TAKASHIMA Hidehiro さんによる東電と原子力損害賠償紛争審査会の批判

はじめからネタをばらすようですが、原子力損害賠償紛争審査会が「子供を連れたお母さんの必死の避難を,実態のない"風評被害"だと評価した」ことに対する痛烈な批判です。
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TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

実際にこの書類に基づき賠償請求される場合の注意点は,二宮弁護士が次のブログで適切にまとめておられますのでそちらをご覧下さい。→http://t.co/1ClgJm2u この書類のもとになった中間指針追補(以下では「追補」と略記)はこちら→http://t.co/lOuzxQ9y

2012-03-15 12:34:07
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(1)今回は,この書類と追補をもとに,自主的避難の賠償に対する東電と原子力損害賠償紛争審査会(以下,審査会と略記)の姿勢の双方を検討しました。結論は,以下の(a)(b)のとおりです。

2012-03-15 12:34:25
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(a)この書類は,審査会が昨年末に公表した追補で示した定型的損害だけを対象とするものであり,従来の損害賠償法の原則から見て全く不充分である。このような東電の不充分な対応の原因は,審査会が追補で示した姿勢自体にある。

2012-03-15 12:34:50
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(b) 審査会は,自主的避難に基づく損害賠償を考える前提として,自主的避難の医学的合理性に全く言及していない。この姿勢に対しては,根本的な批判が加えられるべきである。

2012-03-15 12:35:04
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(2)以下で,上記(a),(b)の結論に至った理由を述べます。

2012-03-15 12:35:25
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(3)まず明らかなのは,今回の書類では,追補にいう「少なくとも共通に生じた損害」(3頁)だけしか対象にしていないことです(妊婦と子供についての20万円の上乗せという例外を除く)。

2012-03-15 12:35:42
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(4)すなわち,追補では「一定の自主的避難等対象区域を設定した上で、同対象区域に居住していた者に」「少なくとも共通に生じた損害」が挙げられていますが,これ以外の損害についても,事故から通常生じる損害である限りは賠償の対象になりうることが明記されています。

2012-03-15 12:36:20
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(5)対象区域内の居住者や避難者にこれを超える損害が発生した場合や,これ以外の地域の居住者に損害が発生した場合,これらの損害もまた,当然に賠償の対象になりうるのです。しかし,これらは今回の請求書では一切無視されています。

2012-03-15 12:36:34
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(6)実際に,避難により実際に被った損害が,今回の書類の賠償範囲(妊婦と子供は1人60万円,それ以外は1人8万円)を超える場合であっても,これを書類に書き込む欄はありません。また,対象区域以外の住民は,そもそも今回の請求書の対象に含まれていません。

2012-03-15 12:36:48
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(7)このように賠償請求者や賠償範囲を限定する理由は,東電の利益および事務処理上の都合によると思われます。すなわち東電は,できるだけ賠償範囲を少なくしつつ,定型的に処理することによって賠償に要する事務処理費用をできるだけ安く押さえようとしていると考えられます。

2012-03-15 12:37:04
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(8)しかし,上記金額を超える実費を支出した旨の証明ができる被害者について,このような金額の限定を設ける必然性はありません。また,自主的避難等対象区域以外でもこれと同等の放射能汚染が報告されている地域は存在しますから,地域で限定する必然性もありません。

2012-03-15 12:37:21
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(9)以上の点からすれば,自主的避難者等に対する東電の書類対応は,全体として合理性を欠きます。確かに妊婦と子供には自主的に20万円を上乗せしていますが,本来の賠償額としてはこれで当然であり,逆に妊婦以外の成人についての損害額8万円とのアンバランスが生じています。

2012-03-15 12:38:09
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(10)では,今回の請求書は,なぜこのような限定的な賠償にとどまっているのでしょうか。そして,なぜこのようなアンバランスが生じたのでしょうか。その理由は,私見によれば,審査会が昨年12月に公表した追補自体にあります。

2012-03-15 12:38:33
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(11) 追補の基本的な姿勢自体が不適切であるにもかかわらず,東電がこれ幸いと追補の姿勢に乗っかったために,このような問題が生じていると考えます。では,追補の基本的姿勢の問題点とは何でしょうか。

2012-03-15 12:38:51
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(12) 【原子力損害賠償紛争審査会の「中間指針追補」に内在する問題】そもそも追補の最大の問題点は,自主的避難の医学的必要性に全く触れていない点にあります。それどころか,逆に,追補には,「恐怖や不安」が避難を合理化する根拠であるとする次の(a)~(c)の記述があります。

2012-03-15 12:39:05
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(a)「自主的避難等対象区域においては、住民が放射線被曝への相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり、また、その危険を回避するために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある。」(追補3頁)

2012-03-15 12:39:19
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(b)「特に本件事故発生当初において、大量の放射性物質の放出による放射線被曝への恐怖や不安を抱くことは、年齢等を問わず一定の合理性を認めることができる。」(追補7頁)

2012-03-15 12:39:32
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(c)「その後においても、少なくとも子供及び妊婦の場合は、放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていること等から、 比較的低線量とはいえ通常時より相当程度高い放射線量による放射線被曝への恐怖や不安を抱くことに…一定の合理性を認めることができる」(追補7~8頁)

2012-03-15 12:39:45
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(13)しかし本来,自主的避難の費用については,医学的に見てどの地域からの自主的避難が合理的と考えられるかがまず検討され,自主的避難が合理的と考えられる範囲の全ての居住者に対しては,避難により生じた損害の賠償を認める,というのが手順であるはずです。

2012-03-15 12:40:27
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(14)私の専門のひとつである医療過誤法でも,医師の責任を判断する前提として,医学的な一般ルールが何であったかがまず確定されます。医学的な判断を明らかにせずに責任を問えるわけがありません。

2012-03-15 12:40:45
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(15)同じように,自主的避難の場合にも,まず医学的にみて避難が合理的かどうかによって判断されるべきです。そして医学的には避難が不必要であったという場合に初めて,「恐怖や不安」による避難についても一定範囲で合理性が判断されるというのが論理的な順序です。

2012-03-15 12:40:57
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(16)ところが審査会は,追補においてこのような方法をとっていません。審査会は,自主的避難の合理性についての医学的な判断を避け,避難の合理性を,個々人の単なる「恐怖や不安」に矮小化しているのです。

2012-03-15 12:41:13
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(17)この姿勢が明確に現れているのは,妊婦以外の成人が自主的に避難した場合の損害を,事故直後の時期に限定していることです。

2012-03-15 12:41:29
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(18)追補は,妊婦以外の成人が自主的に避難する場合の合理的な時的範囲を「事故発生当初の時期」(2011年4月22日頃まで)としています。(8頁)。以下のQ&Aをも参照→http://t.co/WyLRBaxY

2012-03-15 12:42:03
TAKASHIMA Hidehiro @TAKASHIMA724

(19)逆にいえば,審査会は,妊婦以外の成人が事故から1か月を過ぎても自主避難していた場合,その判断は非合理的であり賠償の対象に含まれないとしているのです。しかも,この判断が医学的に妥当かどうかには一切触れていません。

2012-03-15 12:42:17