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ジ・インターナショナル・ハンザイ・コンスピラシー #4
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ペイルシーガルは規定事実めいて、自身の指輪を見せた。係官は頷き、一歩下がった。「オタッシャデ」「オタッシャデー」ペイルシーガルはクルマを発進させる。エラボレイトは口笛を吹いた。「俺が昨晩抱いたオイランもハンザイだったか?」「そうかも知れんな」ペイルシーガルは真顔で答えた。 20
2024-05-09 23:11:02![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
彼らの行く手に、カジノ・デジマ入口、最初の陸地のきらびやかな威容があらわれた。サーチライトじみた光が上空のスモッグに「カジノ」「王様」「貴方」などの壮麗な文字を投射し「巨大な歓迎」というグリッターネオン看板がそびえ立つ。カモメハヤイはドリフト停車し、恭しいスタッフが出迎えた。21
2024-05-09 23:16:38![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
カモメが舞う空の下、デジマ群島を繋ぐ周遊屋形船は、LEDランタンが浮かぶ洋上で揺られている。ビル・モーヤマはタタミの上でスシを口にし、熱いチャを飲んだ。『ウップ!船酔いしそうです』傍らのシリンダーが光り、ジョンの脳髄がスピーカーで発言した。『でも先日の絶体絶命に比べれば天国です』 23
2024-05-09 23:22:21![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ビルは甲板に佇むザルニーツァを見た。彼女は上空を旋回するカモメを見上げている。ビルは立ち上がり、シリンダーを掴んで屋根の外へ出た。「故郷を思い出すかね」「そうかも知れません。感慨はありませんが」「バイオカモメは時として凶暴だ」『どうか、僕が盗まれないようにしてくださいね』 24
2024-05-09 23:29:27![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ジョンが光る。『僕は実際、オペレーションの要であると自負しています。なにしろ博覧会場は広いですし、僕の感知能力が必要となりますよ。ブギーマンの存在をいち早く知覚できるわけですから。もしあのとき僕が死んでいれば、作戦進行上、かなり問題があった筈です』「心配せずとも、君は必要だ」25
2024-05-09 23:32:43![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
屋形船はゆっくりと、だが着実に、目指す島へ近づきつつあった。マジェスティック・エキジビションの会場となるハクラン・アイランドへ。KOL社は今回の「戦勝記念博覧会」開催の為に、わざわざ人工島をひとつ作り上げてしまった。「何かといえば威信を持ち出す。実にカタナ的だ」ビルは呟いた。 26
2024-05-09 23:37:43![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「知っての通り、KOL社は先日、ロンドンを "ケイムショ" の手から奪還した。リアルニンジャとの戦争に勝利し、死都を蘇らせる。その悲願達成をネオサイタマにおいても大々的に行い、企業の力を誇示する狙いだ。大英博物館の至宝を運び込んでな」『非常にマジェスティックというわけですね』 27
2024-05-09 23:43:56![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「KOLはオムラ・エンパイアと並び、国家崩壊後のネオサイタマ分割統治に特に積極的なメガコーポだった。かつてそれが御破算となって以来、忸怩たる思いを抱えて来た筈。お膝元たるロンドンの問題が解消された今、あの手この手で更なる影響力を得ようとしてくるだろう」「それゆえの……」 28
2024-05-09 23:49:26![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
ザルニーツァは進行方向に浮かび上がった島影と、ライトアップされた建物を見た。いかめしい十字型建造物。中央部にはドーム屋根があり、ドームの上に……ゴウランガ……巨大なカタナのモニュメントが設置されていた。エクスカリバーを模した巨大モニュメントは無数のワイヤーで支えられている。 29
2024-05-09 23:53:57![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「あの中に、大英博物館所蔵のレリックの数々が……」ザルニーツァは眉根を寄せた。ビルは頷いた。「そうだ。それがブギーマンの欲望の向かう先だ。レリックの意味を、単なる歴史的・美術的価値の観点だけで論ずることはもはや出来ない。君たちは先日の作戦で、身を以てそれを知っただろう」30
2024-05-09 23:59:24![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
『嗚呼、とても』ジョンがシリンダーを光らせた。『とても不吉な予感がします』「その不吉の先にこそ、我らの目的達成がある」ビルは言った。「凶運の泉にダイブし、一粒の成果を持ち帰るのだ。命にかえてもな。それが我々アルカナム・エージェントに課された使命だ……!」 31
2024-05-10 00:04:44![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
