一色登希彦版 漫画「日本沈没」連載時の回顧1。

小松左京さん原作、一色登希彦版の漫画「日本沈没」の電子書籍版全巻が3月2日にリリースされました。 ↓ http://www.ebookjapan.jp/ebj/title/24774.html 2005年から『ビッグコミックスピリッツ』誌で連載した当時のことを回顧します。 続きを読む
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一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】「沈没」の連載開始と時を同じくして、日本(東京)が巨大地震災害に見舞われるモチーフの漫画が同時発生的に乱立した(古屋兎丸さんの「彼女を守る51の方法」等々)。これはある種のシンクロニシティだと思っている。「東京は、日本は、ヤバいんじゃね?」という空気が当時あった。

2012-02-24 23:41:23
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】自分が「日本沈没」を描こうとした動機のひとつもそこにある。当時は言語化できなかったけれど「この国ヤバいだろ」という無意識の悪寒を物語にしたかった。それが拙版冒頭の「心の底で、願ってしまっていた…こんなどうしようもない国、滅んでなくなってしまえばいいって…」になる。

2012-02-24 23:50:46
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】「こんなどうしようもない国…」この、天に唾するような語り出しは、映画を撮影中の樋口真嗣監督と撮影現場で会って話して、氏の言葉から頂戴したインスピレーションに拠る所が大きい。自分は勝手に、樋口監督から「託された」と思い込んでいる。

2012-02-24 23:56:55
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】2005年、「日本沈没」の映画製作が始まり、漫画版の準備が始まった頃、2004年のスマトラ地震津波も受け、「東京は、日本は、ヤバいんじゃね?」という空気が当時あったように思う旨は先述した。 自分は「日本はダメだろ」という仮説から描き始めようと思った。というのも…

2012-02-25 19:32:02

映画「日本沈没」監督の樋口真嗣氏と最初にお会いした際の回想。小松左京さんとお会いした際の回想。

一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】これは、腐すのでなく、樋口監督はじめ関係者への友情も自覚しつつ、健全な「作品批評」の立場を維持したいと思いつつ書く。事前に読ませてもらった映画「日本沈没」の脚本に多大な不満を感じた。ネタバレして良いだろうと思うので書くけど映画では日本は沈み切らない。それどころか…

2012-02-25 19:40:17
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】(以下ネタバレ注意)映画「日本沈没」では、「国を挙げた科学の力で国土の危機を救う試みが成功する」「そのプロジェクトの為に主人公が命を失う」…といった描写が全面に出ていて、その描写への批判的視点も不足しているように感じた。そうした中で樋口監督に会いに行く機会が来た。

2012-02-25 19:48:51
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】きっと話それる。2005年その時点で自分にとって樋口真嗣という作家さんはワンノブ神クリエイター。ひるがえって、拝読した「日本沈没」の脚本に関しては、どうやってここに「樋口真嗣」が盛り込まれ得るのかという想像がどうしても出来なかった。

2012-02-25 20:00:11
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】私見続き。自分は樋口真嗣という作家を動かしている原動力は、「憎悪」と「その憎悪を振り捨てられるほどの映像的快感への欲求」と言えるようなものだと考えている。それは、平成ガメラなどを享受して感じた事。その「憎悪」のエネルギーの流路を沈没の脚本には見いだせなかった。

2012-02-25 20:09:34
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】それはそれで良い。自分は映画に責任を負える立場ではないので。ただ、自分の漫画版は、映画の脚本やプロットをベースには描かない、とは決意した。その旨だけは監督に伝えておきたいと考えながら、撮影中の樋口監督に会いに行った。お忙しいお仕事場にすみませんした。

2012-02-25 20:15:19
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】スタジオは終盤シーンの撮影中。多忙な中、樋口監督は昼休みに昼食を一緒に取ってくれた。「「八岐之大蛇の逆襲」から見てますよ♡」などと軽口叩ける訳は無く、ただひと言。「あの…映画を無視して好き勝手に…小野寺とかヤな奴にして良いですか?」と。樋口氏が反応した記憶が鮮明。

2012-02-25 20:27:37

(一色補説/個人的な記憶ですが、好き勝手に描いて良いですか?と伝えた瞬間に、樋口監督の目の色が変わった・・・くらいに記憶しております。)

