アウェイクニング・イン・ジ・アビス #4
……そして、遠くに見える、もと来た広間の光景に目を見張った。おそらくは竪穴のはるか上から、よくわからぬ黒い泥……巨大なヘドロ塊めいた何かが降ってきて、べしゃりと地面に広がった、その瞬間を……。 25
2012-02-02 17:50:17「ここだ、例のこれだぜ!」ガンドーはウミノのメモを突き出した。そして床に埋め込まれた金属板を示す。そこには「入るは一人、出るは二人」と書かれている。彼らの目の前には川が流れていた。激流だ。そして細い石橋。血みどろだ。石橋には全部で17のトリイがある。だが……。 27
2012-02-02 18:00:24「ウープス」ガンドーは顔をしかめた。石橋の上にはクローンヤクザの 惨殺体が無数に転がっている。鋭利な刃物で切断された遺体である。「待て」ニンジャスレイヤーはニンジャ視力でトリイ・ゲートの秘密を見て取った。「ギロチンだ」全てのトリイ・ゲートの上部に鋭利な刃が仕込まれている! 28
2012-02-02 18:07:32「入るは一人、出るのは二人」ガンドーが呻いた。「二人?二つの間違いだよな?」「……」ニンジャスレイヤーは腕組みして沈思黙考した。「メモには続く文言があったはずだ」「ああ、そうだな」ガンドーはメモを見返す。「ゴリラの背を鳴らし、しかるのち、災厄のニンジャを正しき順序で唱えよ」 29
2012-02-02 18:43:41「それらしい物は」ニンジャスレイヤーはこちら側の岸を見渡す。金属板の他には何も無し。ガンドーが目を細めてトリイゲート列の奥……向こう岸を見やった。「……ありゃ何だ?俺にはよく見えんが、何か無いか?」「……」ニンジャスレイヤーはニンジャ視力で奥の闇を見通した。 30
2012-02-02 19:15:51向こう岸、鳥居の列を真っ直ぐ抜けた突き当たりの壁に、「汝の多いニンジャ腕力を試したい」と古代フォントで刻まれた金属板がある。金属板には文章の下に円い印がつけられている。「……」ニンジャスレイヤーは考える。これまで通過した仕掛けはニンジャとしての能力を試す物が多かった。 31
2012-02-02 19:19:58となれば、これもまた……。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはおもむろにスリケンを投擲した。スリケンは真っ直ぐに17のトリイゲートを通過し、見事な狙いで、対岸の壁の印に突き刺さった。するとどうだ、こちら側の岸の地面の例の金属板が、音を立てて迫り上がったではないか! 32
2012-02-02 19:22:27迫り出した床のそれは四角い柱となった。柱の四側面にはそれぞれ窪みがあり、小指ほどの小さな鐘が吊り下げられている。ガンドーは口笛を吹いた。ニンジャスレイヤーが問う「コンパスはあるか」「こんな地下深くで効くかね」ガンドーは携帯端末を取り出した。「ああ、こっちが北だ。で、どうする」33
2012-02-02 19:27:20「ゴリラの背を鳴らせ、だ」とニンジャスレイヤー。ガンドーは頷いた。ガイオンのゴリラ門は東にある。これは四聖獣の伝説由来だ。ガンドーは西側の鐘を銃の背で小突いた。澄んだ音が鳴り、柱の天辺から、さらに小さな四角柱が迫り上がった。「災厄のニンジャだな」とガンドー。 34
2012-02-02 19:33:21柱の四側面にはそれぞれ、「イクサ(原註:war)」「ゼツメツ(原註:death)」「ヤマイ(原註:pestilence)」「キキン(原註:famine)」と書かれている。「オイオイオイ、災厄のニンジャだと?黙示録の四騎士だろ。聖書だ」ガンドーが両手を広げた。「どういうこった」35
2012-02-02 20:10:29禍々しいルーンカタカナ……そこに込められた何らかの示唆、秘密が、非ニンジャであるガンドーにもたらす悪影響を、ニンジャスレイヤーは直感的に恐れた。「正き順序と言ったか?」彼はガンドーを遮った。ガンドーは彼を見返した。「……ん?ああ。黙示録の四騎士の順序って事だろうな。ワカル」 36
2012-02-02 20:20:20「正しき順序。となれば、ヤマイ、イクサ、キキン、ゼツメツって事になる。名を呼ぶ?声に出す?まさかだよな」とガンドー。「てことは再度鐘だ。今度は四聖獣じゃねえ。上の四騎士を見ながら、同じ方向の側面の鐘を、こう……」ガンドーはためらう事無く、鐘を叩いていく。 37
