アウェイクニング・イン・ジ・アビス #6
『フジキド!』ナラクの声が木霊した。世界から外界の音が失われ、ニンジャスレイヤー自身の鼓動頻度が急激にトーンダウンしてゆく。だがこれは心臓が止まりかけているわけでは無い!これは死線において生ずる、ニンジャアドレナリン過剰分泌現象による主観時間の鈍化現象! 22
2012-02-06 00:31:43『フジキド。よいか。このままでは死ぬ。だがオヌシはワシに身体を貸すまい。……なによりワシとしても、セキバハラのイクサの時が如き無責任なマルナゲはまっぴら御免被る』ナラクの言葉は辛辣であったが、真摯であった。(何を考えている)『ゆえにワシらは今一度試みねばならぬ』(何をだ) 23
2012-02-06 00:40:30『思い出せ。ブケ・ニンジャとのイクサを。ワシが望まぬ眠りを眠るに至った忌々しき戦いを!』……フジキドはすぐにそれを理解した。彼はあの時の高揚を、ぞっとするような後ろめたさを、思い出した。彼は躊躇った。 24
2012-02-06 00:46:42だが、その躊躇は、乗り越えねばならぬ感情であった。ラオモト・カンのヒサツ・ワザからフジキドのニューロンを庇ったナラクが眠りについて以来、激化するイクサの中で、彼はいずれ訪れるこの日の事を予期していた。彼は覚悟を決めねばならない。否。覚悟はとうに決めたはずだ! 25
2012-02-06 00:53:47……ニンジャスレイヤーの両目に赤い燃焼光が灯る!「バモォォー!?」マスタートータスが怯む。まるで、弄んでいた玩具が予期せぬ発熱によって自身の手を焦がしたかのように!ナムサン!それは比喩では無い!現実にマスタートータスの手は焼けていた!そのニンジャ握力が緩む!「イヤーッ!」 26
2012-02-06 00:59:04ニンジャスレイヤーは大の字に四肢を開き、マスタートータスの捕縛を跳ね飛ばした!「バモォーッ?」おお、見よ!ニンジャスレイヤーの両手はその覚醒を象徴する赤黒の炎で包まれている!「リンピオトーシ!カイジン……」マスタートータスは咄嗟にレーザーを準備!しかし!「イヤーッ!」 27
2012-02-06 01:04:25ニンジャスレイヤーはマスタートータスの眼前、空中で高速回転!その回転の中から立て続けに6枚のスリケンが射出される!しかもスリケンを包むのはやはり赤黒の炎!レーザー照射のカラテを充填しつつあったマスタートータスの口中へ、それが立て続けに撃ち込まれる!「バモォォォォ!」 28
2012-02-06 01:07:55カブーム!シシマイの口の何らかのレーザー照射機構が爆発!鼻の穴と口から煙を噴き出し、マスタートータスがたたらを踏む!ニンジャスレイヤーは着地し、ヌンチャクを構える。彼の中に今、他者としてのナラクは無い。今のニンジャスレイヤーはフジキド・ケンジであり、ナラク・ニンジャであった。29
2012-02-06 01:12:41後退しながら巨人は両手指をニンジャスレイヤーへ向ける。その指先が展開!またしてもあのスリケン攻撃か!?だがニンジャスレイヤーはヌンチャクをただ構えるのみ!その時だ!ヌンチャクの両端に赤熱するカンジが浮かび上がったではないか!「忍」「殺」の二文字が!ゴウランガ!ゴウランガ! 30
2012-02-06 01:16:22「マスタートータスはケオス懸念を排除する!」マスタートータスが叫んだ。スポスポスポスポスポスポスポ!両手指から射出される無数のマイクロスリケン!先ほどの手よりも小振りであった為、あれほどの威力は無い……だがそれは実際悪夢的な連射速度でニンジャスレイヤーに襲いかかる! 31
2012-02-06 01:21:35「イイイイイイイヤァァァァァーッ!」ニンジャスレイヤーはヌンチャクを振り回しながら前進!赤黒い炎で軌跡を描くヌンチャクは、マイクロスリケンを粉々に破壊!マスタートータスへ間合いを詰める!攻撃範囲に……捉える! 32
2012-02-06 01:23:57「イヤーッ!イヤーッ!」「バモォーッ!バモォーッ!」ヌンチャクの鎖が伸び、強烈な打撃がマスタートータスの両足を吹き飛ばす!ズシンと音を立て、落下したマスタートータスは足首で地面に立つ!33
