飛鳥部勝則・短編全作品レビュー
「花切り」(「異形コレクション 教室」収録)/小林美樹(ミキ)という女のような名前を持つ美少年は、今日も薄笑いを浮かべて主人公を誘惑する。「おしゃべりとかじゃなくてさ、特別なこと、ちょっと大人っぽいことをしてみようよ」//
2012-03-05 22:14:31//……かつて美樹の母親は、男と浮気して植木職人である父親から制裁を受けたという。そして美樹もまた、主人公を誘惑したことにより凄惨な制裁を受ける。その制裁こそ、タイトルにある「花切り」だ。//
2012-03-05 22:15:36「番人」(「異形コレクション 黒い遊園地」収録)/事の始まりは、メリーゴーラウンドの入り口ですれ違った横綱似の男に覚えたある違和感だった――。遊園地の古いメリーゴーラウンドに纏わる怪談話。達磨落としと回転木馬という意外な和洋折衷ぶりは//
2012-03-05 22:18:40//どこか「黒と愛」(※4)の「奇傾城」にも通じる異形の美しさを感じさせる。その異形さは結末にも色濃く表れており、ホラーというより、どこかシュールな絵画を見ているような錯覚に陥る。また本作は何気に無駄な要素が一切なく、例えるなら端正な本格ならぬ端正なホラーとも言うべき作品。
2012-03-05 22:19:28「プロセルピナ」(「異形コレクション 蒐集家(コレクター)」「ザ・ベストミステリーズ推理小説年鑑2005」(文庫版タイトル「隠された鍵 ミステリー傑作選」)収録)/恋人が住む五重の塔の五階にある部屋に、幾つもの無残な死体があるのを女は見た。//
2012-03-05 22:21:14//だが女が目を離したわずかな間に部屋からそれらの死体が全て消え去ってしまう。何故そんなことが起きたのかはわからない。しかし、女は間違いなく見たのだ。……一部の飛鳥部ファンから「涅槃」(※5)と称される、昨今のぶっ飛んだ(!)飛鳥部長編ミステリを短編に圧縮したような作品。 //
2012-03-05 22:21:57//冒頭の残虐な殺人と魅力的な謎。神話をモチーフとした古典絵画と物語の融合。そして、あっと驚く消失トリックが解明された後に待ち受ける異形な結末。飛鳥部勝則という作家の全てが本作には詰め込まれているといっても決して過言ではないだろう。
2012-03-05 22:22:38「デッサンが狂っている」(「異形コレクション アート偏愛(フィリア)」収録)/窓ガラスをぶち破って、血みどろの頭が飛び出した。ガラスの破片がアスファルトに飛び散る。思考が停止し、身動きすることすらできなかった。目の前に、血塗られた顔がある。//
2012-03-05 22:25:13//五十歳前後の男の顔が、窓から突き出している。いったい何だ? どういうことなのだ?……本作は密室から消えた凶器の謎を中心に話が展開する一方で、その合間に数点の古典絵画の紹介が挿入されるという風変わりな構成となっている。話の途中に何らかの紹介が挿入されるというと//
2012-03-05 22:26:20//「堕天使拷問刑」(※6)における、お勧めモダンホラーを思い出すが、本作の古典絵画紹介もそれに近い脈絡のなさだ。しかし、それが単なる作者の趣味と思ったら大間違い。全ては読者の目の前に奇想の光景を現出させるための重大な伏線なのだ。画家でもある作者らしい企みに満ちた作品である。
2012-03-05 22:27:05「読むべからず」(「異形コレクション 進化論」収録)/ある日、怪奇ライターの僕の許に先日謎の死を遂げた友人の作家・榊原一穂の妻から文書が届く。そこには榊原の死に纏わる恐るべき事実が記されていた……。「怪奇への愛を、どうやって語ろう?」という書き出しが象徴するように、//
2012-03-05 22:30:03//この短編には怪奇への愛が詰まっている。想像するとイヤな気分になるシチュエーション。そして、タイトルの意味が分かると同時に何とも言えない後味を残すラスト。それは怪奇小説の定番ではあるが、その定番をなぞることはある意味、飛鳥部勝則のストレートな愛情表現と見ることができるだろう。
2012-03-05 22:30:43「王国」(「異形コレクション 伯爵の血族 紅ノ章」収録)/夜間部の講師をしていると、時々不気味な生徒を受け持つことがある。カルチャースクールの講師をしている岡本はある夜、毛利という名の生徒が書いた『奴らが来る』と題された突拍子もない内容の小説を読んで大いに困惑する――。//
2012-03-05 22:32:49//吸血鬼をテーマに書き下ろされた短編だが、今まで見えていた構図がある一言と共に反転した時の驚きは正にミステリのそれ。このテーマでこのオチを持ってきたセンスはただ者ではない。作者の奇想にただただ驚かされる一編である。
2012-03-05 22:34:04「バグベア」(「異形コレクション 幻想探偵」収録)/熊に食い殺された姉が体に取り憑いたと主張する少女と、そんな少女に想いを寄せる少年の話。それだけならば別にどうということはないが、これが実は幻想探偵をテーマに書かれたものだと知れば//
2012-03-05 22:37:34//誰もが「どこが探偵物なんだ?」と首を傾げることだろう。実際、自分も読み始めた当初は同じ意見だった。だが読み終わってみると、これが飛鳥部流の変格探偵小説だったことに気付く。本作の哀れな主人公は、ある意味、美袋三条(※7)と通じるところがあるかもしれない。
2012-03-05 22:38:16「とりつく」(「異形コレクション ひとにぎりの異形」収録)/ショートショートを依頼された作家が最近自分に取り憑いている幽霊を題材に何かかけないかと頭を悩ませる話……というと到底ホラーのようには思えないが、結末できっちりホラーとして着地させてくれるので、その点はご安心を(笑)。//
2012-03-05 22:41:10