マブリットキバさんが語る岩手のちょっと怖い話し その5

マブリットキバさんが実際に聞いたり体験したりした岩手の不思議でちょっと怖い話し
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用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

今日はひな祭り、岩手のあちこちでもつるし雛や雛人形を飾る家も多い、今日はひな祭りにふさわしい不思議な話を紹介したい。不思議と言うか、オレはとても印象に残る話なので書き記しておきたいのだ。

2012-03-03 17:50:31
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

これは遠野の北から旧川井村で聞いたお話だ。話し手は65歳になるお婆さん。遠野でとても変わった「木につるす雛飾り」をしていたので、どうして飾りつるしではなく「自然の木につるすのか」と聞いたところから始まる。

2012-03-03 17:51:31
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

お婆さんは丁寧に「これは他のひな飾りとは違うんですよ、私にとって大切な思い出がこもっているのでこうして木に蓑虫のように赤ん坊飾りをつるしているんです」と言う。そして「少し長くなるけども、この雛飾りの昔話をしましょうか?」というのでオレは話を聞かせてくれるようにお願いする事にした。

2012-03-03 17:53:10
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

時代は遡る事60年前の遠野北の方面。昭和25年、その頃はようやく釜石まで鉄道が開通した時だ。路面は砂利、家屋は殆どが木造で、農家も多く皆、貧しくも慎ましやかな生活を送っていた時代だ。

2012-03-03 17:54:26
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

話の語り手のお婆さんは当時5~6歳になる。農家の生まれで父親とその祖母の三人暮らし。母親は娘を産んですぐに亡くなっていた。貧しいながらも父親は田んぼを借りて、たまに出稼ぎを行いながら一家三人はつつましく暮らしていた。

2012-03-03 17:55:51
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

娘さんにとって、父親は寡黙でなかなかに話せない存在だった。しかし、冷たいという訳じゃない。働く父親というモノは得てしてそういうものだ。娘さんは父親が田んぼで働くときは木で作った人形を持ち出して、父親が汗を流して働くそばの田んぼのあぜで人形を着せ替えしてよく遊んでいたそうだ。

2012-03-03 17:57:21
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

祖母は手作りの饅頭をこさえて、食べさせてくれた。風も入り込み家は寒い、でも囲炉裏で父親と祖母と三人、特に何も語るわけでないその雰囲気が娘さんにとって慎ましやかな幸せだった。

2012-03-03 17:58:23
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

娘さんは父親が大好きだった。特に会話があるわけでなくとも、働く父親が好きだった。親戚や縁者はその父親を「不器用な人だがら、儲けるのが下手なんだ」と時に笑った、娘さんはそれが嫌だった。言われても父親や祖母は穏やかな人なのでそれをウンウンと聞いて決して反論はしなかった。

2012-03-03 18:00:24
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

そんなある日、ひな祭りがやってきた。娘さんにとっては嬉しい反面、嫌な日でもあった。近所の家の雛飾りを見れること、お菓子やお餅が食べられる事が特別な日で嬉しかった反面、親戚縁者が家にやってきて、また父親に「お前はそんなんだから」とあざけって嫌味を言う。それが何より嫌な事だった。

2012-03-03 18:03:29
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

昼間は楽しく近所の雛飾りを見て楽しんだその日、案の定に親戚縁者が家にやってきた。そして囲炉裏を囲んでわいのわいのの飲み始める。

2012-03-03 18:04:51
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

娘さんはそれが嫌で離れていたが親戚に「寒いんだからこっちさこ」と促されその輪に加わった。しばらく大人の酒飲みが続いていたが、また1人、また1人、また1人と帰っていく、娘さんはその度にホッとしていた。

2012-03-03 18:06:20
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

そして最後に残った親戚は叔母に当たる人だった。この人は相当に意地悪で、思ったことをズケズケといい、近所でもすぐに噂を流す人だ。娘さんは「ああ、いやな人が残ってしまった」とがっかりしていた。。

