『ピラミッド5000年の嘘』について~ピラミッド研究を専門とする者として
- ayameyuuki
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先週末から「ピラミッド5000年の嘘」が公開された。すでにブログで批評は書いたけれど(http://t.co/M9UU88zp )、ピラミッド研究を専門とする者として、ツイートでも態度を示しておきたい。
2012-02-21 13:50:29(1)パトリス・プーヤール監督は「ある匿名の人」に導かれるようにしてこの映画を作ったという。しかし、アノニマスで語る言葉に重みを感じることはできない。栄誉も批判も責任として受け取る態度を持ってこそ、対等に相対することができる。
2012-02-21 13:50:30(2)その匿名の人物の情報には、オカルト的にも真新しいものはない。ノストラダムスの予言である1999年の直前に流行ったグレハム・ハンコックの「神々の指紋」やアンソニー・ウエストの「天空の蛇」などと内容がかぶる。今年はマヤ暦による人類滅亡の年だが、流行として制作されたものなのか。
2012-02-21 13:50:32(3)映画では考古学者が故意に事実を無視していたり、他の専門家が現場に入れないようにしているという「陰謀説」が述べられている。事実は逆である。ピラミッド研究はいまや複合的に行われており、データも論文を含め、多くがオンラインで使用できる(http://t.co/XXmnAFlV )
2012-02-21 13:50:34(4)「人間」という最も重要なファクターを入れないで、古代を語るのは虚構的な想像である。人間とは営為の積み重ねだ。それは食べ物であり、日干し煉瓦の住居であり、ピラミッドの石に刻まれたノミの跡である。古代の人々の日常の跡はピラミッドの至る所に残されている。そこにこそ謎は存在する。
2012-02-21 13:50:35(5)ピラミッドと人間の関係は、ピラミッド研究の第一人者であるマーク・レーナー博士率いる弊協会の25年に渡る調査でもあきらかになっている。ニュースレターや中間報告書もすべてウェブサイトからダウンロード可能だ。http://t.co/PziUrwvu
2012-02-21 13:50:36(6)ピラミッドを理解するために、その情報を「4500年前」の「ギザ」からではなく、世界中のあらゆる場所から、数千年間のあらゆる時代から探そうとする行為は「時空の軽視」である。
2012-02-21 13:50:37(7)「時空」という限界や境界があるからこそ、それを超えようとする人々への敬意は尽きることがない。しかし、映画では最初からその「境」は存在しない。
2012-02-21 13:50:39(8)ピラミッドについて完全に知ることはたぶんできない。時間という絶対的な壁に阻まれた私達は、日々解けない無数の謎に囲まれながら、その神秘のベールの向こう側を見ようと奮闘している。僅かな痕跡を探し出し、記録し、それらをつなぎ合わせて推測している。
2012-02-21 13:50:40(9)それは考古学的「仮説」かもしれない。しかし、私達も、そしてピラミッドも、5000年間嘘をついてはいない。
2012-02-21 13:50:41(1)「ピラミッド5000年の嘘」への連続ツイートに対して「あくまで仮説ということで、軽く見るだけのものとして捉えていた方がいいのでしょうか?」という質問を受けました。
2012-02-21 23:23:28(3)歴史ドキュメンタリーはどういったものでも、食品などとは違って、「実害」がないため社会的問題になりません。
2012-02-21 23:23:32(4)映画にでてくるキャッチーな言葉。「衝撃的な事実」「科学的手法」「隠された真実」「画期的大発見」。こういった言葉は一種の呪文で、とても強力です。それが事実かどうかというのは関係がありません。
2012-02-21 23:23:34(5)私達もそれに対するカウンター呪文を唱えます。「地道なデータ収集」とか「考古学的解釈」とか。でもそれは、効果がゆっくりで、唱え続けなければならないのです。
2012-02-21 23:23:35(6)映画では「科学的」という言葉をほとんど絶対的なものとして扱っています。でも、実際には「科学的」=「正しい」ではなく、それはひとつの方法論に過ぎない点です。そこには限界があります。
2012-02-21 23:23:37(7)私達は、その限界を嫌と言うほど知っています。そのために、日々奮闘し、ともすればとても単調な作業を繰り返し繰り返し、データを集め、分析し、それを超えようとしています。
2012-02-21 23:23:39(8)ピラミッドにはもっと地を這うような「謎」がごろごろしています。願わくば、そういったものを取り上げるドキュメンタリーが作られることを。
2012-02-21 23:23:40「ピラミッド5000年の嘘」に対する追記ツイート。考古学者VSニューエージという図式は分かり易いですが、意図しているものとは異なります。あくまでこの映画についての批評です。
2012-02-23 20:22:09追記1:私はオカルトに対してはオープンにしたいと思っています。いまもそうですが優れたニューエイジ的な思想はすごく刺激になります。
2012-02-23 20:22:10追記2: ハンコックの失われたアークを題材にした『神々の指紋』はとても面白かったですし、ボーヴァルの『オリオン・ミステリー』は大まかな部分では支持しています。最歳運動などという言葉も彼の本で初めて知りました。
2012-02-23 20:22:13追記:ただ今回の『ピラミッド5000年の嘘』は内容もオカルト的にもまったく「練られていない」、非常に程度の低いものです。それを補うためか、歪んだ形で考古学者/エジプト学者を攻撃しつつ、自分たちのアプローチが「科学的」であると吹聴し、キャッチ—な言葉をこれでもかという程使います。
2012-02-23 20:22:16追記4: 映画の内容のひどさは、むしろ「ムー」あたりが、その程度の低さを徹底的に攻撃してくれたら、すごく面白いと思います。
2012-02-23 20:22:18追記5: 映画の背後に、私が見るのは「商業的な戦略」です。ニューエージ的な思想は昔からありますが、近代に入ってからは、一部の揺るぎないマニア以外にはうけず、ミリオンセラーにはなりません。しかし、それがミレニウム前に、ハンコックの「神々の指紋」が全世界で600万部売れました。
2012-02-23 20:22:21