ビガー・ケージズ、ロンガー・チェインズ #1

「ワイルドハント=サン死亡、インペイルメント=サン死亡、モスキート=サン死亡、……アブサーディティ=サン、戦線離脱直後に連絡手段喪失。生存を確認できておりません」ドージョーめいた広間、シシマイ像に埋め込まれたUNIX端末に向かい、淡々と報告を行うニンジャ有り。アンバサダー。 1
2012-03-12 10:50:05
『実際手ひどい打撃だ』通信相手は言葉とは裏腹、平然たるイントネーションで答えた。『だが、上昇志向を隠しもせぬワイルドハント=サンは、ここのところ下品であった事よ』「御意」『テロリスト一匹の退治を口実に、ネオサイタマでの地盤固めとは、まこと僭越。これもインガオホーか』「御意」2
2012-03-12 10:50:56
『……御身はその点わきまえておろう。アンバサダー=サン』「御意にございますパーガトリー=サン」アンバサダーは低く言った。『これで御身も却って動き易かろう』「……御意」 3
2012-03-12 10:51:46
アンバサダーはドージョー入場者の気配を感じ取り、振り向く。入場者は先にアイサツした。「ドーモ。ブラックヘイズです」手練れめいて、油断ならぬアトモスフィアを漂わせるニンジャである。「ドーモ、ブラックヘイズ=サン。アンバサダーです」アンバサダーは通信相手に囁く「傭兵が報告を」 4
2012-03-12 10:53:10
『よい。このまま話せ』「は。……ブラックヘイズ=サン。首尾はどうか」「煙いいかね」訊きながら、既に傭兵ニンジャはメンポに葉巻を差し込み、親指のバーナーで点火し終えていた。「イッキ・ウチコワシのアムニジアはドラゴンドージョーの忘れ形見、ユカノだ。まず間違いあるまい」「やはりか」 5
2012-03-12 10:55:10
『流石だアンバサダー=サン。ロードもお喜びになる』「有り難き幸せ」『そして、この件ではサラマンダー=サンに恩を売ってやるとしよう』パーガトリーが応答するたび、シシマイUNIXの目が謎めいて点滅する。『詳細な捕獲計画は御身に任せる。信頼しておるがゆえに。ぬかるなよ』「御意に」 6
2012-03-12 10:57:58
『ロードの御治世ますます栄えんことを。ガンバルゾー……』「ガンバルゾー!」シシマイの目が消灯した。アンバサダーはブラックヘイズに向き直った。不敵な傭兵ニンジャは壁に寄りかかり、葉巻をふかしている。 7
2012-03-12 11:00:29
「終わったか。見ざる、言わざる、聞かざる」ブラックヘイズは宣誓めいて言った。「当然だ」アンバサダーは言った。とはいえ、ブラックヘイズがそうしてわざわざ言うまでもない事であった。ブラックヘイズはプロフェッショナルであり、ザイバツもそれを承知だ。「で……ミッションは、いつ入るね」 8
2012-03-12 11:02:40
「知っての通りイッキ・ウチコワシはその実、ニンジャ集団。君一人送り出すのも偲びない」アンバサダーは言った。「こちらからはフェイタル=サンをつけよう。連携してくれ」アンバサダーの傍らに、女のニンジャが膝まづいていた。闇を照らすが如き華やかな美貌!「ドーモ。フェイタルです」9
2012-03-12 11:04:02
「こりゃまた美しいニンジャ殿」ブラックヘイズは肩をすくめた。「ドーモ、フェイタル=サン。ブラックヘイズです」「くくく」フェイタルは低く笑う。腰まであるストレートのプラチナブロンド。ニンジャであるがメンポはせず、瞳は謎めいた黒だ。「彼女には変身能力がある」とアンバサダー。10
2012-03-12 11:05:47
「変身能力?」「そうだ。イクサのための変身だが」アンバサダーは謎めかして言った。フェイタルがせせら笑う。「ミスターダンディズム。私の美貌がお気に入りなら、今のうちに網膜に焼きつけておけ……後で泣きを見る前に。くくく」「ま、頼らせてもらうとしよう」彼は目を細め、葉巻をふかした。11
2012-03-12 11:09:10
「イッキ・ウチコワシの首領は近々、反オムラ企業の秘密会合に出席する」アンバサダーは言った。「中心にいるニンジャは本部を外す事になろう」「理想を追うにも、結局はカネ、しがらみ、企業というわけだな」ブラックヘイズはメンポから煙を吐き出した。「可哀想な連中よな」 12
