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映画よもやまばなし 5回目 21世紀初頭のイーストウッドの荒みについて <後編>

参考資料の年表です。フルサイズにしてからダウンロードして下さい。 間違いがあったら教えてね。 http://twitpic.com/1sit43 ご指摘があったので、現在修正中でいったん削除してます。ごめんね。
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榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中!!! @chimumu

25.そもそも、西部劇というジャンルで人が死ぬのは当たり前で、しかも影の薄いキャラの死は記号的に扱ってもなんの差し支えもなかった。けれど、『許されざる者』では人を殺せば心の中の何かが壊れる(=人でなしになる)ということが、リアルに迫ってくる。これもある意味「お約束」違反だ。

2010-05-29 02:02:19
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26.この殺人に対して保安官は怒る。「この件は馬六頭で終わりだ」と宣言したにもかかわらず、勝手に復讐して人が死んだからだ。近代国家は個人による復讐を認めない。この意味では保安官はすくなくとも間違ってはいない。

2010-05-29 02:03:29
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27.俺はもう人殺しは無理だ、と戦線離脱した旧友(モーガン・フリーマン)を保安官は捕らえてなぶり殺す。そして、そのニュースを聞いたイーストウッドの中で何かが壊れる。そしてこの保安官を殺してしまう。

2010-05-29 02:05:58
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28.映画の法則に従って、イーストウッドが演じる主人公もこの映画全編を通して変化する。しかし、その変化の出発点と到着点が変だ。まっとうに死を怖れる人間らしい人間から極悪人に変化を遂げる。逆だろふつー。これじゃあ、身も蓋もない。一体これは何なのだ。

2010-05-29 02:07:37
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29.中条省平はこのように書く。「『許されざる者』は、イーストウッドの倫理的ニヒリズムの到達点をしるす作品であり、その暗さ陰惨さは、物語としても、映像としても、ぎりぎりの限界を記録している」(「クリント・イーストウッド アメリカ映画史を再生する男」)このぎりぎりがキーワードだ。

2010-05-29 02:08:21
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30.「ぎりぎりの限界点」というのは「物語としても映像として」だけじゃない、と僕は思う。ジャンルとイーストウッド作品『許されざる者』の関係がぎりぎりであり、アメリカとクリント・イーストウッドの関係もぎりぎりだと考えているんだ。

2010-05-29 02:10:02
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31.なぜ、イーストウッドは保安官を殺したのか、彼をまっとうな人間につなぎ止めていた何かはなぜ壊れたのか(モーガン・フリーマンの死を聞いた時、イーストウッドは控えていた酒瓶に手を伸ばす)。それは仲間を殺されたからだ。ここがポイントだ。

2010-05-29 02:10:38
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32.仲間の為に国家(この場合は保安官)を裏切る/仲間の為なら人を殺すというのがイーストウッド作品に脈々と流れるテーマなんだ。

2010-05-29 02:11:39
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33.『許されざる者』では国家(アメリカ)はこんなシーンに垣間見える。賞金稼ぎとして先に現地入りした英国人の賞金稼ぎが気障ったらしく女王陛下を自慢し大統領をこき下ろす。こいつを「独立記念日に女王の話か!」と保安官がフルボッコにする。その保安官の肩ごしに星条旗がはためく。

2010-05-29 02:12:30
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34.しかし、この保安官をイーストウッドは殺す。『許されざる者』がぎりぎり西部劇たり得ているのは、賞金稼ぎ、復讐、最後の銃撃戦、という西部劇のアイテムが一応並んでいるからだが、この西部劇ならぬ西部劇の背後にあるアメリカは、通常のそれとはかなり異質なものだ。

2010-05-29 02:13:30
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35.星条旗といえば『ブロンコ・ビリー』のワイルド・ウエスト・ショー(西部劇のショー)のテントは、いったん焼け落ちるが、星条旗で縫い上げられて復活する。星条旗の下でイーストウッドと仲間達は誇らしくお得意の技を披露する。

2010-05-29 02:14:37
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36.実はこの星条旗は、犯罪者の精神病院で縫い上げられたもので、そこにはアメリカの犯罪と病いが塗り込められているのだけれどね。そして、カウボーイそのものも現代アメリカ社会では時代錯誤な存在なのだけど、それでもイーストウッドは「俺はなりたいものになっている」と胸を張るのだ。

