「I love youを僕が訳したら」

「I love youを僕が訳したら」/かみ(@fuzi0ka)作 創作ツイートをまとめたもの。未完。
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かみ @fuzi0ka

そんなわけで、興味がある人は読んでみていただけたら嬉しいです。そうでない方はスルーしてください。すみません。某タグを見てて思いついたお話。「I love youを僕が訳したら」

2012-02-14 15:42:58
かみ @fuzi0ka

「お前のことが好きなんだ」 夕日に照らされた校舎の屋上。そこに一組の男女が向かい合っていた。 言ったのは、飄々とした少年だった。己の発言に臆することなく、口元には微笑みが浮かんでいる。

2012-02-14 15:48:49
かみ @fuzi0ka

 少年のワイシャツの第一ボタンは留められておらず、前を開いたままのブレザーからシャツの裾をはみ出させた姿は少々だらしない。対して、向かいの少女は、チェック柄のスカートが規定よりも少し短いだけで、身嗜みは整えられている。 彼女は風に靡く髪を耳に掛けた。

2012-02-14 15:50:40
かみ @fuzi0ka

 少年と少女は家が近く、物心がつく前からの幼馴染みだった。今でも二人で一緒にいることには、お互いに何の抵抗もない。 少年は少女に視線を向けたまま、少女の言動を待った。 そして、少女の伏し目がちだった瞳が少年を捕らえ、待ち焦がれた声を聞いた。 「そんなありきたりな言葉じゃ、嫌」

2012-02-14 15:52:12
かみ @fuzi0ka

「おー、おかえり。どうだった?」 少年が教室に戻ると、少年の親友以外の生徒の姿はなかった。親友には告白のことを話したので、待っていたのだろう。第一声からもそれが窺える。 少年は笑みを顔に貼りつけたまま、親友の席の後ろに座った。

2012-02-14 19:13:33
かみ @fuzi0ka

「何だ? その顔。上手くいったのか?」 親友はニヤニヤという表現が似合う顔で聞く。 すると、少年は突然笑みの表情を崩して、恐れ戦くような面持ちになった。 「お、」 「お?」 「俺は……振られた、のか?」 「……俺に聞くなよ。一体、彼女に何て言われたんだ?」

2012-02-14 19:14:22
かみ @fuzi0ka

 少年は先程までの出来事を事細かに話した。それはもう、発した言葉の一言一句も違わずに。 「うーん。難しいなぁ。でもまぁ、振られたわけではないだろ」 「何を根拠に」 机に突っ伏した少年は、口を尖らせる。

2012-02-14 19:15:13
かみ @fuzi0ka

「だって、お前が否定されたわけじゃないだろ。好きだって思いは否定されてない。ということは、彼女には欲しい言葉があるわけだ。だから、お前の言葉次第だな」 「訳わからん」 「しゃーない。バカなお前にヒントをくれてやろう」 その言葉に少年が勢いよく起き上がった。

2012-02-14 19:16:31
かみ @fuzi0ka

「バカって言った方がバカなんだぞ! お前、あいつが欲しい言葉がわかるっていうのかよ」 「お前がわかんねぇのに、俺がわかるわけないだろ」 親友はひとつため息をついて、切り出した。

2012-02-14 19:17:44
かみ @fuzi0ka

「明治時代、日本人は愛だの恋だのと口にするのは躊躇われた。そんな中、作家たちは『I love you.』を何て訳したと思う?」 彼は答えが返ってくるとは思わなかったが、少年に問いかけた。予想通り、「知んねー」と返事がくる。

2012-02-14 19:21:58
かみ @fuzi0ka

「二葉亭四迷は『あなたのためなら、死んでもいい』。夏目漱石にいたっては『月が綺麗ですね』だぞ」 「は? 最早何が言いたいのか、謎だな」 少年は眉間に皺を寄せて言った。 「だから、それでいいんだよ。他の人にはわからなくてもいい。彼女にだけ伝わる言葉でさ」

2012-02-14 19:22:39
かみ @fuzi0ka

「そんなん、ヒントでも何でもなくね?」 少年の不満に親友は腕を組んで、断言した。 「知らん。知らんから、俺が助言できるのはここまでだ」

2012-02-14 19:23:42
かみ @fuzi0ka

「よう! 無能」 少年が帰ろうと、渡り廊下を歩いていた時だった。向かいからやって来た少女がそう声を掛けたのだ。その少女は、少年の思い人と親友と言ってもいいほど仲が良い友人だった。 「無能言うな。一体、お前は俺の何を知っている」