2012-03-12 11:20:22
「ドラゴン・ユカノはバスター・テツオの信頼も厚く、側近として常に首領と行動を共にしている」アンバサダーは続けた。「掌握するのであれば、この機会を利用するのが比較的容易い。ウチコワシの下部構成員は当然、企業体との密約など知らされておらぬ。手兵は連れまい」 13
2012-03-12 12:04:30
「内部者以上に組織の事情を知るアンバサダー=サンか」ブラックヘイズは言った。アンバサダーは頷く。「いかにも"そういう事"だ……ゆえにアムニジアの違和感に気づく事もできた」「いつから潜り込ませている?」「さて」「恐ろしい事だな、ザイバツとは」「そう、ザイバツは恐ろしい組織だよ」14
2012-03-12 12:14:28
「で、その反オムラ会合の警備規模はどうだ?情報はあるか。リスク如何で報酬額を修正する」とブラックヘイズ。アンバサダーは頷いた「後ほどIRCで情報を送る。会合は崩れる……なかなか見ものなインシデントとなろう。むしろ、そのインシデントの中でユカノが死なぬよう注意してほしい」 15
2012-03-12 12:55:14
「インシデント?オムラが仕掛けでもするか」ブラックヘイズが言った。アンバサダーは頷いた。「その通りだ。オムラには会合の情報が漏れている。ゆえに……混乱に乗じるといい」「力仕事だな」ブラックヘイズは肩をすくめる。「ま、そこの美人の助けもある事だ」「ハン」フェイタルは鼻で笑った。16
2012-03-12 13:41:34
「闘争!」「打破!」「作戦!」場をぎっしり満たした闘士たちのユニゾンが鳴り響く。壇上ではニンジャ同志が拳を振り上げ、組織的闘争心の昂まりを全身で表現していた。壇の後ろには巨大な肖像画が掲げられ、厳しい眼差しで闘士たちを見下ろす。ニンジャや老人。四つの肖像画のモデルは様々だ。 18
2012-03-12 14:53:28
ここは武装戦闘組織イッキ・ウチコワシ……その本部中央会議室。高い天井、巨大な空間は、会議室というよりホールとした方が適切である。だがしかし「ホールという呼称はブルジョワの夜会を徹底的に連想させ、よって敗北主義的である」との理由で、あえて会議室と称するのだ。 19
2012-03-12 14:58:00
「次に第16支部の目覚しい進歩的達成を、惜しみない礼賛と拍手で迎えたいと思うが、いかがだろうか!」大ホール(……否、会議室)に響き渡る堂々とした声の主は、ニンジャ同志アンサラー。メンポにはクワとハンマーがレリーフされ、装束は赤い。重鎮的存在、そして相当なカラテの使い手だ。 20
2012-03-12 15:04:21
「「是認!」」闘士達が一斉に応えた。アンサラーは手元の朱塗りUNIXシステムを操作する。すると背後にOHPスクリーンが降り、ネオサイタマ市街地図が映し出された。次々に地図上に打ち込まれるハンマーのアイコン、そして矢印!「諸君!彼らの犠牲的努力だ!該当地域の倉庫施設破壊成る!」21
2012-03-12 15:10:41
万雷の如き拍手!「第12支部は同時刻、堕落的回転スシ労働施設の欺瞞的エネルギーサイクルを攻撃、完全にインフラ断絶!」万雷の如き拍手!「この決断的潮流はやがて巨大なうねりとなる。反動的勢力はもはや決してこの自由革命闘争の息吹を封殺できないと考える!」万雷の如き拍手! 22
2012-03-12 15:15:25
「感じ取っていただけただろうか?ネオサイタマ全域に広がり今や止める事のできない進歩の足音!」万雷の如き拍手!アンサラーが拳を振り上げる!「この場に集まったすべての同志が皆等しく精鋭!闘争の礎であり思考者であり指揮官なのだ!キョート市民との連帯も実際近い!」万雷の如き拍手! 23
2012-03-12 15:23:00
「なお本日の大会に際し、同志バスター・テツオから、諸君らの決断的闘争行為へ向けた、熱く感激するメッセージが届けられている!」万雷の如き拍手が一際大きくなり、感極まって泣き叫ぶ者も現れた。スクリーンには不明瞭なバストショットが映し出される。フードを目深に被り、導師めいた影だ。24
2012-03-12 15:28:41