2012-03-03 18:07:56
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

そして叔母はそばにいる父親にいつものように嫌味を言い始めた「お前はうだづがあがらねぇがら、いづも見ていで腹がたつ。そんなんだがら新しい嫁もこねんだ」、「貧乏な親戚を持つと、こっちの肩身も狭くなるんだ、いい加減に何か儲けたらどうだ」

2012-03-03 18:09:05
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

酔った勢いから叔母は娘の父親をさんざんこき下ろした。いつもよりも厳しい言葉に娘さんは子どもながらに恐ろしくなり、心底うんざりしていた。

2012-03-03 18:10:39
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

その娘さんの様子が叔母にばれたのか、叔母の嫌味の矛先は娘さんに変わった。「だいたいこの娘も何もしゃべらんで陰気でいげねえんだ」。叔母の言葉が幼い娘さんの心に次々と突き刺さった。

2012-03-03 18:13:03
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

それに耐えていたところが面白くなかったのか叔母はついに言ってはいけないことを娘に言った「だいたい嫁さんが亡ぐなったのはこの子を無理して産んだせいだべ、いいが。お前が難産だったがら母親は死んだんだぞ。稼ぎができる母親亡くなって、お前が残っておらだぢは本当にがっかりしてんだぞ」

2012-03-03 18:15:33
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

亡くなった母親の事を初めて聞かされた娘さんは驚き、ただ泣いてしまった。子どもだから泣くしかなかった

2012-03-03 18:16:55
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

すると今まで決して反論しなかった父親が立ち上がって叔母に言った「おい、今すぐ出ていげ。二度と家の敷居をまたぐんじゃねえ」。今まで一度も反論しなかったもんだから、叔母は面食らって突然におどおどして取り繕った

2012-03-03 18:18:31
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

父親は再び叔母を睨みつけたまま頑として言い放った「聞ごえねがったか、今すぐに出でけ。二度と顔さ見せんな」叔母はぶつぶつ言いながら剣幕にすっかり青ざめて逃げるように帰って行った。

2012-03-03 18:20:01
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

みんな帰ってシンと静まり返った家。父親は祖母に団子をこしらえてくれと頼んだ、祖母は娘さんの頭を撫でていたが、父親の言葉を聞いて頷いて土間に行った。

2012-03-03 18:22:24
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

父親は泣いている娘に優しく声をかけた「大丈夫だ、辛い目に合わせてしまったなぁ。おれが黙っていたばかりにすまねぇことをしたな。もうアイツは二度と家さは上げねがら安心しろな。どれ、おっかあの話して聞がせっからこっちさこ」と言ってやさしく娘さんを膝の上に乗せて、囲炉裏に向かい語り始めた

2012-03-03 18:25:21
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

父親は娘さんを撫でながら優しく語る「むがしな、お前が生まれる前の話だども。おれどおっかあはながながに子ども授がらねってな、えれえ悩んでたんだ。こういう貧乏暮らしだべ、めんけえ子どもがいればきっと家も明るぐなるなって思って」

2012-03-03 18:27:18
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

父親は囲炉裏も見ながら続ける「どんな子どもでもいい、産まれでこねがなーって願掛けばっかしてたんだ。んでもな、何処さ願掛けしても駄目だったんだ。んでな、おっかあと山さ行って、カミサマに頼んでみるべえと昔話みたいにな、思い立ったように北の山さ二人していったんだ」

2012-03-03 18:28:45
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

父親は自分で思い出したように笑いながら続ける「おがしいべ、でもな。おれどおっかあは本気だったのよ。んで当てもなく山さ入って、出会った神様の社あったらお願いすんべえと。こう決めたんだな。んで山さ行った、でもながながそんなもある訳ねえべ。おっかあと歩き回って夕方近くになったんだな」

2012-03-03 18:30:48
用心棒のキバさん(四代目キバ) @maburitto_kiba

父親は続ける「するとなおかしい事にいぎなり広い場所にでたのよ、森がな、ぶわーっと広がって広場になって、そこに一本の木が立ってんのよ。そりゃあ、見たごともねえ場所だし、おれもおっかあもえらい具合に驚いてなぁ」

2012-03-03 18:32:51