方を絡めた話も書いてみたかったのです。
2023-09-11 19:31:02
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
様々な土地を巡り、多くの人の手を借りた。時には対立し窮地も経験した。藍が旅路を振り返ると作ったアルバムには、誰かと一緒に笑う写真ばかりが並んでいた。「こういう瞬間ほど忘れやすいって聞いたから。イヤなことは勝手に思い出すんでしょ」迫害さえ笑い飛ばす魔女に誰がそんなことを教えたのか。
2023-09-12 19:23:35
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
車のエンジンを止めてドアを開けると季節が反転した。半袖で来る場所ではない。予想外の寒暖差に戸惑う間に、藍は先へ進んでしまった。いつ用意したのか冬物のコートを着込んでいる。上着を探す暇もない私は奥歯を震わせながら雇い主を追った。「やせ我慢しなくても」「それなら支度の時間をください」
2023-09-13 18:50:43
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
病室から少女を乗せた車椅子が出てきた。私をきつく睨む患者を藍が宥めた。「心配ないよ、この人はわたしの指示しか聞かないから」藍は私には何も説明せず車椅子を押していった。散歩だろうか。二人の後について庭に出ると先客がいた。藍の友人を口うるさい両親から遠ざける役目は当然私に回ってきた。
2023-09-14 19:00:50
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
視線だけで訴える藍に首肯で応じた。もちろん敗北を黙って受け入れはしないと思っていた。怪物との戦いと違って命の危険はないから、静かに見守るだけだ。「何度やっても結果は同じだろ」「同じ罠は効かない」魔女は王者を自称する少年からカードの束を奪った。「今度はローカルルールなしで勝負して」
2023-09-15 18:51:53
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
魔女が手にした力を呪いと考える人もいるとは聞いていた。大人が知らない「何か」を聞いた少年は親にその類を言われ、村を追い出されたと嘆いた。得体の知れない現象を恐れる心理は否定せず、しかし害はないとか繰り返す間に、藍は近づいてくる松明の列を見つけていた。「そろそろ何を聞いたか教えて」
2023-09-16 18:50:22
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、3648。呪い。 異能を得た子供たちの共通項は、選ばれること。何かを告げる声を聞いたこと。
2023-09-16 18:50:22
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
その時は発言を堪えたが、ブレーキが間に合うかは運次第だった。慎重に車を下りた時の緊張は怪物の牙が眼前に迫った瞬間にも匹敵する。前輪がまさに崖の手前で持ち堪えたから私達は助かった。「よくない」後部座席にいた賊は金庫を持って逃げた後。聞くに堪えない失態を藍はしばらく話題にしなかった。
2023-09-17 18:57:57