稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.09.28)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、次の部屋を開けて、カチッ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ボロボロで使えない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「やっぱりダメだなぁー」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それで一番つきあたりの部屋に行って、 ガーンと開けてカチッと点けたら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あれ、ここ、けっこう新しいじゃねぇか」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「なんだ、お前の部屋よりきれいなんじゃねぇか」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「誰か住んでんじゃねぇか、この部屋だけ。 他のはダメなのに、きれいすぎるぞ、ここ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

きれいに整頓されてるんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

掃除されてるんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「どうしようか？」 「いいよ、誰か来たら謝ればいいよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

みんな酔っぱらってるから、 そうしようそうしようって、あがって座りこんじゃった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

外はすごい雨。 かわらを打つ音がするくらい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ザァーッ、窓にバーッバーッ。 昔風の家だから、雨戸がバタバタバタ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「すげぇー雨になってきちゃったな」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

4人で向かい合って座って、 たまにライターでカチッと火を点けて、 何だかんだじゃべって、パッと消える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

またライターを誰かパチッとつけて、 しゃべって、消える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

またライター、誰かつける。消える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

しばらくそうして訳もなく時間が過ぎる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、ひとりが、またライターをカチッとつけたら、 向かい合ってる奴が、黙って一点をじーっと見てる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「お前、どうしたんだ？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いや･･･いや」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「何だよ、お前」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

火が消える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、少ししてまたライターを点けると、 右側の奴も左側の奴も、 じーっと自分の後ろを見ている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

3人とも同じ方向を。