飛鳥部勝則・短編全作品レビュー
【極私的飛鳥部勝則全短編レビュー】飛鳥部短編を語ろう。「殉教カテリナ車輪」で第9回鮎川哲也賞受賞して以降、これまでに書かれた短編は全19編。残念ながらどれも単行本未収録のまま現在(2012年3月時点)に至っている。//
2012-03-05 21:51:04//少々駆け足ではあるが、自分なりに愛を込めて全19編を紹介していこうと思う。なお長編のレビューに関しては「エアミス研同人誌1号」にて皐月あざみ氏の力作「本格『涅槃』推理作家 飛鳥部勝則 全長編レビュー」が掲載されているので、そちらを参照して頂きたい。
2012-03-05 21:51:43「お菊さん」(「異形コレクション 玩具館」収録)/男たちにオモチャにされているお菊さんと、そのお菊さんにオモチャにされた主人公の物語。ノスタルジックな雰囲気の中に漂う飛鳥部勝則らしい、そこはかとない変態的エロスが堪らない。//
2012-03-05 21:52:55//ホラーとして見るとオチが些か弱い気がしなくもないが、少年時代の淫靡な思い出だけでも充分モトはとれる。やはり飛鳥部勝則は変態物を書いている時が一番生き生きしていると思う。
2012-03-05 21:53:22「呼ばれる」(「異形コレクション マスカレード」収録)/指を入れる。女の口に指を入れる。彼はそれが好きだった。……そんな官能的な書き出しで始まる本作は、仮面をテーマにしたホラー短編である。//
2012-03-05 21:55:58//かつて山口雅也は「生ける屍の死」(※1)の作中で「性愛(エロス)と死(デス)は兄弟」と語っていたが、本作は正にそれを対比させている。 本作のラストシーンは本来なら凄惨なはずなのに、冒頭の描写が尾を引いて、どこか甘美な雰囲気が漂う。//
2012-03-05 21:56:41「シルエット・ロマンス」(「異形コレクション 恐怖症」収録)/影を恐れる男を描いた物語。何故、自分が影に対し異常なまでの恐怖を覚えるのか、男自身にも分からない。そうして、あれこれ原因を探ってみたあげくに迎える結末は正に怪談そのものだ。//
2012-03-05 21:59:14//誰もが馴染みのあるものだからこそ、結末の恐怖の光景をありありと思い描くことができる。そういった意味では題材のチョイスが絶妙であり、恐怖とは常に隣り合わせだということをつくづく思い知らせてくれる作品と言える。
2012-03-05 21:59:37「白い猫」(「異形コレクション 獣人」収録)/においに敏感な男・順一が少女の凄惨な自殺死体と出遭ってからの日々は、倒錯したエロスと怪異によって彩られていた……。これまでにも作者は何度か幽霊に関する一考察をテーマにした小説を書いているが、//
2012-03-05 22:02:44//本作はその中でもかなり強烈なインパクトのある作品に仕上がっている。順一は言う。幽霊はにおいである、と。だが、それに同意することは、すなわち読者自身の変態を認めることでもある。しかし、だからと言って躊躇する理由はどこにもない。//
2012-03-05 22:03:22「あなたの下僕」(「異形コレクション キネマ・キネマ」収録)/寂れた寺の境内で行われた試写会で流された映画は、貴夫に知佐絵との記憶を思い起こさせた。スクリーンの中のセーラー服を着た知佐絵似の少女はミイラ男にこう語りかける。//
2012-03-05 22:06:08//「そうよ、あなたは私のためなら何でもしてくれる。だって、あなたは私の奴隷なのだから」――「白い猫」と並ぶ飛鳥部変態ホラーの傑作。美少女の放尿と罵倒が三度の飯より大好きな人(!)は迷わず手に取るべき作品である。「砂漠の薔薇」(※2)の終盤を彷彿とさせる罵倒もさることながら、//
2012-03-05 22:07:18//何よりこのどこか清々しささえ感じる放尿シーンの変態的描写が素晴らしい。その一方で、次第に現実が虚構に取り込まれていく様は定番ではあるが、幻想的な美しさを覚える。この変態と幻想の両立こそ、飛鳥部勝則の真骨頂なのだ。
2012-03-05 22:08:01「辿り着けないかもしれない」(「異形コレクション 夏のグランドホテル」収録)/そのホテルには辿り着けないこともあるという。絹谷はかつての恋人が勤める「人を拒絶することがある」というホテルを目指して歩き続ける……。//
2012-03-05 22:10:49//<ホラーえほん>という副題が付いている本作は、画家でもある作者のイラスト(※3)と小説が同時に楽しめる、一粒で二度美味しい作品である。ただでさえ個性的な氏の文章だが、それがイラストと相俟ってより強烈なイメージを喚起する。冒頭の何気ない話が伏線となっていることに//
2012-03-05 22:11:49//ミステリ作家らしいセンスを感じたものの、どちらかといえば本作は考えて読むのではなく、フィーリングで読むタイプの作品だと思う。
2012-03-05 22:12:11