一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】樋口監督「いやもう映画を無視して好き勝手にやって欲しい!」「実は映画も、脚本に盛り込みきれなかったけれど、主人公の小野寺を「海外帰りの、日本を軽蔑しているヤな奴」にして話を書きたかったんです。」と。我が意を得たと思った。舌触りの悪い不愉快な漫画にしようと決意した。

2012-02-25 20:32:50
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】以下は勝手な想像です。その時、「怒りと憎悪の作家」樋口氏は本当は、もっと映画に盛り込みたかったことがあったのではないか?と自分は考えた。映画と漫画は個人が好き勝手出来る自由度に違いがある?だとしたら自分は「個人的作業」と思われている漫画で好き勝手描こうと決意した。

2012-02-25 20:42:17
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】樋口監督をビックリさせ、出来れば悔しがらせてやろうと思った。個人の裁量が通しやすい漫画ならそれが出来る。その下衆な下心を含めて全部漫画に盛り込んでみようと思った。その思いと日本への怒りと憎悪をシンクロさせようと思った。いやな漫画になる訳ですわ。いひひ。

2012-02-25 20:52:49
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】映画「日本沈没」は、国土の危機を救う為に、核兵器を思わせる破壊兵器が出てくるけれど、それを「核兵器」とは言えていない。わざわざ架空の強力な「〇〇爆弾」と言っている。 そうしたことを始め「盛り込めない事」があるんだろうなと邪推した。

2012-02-25 21:00:57
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】樋口真嗣という才能が「日本沈没」という映画を作ることが羨ましかったし悔しかった。ならばこちらは後だしジャンケンでもいいから漫画版で樋口監督に「悔しい!」「羨ましい!」と思われる…そういうものを目指そう、という「ハードル」を設定した。だから楽だったんですその点は。

2012-02-25 21:14:23
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】それからすぐに、小松左京さんにもお会いした。これまた「好き勝手に脚色したいんですけど…こんな案やこんなアイディアがあって…どうでしょう?」とあれこれ説明する算段をして出向いたのですが、「あ、すべてお任せします、よろしく!」のひと言で終了。で「おーいビール出して!」

2012-02-25 21:28:20
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】自分の分身のような代表的大ヒット作品を、見ず知らずのお馬さんの骨が「好き勝手にいじりますよ」と言って来たら自分はとてもそんな対応は出来ない。警戒心丸出しで詳細を根掘り葉掘り聞いて、簡単には結論を出さないと思う。小松左京さんの人間の器の大きさに心から感謝したいです。

2012-02-25 21:33:21

実際に描き始め、スピリッツで連載が開始されるまで。モチーフにした多くのモノ、こと。

一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】そんな風にして2005年中盤を執筆準備に過ごした。2006年夏の映画公開に備えて、スピリッツでの連載開始は2005年暮れ〜2006年明けにスケジュールが決められた。 しかし…ネームが進まないんだこれが。 ははは。 アイディアが浮かばないのではなくて、浮かび過ぎで。

2012-02-25 21:42:13
一色登希彦 @ishikitokihiko

【「日本沈没」】まあ贅沢な話ですが「ネーム描いちゃうのがもったいない」気がしている時期。小松さんの原作を何度も読み返し、旧作映画を見返し、テレビドラマ版を見返し、新作映画の脚本を読み返し「ムキー!」となり好き放題。やがて武者副編集長から「そろそろネームは?」とのメール。もう9月。

2012-02-25 22:03:17
一色登希彦 @ishikitokihiko

【日本沈没】連載の執筆開始を前に、こんな形の「やることありすぎて困る」ことは初めてだった。樋口監督版の脚本に準じて描く事も出来る(というか自分以外のすべての人はそれしかあるまいと思っていた事だろう…スミマセン)し、小松さんの原作を徹底的に漫画化する事も、旧作映画をなぞる事も…。

2012-03-01 15:18:46
一色登希彦 @ishikitokihiko

【日本沈没】又は旧作映画の直後に放送されたTVシリーズを意識することも考えた(厳密に言えば原作小説と新作映画以外のバージョンを忠実になぞる事は権利上の問題がありますが)。スピリッツとしては「新作映画版に少々アレンジも加えてくれても可」位の思惑だったと推測。選んだ漫画家を間違え(略

2012-03-01 15:32:11