2010-05-29 02:15:37
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37.ブロンコ・ビリー』では、アメリカンドリームは危ういけれども、成立している。が、イーストウッドが資金調達した『告発のとき』(『ミリオンダラー・ベイビー』等の脚本家ポール・ハギス監督作)のラストでは星条旗が逆さまに掲揚される。これは「助けてくれ」の意味だという。

2010-05-29 02:16:24
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38.作品の背後にあるアメリカそのものが変貌しているのだ。ハリウッド映画(ジャンル映画=小さな物語)の背後にアメリカ(大きな物語)がある。しかし、イーストウッドが見つめるアメリカに亀裂が入る。映画はジャンルから逸脱し、荒(すさ)む。これが僕の仮説だ。

2010-05-29 02:19:02
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39.仲間の為なら人を殺すというのが、イーストウッド作品に頻繁にみられるテーマだといったが、21世紀に突入した2本目の映画『ミスティック・リバー』ではとんでもないことが起きる。誤射して仲間を撃ち殺してしまうのだ! ダーティ・ハリーは、少なくとも、殺すべき相手を間違えはしなかった。

2010-05-29 02:20:13
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40.しかし、間違えたショーン・ペンを僕らは簡単には責められない。この映画の観客(僕ら)も見誤っているからだ。この問題はかなり複雑だ。実際、複雑な現代社会を生きざる得ない僕らは叩くべき相手を間違える。アメリカ人もブッシュのイラク戦争を支持した。

2010-05-29 02:21:31
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41.この誤射のモチーフは『父親たちの星条旗』では、自軍に砲撃されて軍曹が死ぬというシーンで反復される。しかも、この軍曹、上官に配置換えを薦められたのに「部下に母ちゃんのとこに連れて帰ってやるって約束した」と硫黄島へ。そして仲間の為に身体を張って仲間に誤殺される。

2010-05-29 02:22:11
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42.こんな皮肉や陰惨さは、1986年に撮った戦争映画『ハートブレイク・リッジ』にはない。上官であるイーストウッドはダメ兵士達に言う。「お前達を救うのが俺の仕事だ」と。そしてそのトーンはほのぼのとして明るい(一連のTシャツのシーンなんか爆笑もの)。この隔たりはなんだ?

2010-05-29 02:23:49
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43.そして、21世紀に撮ったボクシング映画『ミリオンダラー・ベイビー』ではついに仲間を誤殺ではなくある意志をもって殺す。ボクシングといえばアメリカンドリームを描くのにはうってつけの題材だ。しかし、ここではアメリカンドリームがはっきりと葬られているのだ。

2010-05-29 02:24:44
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44.思えば、ほのぼのとした軍隊喜劇『ハートブレイクリッジ』が撮られたのは湾岸戦争前だ。その後アメリカは(そして日本もだが)すさまじい変貌を迫られる。

2010-05-29 02:25:31
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45.湾岸戦争、9.11テロ、イラク戦争、そして製造業産業の崩壊、金融経済にシフトするがサブプライムローンでこれも破綻する。特にイラク戦争はイーストウッドが支持する共和党政権下で強行された。荒むなというのが無理だろう。

2010-05-29 02:26:24
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46.最新作『インビクタス』のラストが、イーストウッドの作品の中では、最も開放的なトーンで締めくくられているのは、舞台がアメリカから遠く離れていることと無縁ではないと思うのだ。

2010-05-29 02:27:21
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47.僕が、この前編で「イーストウッドが変わりたくて変わったのではない、アメリカの変質がイーストウッドに変化を強いたのだ」と書いたのはそういうことを言いたかったのです。

2010-05-29 02:27:52
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48.しかし、イーストウッドは突如として『グラン・トリノ』でジャンル映画に戻ってくる。映画の中の名車グラン・トリノはアメリカの栄光の象徴、いわば星条旗のような存在だ。それをあえてアジア人に継承することで、ユーモアをたたえつつイーストウッドはこの荒みから回帰するのだ。やった!

2010-05-29 02:30:02
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49.映画史を見てみると、映画は芸術とジャンル(大衆)の間をなんども往復してきた。涙ぐましい努力でなんとか映画を芸術に近づけようとした時期もあったし、映画の方が大衆に戻ってくることもあった。そう思うとイーストウッドのフィルモグラフィーは映画そのもののような気がするのだ。

2010-05-29 02:30:57