KA-BOOOM!BOOOOM!号砲が打ち鳴らされ、無数の花火が空を染めた。ハクラン・アイランド、マジェスティック・エキシビション!初日たるこの夜は、特別な招待者のみが来訪を許されている。暗黒メガコーポ各社の上級サラリマン、CEO、カネモチ、IRCセレブリティ、アーティスト……! 33
2024-05-10 00:09:37![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
十字形建造物の巨大な門が音立てて開かれると、人々はクラッカーを鳴らし、拍手をし、笑いさざめいて、会場内に足を踏み入れる。出迎えるのはユニオンジャック柄の布を着た、獅子めいたバイオアニマル……ブリットケモチャンであった。「ケモエール」ブリットケモチャンは行儀よく鳴いた。 34
2024-05-10 00:14:28![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
然り、まずはパブ&レストラン・ブースである。そこではケモエールがフリーで振る舞われ、フィッシュ・アンド・チップスとキドニーパイが食べ放題となっている。コンサート会場ではこの後、カタナ・オブ・リバプールが推すバンドの演奏が予定されている。最新テック展示のブースも豊富だ。 35
2024-05-10 00:19:22![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
招かれたVIPたちは心得たもので、開場と同時に全速力で走ってゆくような者は皆無。そのようなことをすれば即座にムラハチとなり、IRC-SNSに醜聞があふれる。貪婪の都ネオサイタマといえど、カチグミの間では奥ゆかしさが当然のごとく求められる。そして知的なクールさが。 36
2024-05-10 00:23:14![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「フン……まったくもって、おめでたいものだ」エラボレイトはペイルシーガルと並び歩き、ゆったりと余裕ある会場内の様子を見定めてゆく。二日目以降は一般客も殺到し、こうした眺めとはゆかぬだろう。「コンサートは何が出るんだ。KOLのアピールというからには、例のロイヤルニンジャどもか?」 37
2024-05-10 00:29:39![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「当然、その線だろう」ペイルシーガルは認めた。「エリザベートCEOのお気に入りのニンジャ連中は、祖国においては大衆のカリスマとしての振る舞いも求められると聞く。ネオサイタマの連中にも大々的に打っていきたい筈だ……」「"マークフォー" だろうな」エラボレイトは言った。彼は詳しい。 38
2024-05-10 00:34:48![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
二人は当然、物見遊山じみてうろついているわけではない。事前入手した会場図と、実際の展示を摺合せ、キャリブレートしていく行程が必要だ。エラボレイトの網膜にワイヤフレーム三面地図が展開し、視界と重なり合う。十字の建物に配されたフェスじみたブースの数々。行き交うVIPたち。 39
2024-05-10 00:38:20![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
早速彼が捉えたのは、エメツ反重力によって浮遊する最新型の掃除機を前に首を傾げている緑のスーツの男だ。ヨロシ・サトル。ヨロシサン・インターナショナルのCEO。ニンジャであり、高い戦闘能力を持つ。傍らには秘書。ナイン・トオヤマ。推定年収がカウンターじみて躍る。さらに護衛ニンジャの姿。 40
2024-05-10 00:41:22![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
エメツ反重力テックの誇示は、浮遊する反重力掃除機のような超高額の趣味的製品ばかりではない。最新型のハコブ級反重力キャリアーVTOLのような巨大なプロダクトも誇らしく展示されている。油断なくそれらを一瞥し、通り過ぎたのは、ソウカイ・シンジケートの当主、ラオモト・チバその人である。 41
2024-05-10 00:47:42![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
特徴的な銀髪を後ろに撫でつけ、モンツキ姿も堂に入った青年――非ニンジャであるが、データと照らし合わせるまでもなく、付け入る隙のない、帝王の器とでもいうべきアトモスフィアを、エラボレイトは確かに感じ取っていた。当然、傍らにはニンジャの護衛あり。高い戦闘能力。 42
2024-05-10 00:53:40![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
「チバなくして今のネオサイタマなしと言ったところか」他所者のエラボレイトであっても、その姿を肉眼で見たことには一種の感興があった。ニンジャの護衛は、はちきれんばかりの筋肉をスーツで封じ込めた男。ネヴァーモア。高い戦闘能力。「アイエエエ!」すれ違うVIPが自然失禁した。 43
2024-05-10 00:58:27![](https://s.togetter.com/static/web/img/placeholder.gif)
一番奥のエリアが「至宝展示場」。強化ガラスに守られた古代インカの黄金メンポであるとか、石の馬頭であるとか、レコードであるとか、勝利の女神像であるとか……それらは単なる警備員ではなく、KOLのニンジャ達によって警護されていた。ディカスティス。ティンロッド。高い戦闘能力。 44
2024-05-10 01:06:21