2012-02-06 01:26:00「イヤーッ!イヤーッ!」「バモォーッ!バモォーッ!」ヌンチャクの鎖が伸び、強烈な打撃がマスタートータスの両脛を吹き飛ばす!ズシンと音を立て、落下したマスタートータスは膝で地面に立つ!34
2012-02-06 01:26:54「イヤーッ!イヤーッ!」「バモォーッ!バモォーッ!」ヌンチャクの鎖が伸び、強烈な打撃がマスタートータスの両膝を吹き飛ばす!ズシンと音を立て、落下したマスタートータスは腰で地面に立つ! 35
2012-02-06 01:28:02「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは乱打!乱打!乱打!乱打!腰が吹き飛び、腹部が吹き飛び、腕が!胸が吹き飛んだ!「バモォォォォォォーッ!?」 36
2012-02-06 01:30:05ナムサン……今や広間には砕けたボディが散乱し、ニンジャスレイヤーの目の前には巨大なシシマイ頭がなす術なく落下している。「ケオス。こんな事はあってはならない、こんな事は実際おかしい」その目がチカチカと明滅した。それとは別の声が広間に轟く!『モータルの怒りを叩き込め!この者へ!』37
2012-02-06 01:35:47「ニンジャ!」ヌンチャクの鎖が10メートルもの長さへ伸びる!ニンジャスレイヤーはそれを振り上げ、しならせ……振り下ろす!「殺すべし!」「バモォォォォーッ!」KRATOOOOOOM! 38
2012-02-06 01:38:14シシマイ頭はヌンチャクによって叩き潰され、爆発四散!呼応するように散乱したボディ全てが爆発!噴き上がった白い炎はニンジャスレイヤーの眼前に集積し、輪郭が激しく乱れる朧な巨人の姿を作る!「運命者は……ケオス懸念……ケオス懸念を……」 39
2012-02-06 01:41:16ニンジャスレイヤーに、白く沸騰する手がなおも伸びる。だがヌンチャクで迎え撃つまでも無い。白い影めいた巨人は崩れるように倒れた。ニンジャスレイヤーもまた、その超自然の崩壊現象を目に焼きつけながら、がっくりと膝をついた……。 40
2012-02-06 01:43:16マスタークレインは確かにシャドウウィーヴを持ち来たった。巨躯の運命者は、シャドウウィーヴのぐったりとした身体を恭しくダークニンジャの前に横たえると、片膝をついてオジギした。ダークニンジャは動かぬ部下を見下ろす。……死んではいない。傷も深くは無い。 42
2012-02-06 01:50:21「マスタートータスが戻らぬな」ダークニンジャはシシマイを見据え、言った。「滅びました」マスタークレインは、ごまかす事なく即答した。機械めいたこの運命者は、ある意味で定命者よりはるかに賢く、ある意味では全く単純で、愚かだ。「何故だ」「わかりませぬ。ニンジャの手で滅びました」 43
2012-02-06 01:54:22「いかなるニンジャに」「あの場にいた生きたニンジャは三人」「う……」シャドウウィーヴが呻いた。「ニンジャスレイヤー……ニンジャ……スレイヤーが……遺跡に……」譫言めいて呟く。マスタークレインはダークニンジャにオジギした。「貴方こそ器なれば」その巨躯を風が包み、かき消えた。 44
2012-02-06 02:00:09「立てるか。シャドウウィーヴ=サン」ダークニンジャは膝をついた。「ダークニンジャ……サン……僕、私は!ここは?」シャドウウィーヴは弾かれたように身を起こした。「お前は遺跡から救出された」ダークニンジャは低く言った。シャドウウィーヴの目に、みるみるうちに狼狽の色が生ずる。 45
2012-02-06 02:05:15「申し訳ありません!」シャドウウィーヴはドゲザしようとした。ダークニンジャはやめさせた。「引き際を見極めろ。シャドウウィーヴ。それだけだ。遺跡で起こった出来事について、何か話せる事はあるか」「申し訳……」「無意味な謝罪を繰り返し聞かせろと命じたか?俺は?」「も、申し訳」 46
2012-02-06 02:09:44