2012-02-02 20:28:56四度、違った音程の鐘の音が地下空間を揺らす。アタリだ!唸りを上げて、17の危険なトリイゲートを列した石橋が180度回転!トリイゲート列が下を、まっさらな面が上を向いた。逆さになったクローンヤクザの惨殺体は全て下へ落ち、激流に流された。 38
2012-02-02 20:33:38「行こうぜ」ガンドーは親指で行く手を示した。「ガンドー=サン」ニンジャスレイヤーが名を呼んだ。「あン?」「よからぬ予感がするのだ」「何だよ、いきなり」「ここは侵入者のニンジャとしての力を試す場所だ。オヌシはニンジャではない。仮にこの後、我々に等しく罠が発動する事があれば」 39
2012-02-02 20:38:21「ああ?」「……等しく罠が発動する事があれば、私でもオヌシを守りきれる自信は無い」「……」ガンドーは肩をすくめた。「ああ。仕方ねえ。ヤバくなりゃトンズラさ」ガンドーは肩をすくめ、素直に言った。「大変そうだけどな」「分断された時は地上で落ち合う」ニンジャスレイヤーは言った。 40
2012-02-02 20:43:12「いいぜ。そん時はIRCだ。探偵のカンだが、この手の建物は地上へのショートカットが所々にあるもんさ」ガンドーは言った。「もちろんそうそう脱落するつもりはねェぞ」……ニンジャスレイヤーは頷いた。「次の門だ」41
2012-02-02 20:45:56二者はためらう事無く次なる門を開け放った。窮屈な直進通路だ。両側の壁には稚拙な筆致で何らかの伝説の絵巻が描かれている。ここまでの道のり、それぞれの区画に描かれるモチーフには相互のつながりが無く、その出来栄えもまちまちである。その統一感の無さに、かえって奇怪な迫力があった。42
2012-02-02 21:34:30壁画のモチーフは実際何であろう?筏が小さな島に打ち上げられると、生き残った老人は、老木がただひとつぶら下げた果実を見出す。桃めいた果実を老人は捧げ持つ。それを洞窟の闇の中から、無数の目が見つめている。「そんな事を言っていたら、早速別れ道と来たぜ」ガンドーが指差した。 43
2012-02-02 21:39:56現れたのはT字の別れ道だ。突き当たりの壁には金属板が貼られ、「ニンジャ知恵と規則」と書かれている。左右の道はどちらもタタミ1枚程度で行き止まりだ。だが、どちらの行き止まりにも、ヒビ割れた粘土像がある。ガーゴイルめいて遺跡を守護する戦士像、ハニワだ! 44
2012-02-02 22:13:45「これってのはよ……」ガンドーは頭を掻いた。ニンジャスレイヤーは金属板に目を近づけた。「微かに副文が読み取れるようだ。……『英雄と介添人を要する。介添人無くば去るべし。王子と乞食に扮する』?」「童話か?」ガンドーは言った。「ハニワと関係ねぇよな」45
2012-02-02 22:33:32ガンドーは左右のハニワを見比べた。「介添人ってのは俺の事かね?気に入らねえがまあいい。……アレだ、それぞれが左右のハニワのところへ行くんだろ、まずは」「他に無かろうな」ニンジャスレイヤーは頷いた。ニンジャスレイヤーは左、ガンドーは右のハニワのもとへ移動し、向かい合った。 46
2012-02-02 22:38:37「よし。俺が介添人だ。そっちのハニワのほうが偉そうなナリをしてる」ガンドーは反対側のニンジャスレイヤーに向かって言った。「英雄ってのはニンジャだろ。介添人は俺のような非ニンジャって事だ。両方ニンジャでもいいんだろうが、とにかく英雄側はニンジャだ」 47
2012-02-02 22:48:41ガンドーはハニワの頭頂部にレバーを見つけた。「こうしていても仕方ねェ。やっちまうぞ」「よかろう」ニンジャスレイヤーが頷いた。ガンドーはレバーを引いた。即座に鉄格子が落下し、二者をそれぞれのハニワとともに閉じ込める!そしてガーランド銃めいた金属音が鳴った。チーン! 48
2012-02-02 22:52:34そして、ナムサン!天井がゆっくりと下がってくる!押し潰される!「ヤバイヤバイヤバイ!」ガンドーは横の壁に銃眼めいた隙間が開き、その奥に文字が表示された事に気づいた。『右45』「エッ!?」「どうした!」「ああ、ワカル!回すんだぜ!」ガンドーはハニワの両脇を抱えた。回る! 49
2012-02-02 22:57:24