2012-02-16 21:54:12
かみ @fuzi0ka

 Tシャツ姿で紙パックジュースを持った彼女は、部活の休憩中のようだった。ポニーテールの髪を揺らしながら、立ち止まった少年の前まで進んでいく。 「はぁ? 無能を無能と呼んで何が悪い」 「ひどっ! 俺のか弱いガラスのハートが砕け散ったぞ!」

2012-02-16 21:55:28
かみ @fuzi0ka

「どんだけ弱いんだ。お前のハートはカバーガラスか何かか?」 少女は壁に寄りかかり、ジュースのストローを口にくわえた。少年を横目に見て、 「で、何へこんでんの? 玉砕したの?」 「あなたは僕の気も知らずに、傷を抉りまくるんですね」

2012-02-16 21:56:38
かみ @fuzi0ka

 少年も少女の隣に寄りかかって、先程までの出来事を、親友からの助言も含めて話した。 「ふーん」 「ふーん、って」 少女がジュースの残量を確かめるように紙パックを振った。液体がパックに当たって跳ねる音が静かな廊下に伝わって消える。

2012-02-16 21:58:18
かみ @fuzi0ka

「バカな君にあたしの質問に答える権利をあげましょう」 「バカって言った方がバカなんだぞ! バーカ!」 「バカにバカって言って何が悪いの? どの口がそんなこと言ってるの? バカって、どうしたら治るのかしらね。いっぺん、死んでみる?」 「すみませんっしたー! 俺が悪かったですっ!」

2012-02-16 21:59:17
かみ @fuzi0ka

 少女のどすの利いた声に少年はすぐさま頭を下げた。 「話を戻すけど、」と少女が言った。 「あんた達、幼馴染みでしょ。どうして今になって、告白したの?」 「そんなの、あいつへの思いが他の奴らへの思いとは違うって、気づいたから」

2012-02-16 22:01:17
かみ @fuzi0ka

「何で、あの子を好きになったの?」 「あいつは、いつも俺を救ってくれるんだ。俺が弱ってたら、傍にいてくれて、どんな俺でも受け入れてくれる。一緒にいるのが心地好くって、ずっとそうしていられたらって思って……」 少年は彼女のことを思ってか、語るうちに顔が綻ぶ。

2012-02-16 22:02:18
かみ @fuzi0ka

しかし、少女は少年の返答には触れずに質問を重ねた。「ねぇ、あの子はあんたの前で泣く?」 少年は少女の憂いをおびた顔には気づかず、 「んー……、そういえば、ガキの頃以来見てないな。あいつの泣き顔」 答えた。

2012-02-16 22:04:29
かみ @fuzi0ka

「あの子ね、あたしの前で泣いたことないの。家族同然みたいなあんたの前でも泣かないなら、いつ泣いてんだろうね?」 心配を孕んだその声に少年は少女を見た。 「やばっ! あんたのせいであたしの休憩時間が潰れたじゃんか」 少女は言いながら、壁から背を離して歩き出す。

2012-02-16 22:06:28
かみ @fuzi0ka

「え、俺のせいなの?」 「他に誰のせいになるの?」 振り向きつつ言う声に少年は追い払うように手を振った。 「はいはい。俺が悪いですよーだ」 少女は応えるように手を上げて、走っていった。 「ん。じゃね、ガンバレよ。少年」

2012-02-16 22:08:02
かみ @fuzi0ka

「今日はどうしたの?」 場所は昨日と同じ放課後の屋上。少年と少女は昨日と同じように向かい合っていた。 「ん? 昨日のリベンジ」 少年は少女の問いかけに笑ってみせた。

2012-02-29 22:51:54
かみ @fuzi0ka

「あのさ、覚えてるか? 二人で遊びに行って、迷子になってさ。俺が一人で泣き出して、お前は俺の手を引いて、帰り道探して」 少年の語りに少女は小さく笑って、そっと目を閉じた。 「何とか家に帰ったら、親が揃って叱ってくるから、結局二人してぴーぴー泣いてさ」

2012-02-29 22:53:06
かみ @fuzi0ka

「うん。覚えてるよ」 少女は静かに頷いた。 「それでさ、俺は、今も昔も変わらないなって思った」 少年は空を仰いで言う。 「でも、変わらなきゃいけないって、思ったよ」 少年の瞳は優しい色を宿して、少女を見つめた。

2012-02-29 22:54:03