スリー・ダーティー・ニンジャボンド #1

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オイランを一瞥、無視して、ジゴクめいた酒場を後にしたジェノサイドであったが、すぐさまそこに駆け寄る人間あり。ジェノサイドは足を止めた。粗末ななりをした若い女である。このワンダラス町も所詮はガイオンを遠く離れた辺境の荒野の町に過ぎぬが、そこにあっても場違いだ。「何だ」 50

2011-12-12 18:10:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……今の、見ました。見てました」と若い女。そして、やおらドゲザしようとする。ジェノサイドは素早く女の腕を掴み、無理に立たせた。「何してやがる……ふざけるな」「どうか!お助けください!貴方ならきっと助けてくださいます。貴方の力があれば!」「……」ジェノサイドは去ろうとした。 51

2011-12-12 18:13:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうか!」女はカソックにすがりついた。「……」ジェノサイドは舌打ちした。「私、ワタアメといいます。ここからもっと先に行った……オタカラから来ました。逃げて来たんです!」「だから何だ……」ジェノサイドは帽子を目深に被り直した。「襲われたんです、村が……ニ、ニンジャに」 52

2011-12-12 18:18:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドは振り返り、腰を落としてワタアメの目線まで顔を下げた。そして睨んだ。「俺も。ニンジャだ」酒臭い息がワタアメにかかる。「……!」「わかったら。どこへでも行け」「ニンジャでなければ……助けてもらえない」ワタアメの目に涙が浮かんだ。「私の婚約者もいます」「死んださ」 53

2011-12-12 18:24:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワタアメは俯き、声を殺して嗚咽した。ジェノサイドは女の粗末なサンダルが血に染まっているのに気づいた。自分の足で逃げて来たか。「……待てよ、オタカラ?オタカラ村と言ったか?今」「ハイ」ワタアメは涙声で答えた。「そうです。私だけ逃がされました。ト、トンネルで……秘密の」 54

2011-12-12 18:30:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうでもいい」ジェノサイドは言い、「……ついでだ。オタカラ村は俺の目的地に近い」「え……」「案内しろ」ワタアメは思いがけないジェノサイドの答えに一瞬、言葉を失い、それからまたドゲザしようとした。ジェノサイドは今度も腕を掴んで立たせ、それを止めた。「くだらねえ事をするな」 55

2011-12-12 18:33:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ありがとうございます……ありがとうございます!」「だがどうせお前の村はおしまいだぜ。多分な」ジェノサイドは無愛想に言った。「で、なんて名前のニンジャどもだ。名乗ったか」ワタアメはその身を震わせ、呟いた。「……サヴァイヴァー・ドージョー……」「何だと!?」肩越しに叫び声! 56

2011-12-12 18:39:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ワタアメは振り返り、ジェノサイドは睨んだ。町の住人が遠巻きに見守る中、酒場の方角から転がるような勢いで走ってくるのは編笠男である。「いまサヴァイヴァー・ドージョーと言ったかッ!サ、サヴァイヴァー、ドージョー!」 57

2011-12-12 19:02:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

編笠男は二人の目の前に数秒で辿り着き、オジギした。「ドーモ、フォレスト・サワタリです!お前はさっきジェノサイドと名乗っていたな。ジェノサイド=サン!」「ああそうだ、ドーモ」ジェノサイドは面倒そうに頷いた。「ワタアメです」ワタアメもアイサツした。「可憐な」フォレストは呟いた。 58

2011-12-12 19:04:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そのサヴァイヴァー・ドージョーとやらを知っているのか、お前」ワタアメに顔を近づけるフォレストにジェノサイドは口を挟んだ。「そうだッ!」その目から涙が溢れ出す。「や、ヤツら……やっと」涙を拭い、「おれの家族だ!おれがいないと奴らはダメなんだ、それが、はぐれてもう一体どれだけ」59

2011-12-12 19:10:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「家族?そいつらと」ジェノサイドは首を傾げた。ガチャリ、とバズソーの先端が地面に落ちる。「ここで殺しておくか」「イヤーッ!」フォレストはバック転して間合いを取った。そしてカラテを構え、叫び返す。「そうはいかんぞ!やっと見つけたのだ!どれだけ探したかわからん!案内してもらう!」60

