原子力に関する「産」、「官」、「学」~ @ f_zebra さんによる説明

米国ではどうなっているのか、一方日本ではどうかという点を軸とした「産」、「官」、「学」の関係(連携を含む)についての非常に明快な説明です。Flying Zebraさんの連続ツイートに、固有名詞についての簡単な注(ウィキペディア)を添えました。
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Flying Zebra @f_zebra

九州大学の吉岡斉氏の見解にはかなり違和感があるのですが、日本の原子力関係者の中の産業界、官僚、学者の関係は外部の人にはかなり分かりづらいので、正確に認識するのはその「中」にいないとなかなか難しいのかもしれません。

2012-02-29 18:55:06

注:「九州大学の吉岡斉氏」
http://ja.wikipedia.org/wiki/吉岡斉

Flying Zebra @f_zebra

アメリカやフランスなど他の原子力大国と比べると、日本の原子力関係者の中では技術やノウハウが「産」に大きく偏っているという特徴があります。規制側の「官」は「産」との人事交流が少なく、頻繁な配置転換などスペシャリストが育ちにくい人事制度のため技術が蓄積されません。

2012-02-29 18:55:59
Flying Zebra @f_zebra

「学」が扱う研究炉や実験炉は大型の発電プラントとはあまり共通点がなく、リスクの次元も異なります。要素技術の研究では産学協同で成果を出す例もありますが、システム全体の運用、管理については「学」が知見を蓄える機会はほとんどありません。

2012-02-29 18:56:50
Flying Zebra @f_zebra

本来であれば「官」が「産」を監督、規制し、「学」は「官」にアドバイスを与える立場であるべきですが、日本の原子力においては「官」も「学」も「産」の助けなしには何も出来ません。活発な人事交流の慣習がない日本の弊害の一つでしょう。

2012-02-29 18:57:23
Flying Zebra @f_zebra

アメリカでは、「官」であるDOEは自ら核兵器製造用の原子炉を運転し、海軍の空母、潜水艦に搭載する原子炉も製造しています。軍は軍で独自に研修カリキュラムを持ち、豊富な実務経験者を各界に輩出しています。更に、人事交流も活発です。

2012-02-29 18:57:51

注:「DOE」 = Department of Energy
http://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカ合衆国エネルギー省

“アメリカ合衆国のエネルギー保障と核安全保障を担当する官庁である。その役割は核兵器の製造と管理、原子力技術の開発、エネルギー源の安定確保、及びこれらに関連した先端技術の開発と多岐にわたる。”

Flying Zebra @f_zebra

例えば、DOE傘下の国立研究所には大学教授が兼任で研究者として在籍しています。規制当局のNRCや大学教員には民間や軍の出身者も多く、逆に民間にも官や学の経験者がいくらでもいます。そのため、ノウハウが「産」にだけ偏るようなことはありません。

2012-02-29 18:58:34

注:「NRC」 = Nuclear Regulatory Commission
http://ja.wikipedia.org/wiki/アメリカ合衆国原子力規制委員会

“原子炉の安全とセキュリティ、原子炉設置・運転免許の許認可と変更、放射性物質の安全と、セキュリティ、および使用済み核燃料の管理 (貯蔵、セキュリティ、再処理および廃棄)を監督する。”

Flying Zebra @f_zebra

フランスでアメリカほど人事交流が盛んかどうかは知りませんが、産業界のリーダーや技術官僚の多くを輩出する名門グランゼコールのエコール・ポリテクニークは軍に所属し、軍事教練も課されます。「産」と「官」(軍)の垣根は低そうです。

2012-02-29 18:59:28

注:「エコール・ポリテクニーク」
http://ja.wikipedia.org/wiki/エコール・ポリテクニーク

“フランスの理工系エリート養成のための高等教育機関で、グランゼコールのひとつ。1794年開校。ナポレオンが学生を自分の支配下に置くために軍の所属にした学校で、現在も国防省が所管する。…修了年限は5年。ただし、最初の1か月は軍事教練であり、その後に軍隊、警察、消防隊、官庁などに派遣されて、6か月間の体験研修を受ける。”

Flying Zebra @f_zebra

日本の「官」の中では、内閣府原子力委員会とそこから分離した原子力安全委員会があり、規制当局の原子力安全・保安院経産省、更に資源エネルギー庁には原子力安全・保安部会があります。放射線作業の監督厚生労働省が行っています。

2012-02-29 19:00:17
Flying Zebra @f_zebra

これらの組織の間で、どのように役割が分担され、調整されているのかは関係者であっても把握しきれないほど複雑です。また、官としては唯一原子力施設を運用している原子力研究開発機構(JAEA)文部科学省傘下であり、官の中でも人事交流は限られています。

2012-02-29 19:00:55
Flying Zebra @f_zebra

4月からは原子力安全・保安院が廃止され、環境省原子力規制庁が置かれるのに合わせ、原子力に関係する機関はほとんどが環境省に移ることになっています。多少はマシになるかもしれませんが、組織を入れ替えるだけで規制当局の独立性が確保できるわけではありません。

2012-02-29 19:02:21
Flying Zebra @f_zebra

原子力の規制当局は米国NRCのように強い権限と独立性を持つべきですが、その背景には高い技術力がないといけません。すぐには無理でも、これまでのように「産」や「学」に頼るのではなく、NRCやフランスのCEA等海外の規制当局と協力し、規制者としての技量を磨くべきでしょう。

2012-02-29 19:03:05

注:「CEA」 = Commissariat à l’énergie atomique
http://ja.wikipedia.org/wiki/フランス原子力庁

“主要目的は民生・軍事の両面で核エネルギーの開発応用を推進することにある。CEAは核エネルギー最高顧問(現在Bernard Bigot)および、各セクターを統括する長官が組織の頂点に立つ。CEAの役割はアメリカ合衆国エネルギー省と同等である。”