ストレイトロード:ルート140(73周目~ゴール)
- Rista_Bakeya
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このシリーズについて
「毎日同じ時間に」「毎日違う単語(お題)を選び」「その単語を組み込んだ話を考え」「1投稿140文字の掌編を投稿する」
という習慣を10年間続けておりました。その最後の52回分がこのまとめです。
物語の土台は一貫して、筆者の短編小説『ストレイトロード』をベースとし、物語の続きに広がった世界の一部分を切り取ったものになっています。
風を操る「魔女」藍(ラン)ちゃんと、その従者となった苦労人おじさんゼファールが、色んな場所に行ったり行かなかったりしています。
前回のまとめでも表明したとおり、この「ルート140」は本まとめが最後となります。
ツイノベというジャンルはTwitterあってこそのものですが、今年入ってからTwitter(現X)の挙動がやたら不安定で、いつまでこのスタイルを続けられるかわからない。
まだ自分がログインできるうちにつけておきたかった「一区切り」、なんとかできました。
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ブログ更新しました / 140文字の今後(他、いくつか報告): gekkado.blog.shinobi.jp/Entry/670/ 主に「ストレイトロード」の展開について。
2023-07-31 23:34:38本編
獣の足跡を辿って森の外に出た。小屋の窓から煙が出ていた。ずっと吠えていたのはここに縁がある犬で、誰かに受難を知らせたかったのだ。「待って」藍に上着の裾を掴まれた。周辺に人間がいない。背後の木々の陰に何かがいる。「野犬でしょうか」「似てるけど、翼がある。角も」初めて聞く特徴だった。
2023-07-31 18:58:22ボートで沖に出たらイルカが集まってきたと端末を見せられた。藍が撮影した動画には海面から顔を出した群れが映っていたが、心配した急接近はなかった。観光客との戯れに慣れているのかもしれない。「でも油断は」「わかってる。エサやりもしてない」親に見せるような不満の顔は信用と取っていいのか。
2023-08-01 18:35:40140文字で描く練習、3602。イルカ。 あと50日。 カウントダウンの理由: gekkado.blog.shinobi.jp/Entry/670/
2023-08-01 18:35:41全体を確認しなかった私が迂闊だった。買い出しを指示するメールはやたら長く、順番も内容も普段と違う。探し回るのに時間がかかり、見落としを恐れて読み直した際に気づいた。必要なのは頭文字だけ。藍が本当に欲しかったのは、私が彼女から離れる時間。車を置いてきた方角へ振り向いた。竜巻を見た。
2023-08-02 19:11:50回りながら降下していった怪物がどこに落ちたかはすぐ判った。屋根を弾き飛ばし瞬く間に炎上した倉庫には危険物か何かの標識があったはずだ。「逃げます」進言ではなく宣言した。驚いてこちらを見上げた藍を、迷わず両腕で抱え上げた。「何するの!」「何をするにもまず貴女の安全が最優先事項なので」
2023-08-03 18:42:06幼い女の子が水面を歩き、湖に浮かぶ舟に追いついた。そんな動画が論争の的になったのは子供を話題作りに利用する是非に加え、今や古い逸話をなぞるような奇跡が本物である可能性を排除できないからだ。藍の一存で現地を訪れた頃には撮影者一家が姿を消していた。物騒な集団から逃げたと住民は語った。
2023-08-04 18:40:25山の中腹で保護した集団は車に乗せるまで沈黙を続けた。一人が持っていた端末を藍が取り上げ、動画を撮り続けていたことを暴露した瞬間、一斉に言い訳が噴出した。近辺で噂される怪奇現象を題材に映画を作っていたという。だが人によって細部が違う。藍は本当の怪奇を見つけたように端末を向け続けた。
2023-08-05 19:12:40「こんなところで会えるなんて」深紅の婦人が奇遇だと微笑む。その発言を藍は全く信じなかった。「どうせ子分から連絡もらって先回りしたんでしょ」怪物が跋扈する前から著名なその人は先程この近くで講演会に出ていた。街ごと避けていれば彼女の部下に囲まれることもなかったが、私の落ち度だろうか。
2023-08-06 18:47:10140文字で描く練習、3607。奇遇。 赤ずくめの婦人マザー・フレイム。いずれ藍の宿敵として知られることになる一人。
2023-08-06 18:47:10怪物に町を追い出された住民の避難所が封鎖され、人々は外で車座になっていた。事情を聞こうと声をかけた途端に怒鳴られた。「お前が余計なことをするからだ!」輪の中心に立たされた藍に四方から非難が浴びせられた。昨日彼女は町の建物を踏み荒らす怪物を追い払ったが、その個体がここに来たらしい。
2023-08-07 18:45:18背負った荷物をついばまれ、食糧をいくらか持ち去られた。足を止めなかったのは怪物の嘴に頭を抉る恐怖が脳裏から消えなかったからだ。捕食者が砲声に驚き逃げた後、先行していた藍と合流した。「少しは軽くなった?」肩の重みは確かに軽減されている。人々の避難が成功した報せは心身をより軽くした。
2023-08-08 18:47:19見晴らしの良い丘だった。昨日保護した老人がここにあった店への拘りを捨てられない気持ちは解る。美味しいビールを造っていた設備には踏んだ跡に加え歯形もついていた。「あの子たちもお酒飲むのかな」藍の一言を聞いてある神話を思い出した。拘りの味が武器になるなら役所も再建に協力するだろうか。
2023-08-09 18:47:52140文字で描く練習、3610。拘り(こだわり)。 怪物退治に一役買うかはともかく、美味しいものはきっとどこかで誰かを救う。
2023-08-09 18:47:52突然割り込んだ閃光に防御の姿勢が追いつくはずもない。しばらく何も見えなかった。聴覚に頼って現場から離れる間、幸い怪物は暴れなかった。「今のは助けたって言わないから!」視界の中心で揺れる残像の合間に、叫びながら走る藍を見た。倉庫の屋根から援護を試みて足を引っ張った人間がいたようだ。
2023-08-10 19:11:56