2011-12-12 19:16:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドとワタアメは顔を見合わせる。「話が見えねェ」ジェノサイドは言った。「お前はサヴァイヴァー・ドージョーのボスだったと」「そうだ」「追い出されたわけか」「そう……違う!はぐれたのだ!もう何ヶ月も……」「ワタアメ=サン。襲って来た連中のボスはどんなだ。名乗ったろ」 61

2011-12-12 19:21:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ……」ワタアメはジェノサイドの背後に少し隠れるように動きながら、「率いていたニンジャは『イヴォルヴァー』と」「知らないッ!知らないぞ!」フォレストは絶叫した。「なんだその!ふざけた名前は!」そして地面に突っ伏し、オイオイと泣き出した。「クッソーッ!」 62

2011-12-12 19:37:19
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「よォし!イイ按配だ!」地面に伏せてじっと様子を見守っていたフォレストは勢いよく立ち上がり、焚火の下にうずめたバンブーの包みを箸で挟んで取り出した。頭上の夜空には眩しく星々が輝く。ガイオン市やネオサイタマでは決して望めぬ空だ。「さあ!食うがいい!」フォレストは包みを配った。64

2011-12-12 19:45:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

三者は今、荒野の只中で野営の焚き火を囲み、フォレストが見つけてきた食糧を取ろうとしているのだ。すこし離れた場所には二頭のサイバー馬。これもフォレストが盗んで来た。「ありがとうございます」「……」ワタアメとジェノサイドはそれぞれバンブー包みを開く。バイオダチョウの蒸し焼きだ。 65

2011-12-12 19:49:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ダチョウの下にはコメが敷き詰められており、肉汁が染みている。ワタアメは涙すら浮かべてこれを食べる。フォレストは莞爾としてそれを見、自身の分をムシャムシャと食べた。「モッチャム!」そしてジェノサイドを見、「遠慮をするな、いつベトコンのアンブッシュがあるかわからんぞ」66

2011-12-12 19:55:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドはモソモソと料理を口に運ぶ。「ああ、うむ」「実にうまい!日々の中で小さな楽しみを出来るだけ見出すのがサヴァイヴァルに肝要なところだぞ!……何を泣いている?」フォレストがワタアメを怪訝そうに見た。号泣しているのだ。「すみません……美味しくて……嬉しくて」「フゥーム」67

2011-12-12 20:02:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「貴方の言う、日々の楽しみ……そんな事、考えたこともありませんでした」ワタアメは泣きながら、「毎日、毎日……苦しい事ばかり」「それはいかんぞ!」とフォレスト、「何事も気の持ちようだ!」「……なんでそんな辛いだけの村の事を気にかける」ジェノサイドは口を挟んだ。 68

2011-12-12 20:09:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私にはあの場所が……あの場所そのものが私の一部なんです。辛くても、離れるなんて、想像すら。それに愛する人がいます」とワタアメ。「例の婚約者か」とジェノサイド。ワタアメは頷いた。「将来を誓い合いました」「呪いめいてるな」ジェノサイドは焚き火に背を向け、ごろりと横になった。 69

2011-12-12 21:09:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワタアメ=サン」フォレストが神妙に言った。「おれの家族の狼藉をお詫びする」「え……」「確かにサヴァイヴァー・ドージョーはサヴァイヴァルの一環で物資の調達も強奪も行う。人も殺す。生きるとはそう言う事だ。殺らねば殺られる、それがジャングルだ。だが!」フォレストは目を輝かせた。 70

2011-12-12 21:14:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おれは今まで、不必要な、無駄な殺しはさせて来なかった。工場や倉庫は襲った。セキュリティを殺す事もある。奴らにも家族はある。だがそれは生き残るためだ。……しかしアンタの話は、おれの知るサヴァイヴァー・ドージョーと違う」「……」「すまん」フォレストは頭を下げた。 71

2011-12-12 21:21:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは実際、共感可能性の低い、狂人の勝手な理屈であった。ワタアメも彼の言うところは半分もわからなかっただろう。だが彼女は穏やかに言った。「私にはよくわかりません。でも、あなたは悪い人には思えません……だから、わかりません」「すまぬ……すまぬ」 72

2011-12-12 21:41:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

翌日!早朝から雲一つない大空には死神めいた太陽が照りつけ、容赦なく馬上のワタアメの体力を奪った。フォレストは道中の植物で器用に編笠を作り、これをワタアメに与えた。重金属酸性雨の降りしきる都市にありては誰もが夢見る明るい太陽も、この地では有害な気候要素に過ぎない。 74

2011-12-12 22:18:49