地に足を付けたポストの話し

「地に足を付けることにした。 僕はそれでポストになったんだ。 ここでたくさんの人の手紙を食べているんだよ」
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くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

そろそろ地に足付けた方が良いんだろうな。地中に埋まる赤いポストのように。

2012-02-28 10:48:19
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

地に足を付けポストになった僕は、あらゆる手紙や請求書、内容証明までも飲み込み世界を平和にする。時どき喉を詰まらせ顔を真っ赤にしながら今日も口を真一文字にして飲み込むのだ。ごっくん。

2012-02-28 10:58:48
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

春がすぎ、夏が終わり、秋も形を無くし、やがて静かな冬がやってくる。しんしんと積もった雪を頭に乗せて歯を食いしばっていると、小さな小鳥が肩にとまって陽気に話しかけてきた。「ねぇ、君はどうしてそこにじっとして動かないの?」

2012-02-28 11:24:32
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

「地に足を付けることにした。それでポストになったんだ。ここでたくさんの人の手紙を食べているんだよ」と僕は答えた。小鳥はふーんと息をもらし「それってなんだかナンセンスね。ただ誰かからの手紙を待っているだけなんて」と言い残し飛び立っていった。僕の肩には彼女の足跡がくっきりと残っていた

2012-02-28 12:29:09
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

そして僕はまたひとりになった。相変わらず見知らぬ人達が放り込んでくる手紙を食べ続けた。常に喉をつまらせている状態で、顔が赤くなったままだった。そんな滑稽な僕を誰かに笑って欲しかったけど、誰も見て見ぬ振りをした。僕は風景の一部になったのだ。少し安心したけど、少しの胸騒ぎがしていた。

2012-02-28 16:27:39
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

頭に積もった雪が電線の高さにまでなると、それを見兼ねた老人がスコップを持ってやってきた。「わたしが雪かきをしてあげましょう。これじゃ手紙が出せなくなって困るからのぅ」そう言うと老人はスコップで僕の体を殴りはじめた。痛い、痛い。やめてくれ。雪は頭の上だ。

2012-02-28 21:36:19
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

「お主、知っておるか?雪かきというのはな。誰でもできるのじゃ」老人は そう叫びながら僕の体をスコップで殴打し続けた。「少しのの我慢強さ。それさえあれば誰でもな」僕はあまりの痛みに失神しかけた。でもポストになった僕は倒れることすらできなかった。理不尽な暴力を受け続けるしかなかった。

2012-02-29 00:36:40
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

どのくらいの時間が経っただろう。気が付けば老人はいなくなっていた。頭に乗っていた雪も落ち、何事もなかったかのように時間は過ぎ去っていた。「雪かきは誰でもできる」老人が言った言葉を僕は声に出してみた。しかし上手く空気を振動させることができず、吐いた息が目の前を白く覆っただけだった。

2012-02-29 07:34:17
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

手紙の回収時間。いつもの郵便局員がヘルメットを被ったままやってきて、僕の赤い顔を覗き込む。「よう。雪もやっと上がったな。今日もちゃんと仕事したか?」彼はそう言って僕の脇腹をほじくり返す。「ねぇ局員さん」僕はくすぐったさを我慢しながら言った。「どうして僕はここに立っているんだろう」

2012-02-29 18:52:10
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

「何言ってんだ。それがおまえの仕事だからだろうよ」と彼は僕の脇腹をまさぐりながら答えた。「郵便屋は誰かにメッセージを届ける仕事だ。それはその誰かさんをハッピーにすることだろ?難しいことはわかんねぇけど。」僕の脇腹から大量のハッピーが流れ出る。局員さんのヘルメットが朝日に反射した。

2012-03-01 11:26:38
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

「僕はみんなに幸せを届けるためにここに地に足を付けたんだ。悪くない。それは悪くないね」僕がそう言うと局員さんはオートバイにまたがりながらこう言った。「ただし気をつけろ。ハッピーに関わるということはアンハッピーにも関わるということだ。おまえさんがそこにどんな理由を付けようがな」

2012-03-01 14:44:39
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

夢を見た。見栄や傲慢を吹き飛ばそうとする風も吹かず、無関心や怠惰を脱がそうとする太陽も身を潜めていた。僕の肩で小鳥がさえずり、老人は楽しげにサンバを踊り、ルンバが足元を綺麗に掃除してくれた。そして局員さんがとんまな顔をして近づいてくると「ハッピー注入」と言ってスコップを取り出した

2012-03-01 23:24:57
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

「雪かき仕事だってな。誰かをハッピーに することはできるんだよ」高らかに声を上げ、手に持ったスコップを大きく振りかぶった。僕は横隔膜を収縮させ力の限り叫んだ。暴力を受けるために地に足を付けたわけじゃない。しかし思うように声は出ず、ぽっかり空いた脇腹から大量の雪が噴出するだけだった

2012-03-02 11:07:33
くらけん@フリーランス20年 @kuragebrain

目が覚めるとそこは広大な砂漠だった。ジリジリと照りつける太陽は容赦なく僕の赤い体を燃やし、荒れ狂う砂嵐は僕の口の中に砂塵を押し入れた。飲み込んだ砂の塊はまるで高熱で溶かした鉄のように胃の中へ流れ込み、僕は腹を煮えくり返した。やれやれだ。僕は地に足を付けるので精一杯だった。

2012-03-02 21:39:04