「勇者の歌」

歌が聞こえる。
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とおる7th @windcreator

#twnovel 勇者だった。魔王を討つ捨て駒の一つ。なのに私は、冒険が始まる前に魔王の下僕に攫われた。魔王の食糧として。運ばれた先の"食卓"に、私は活きた料理として置かれた。「さて娘、命乞いはどうした?」「最期に歌わせて」「よかろう」元歌姫の性だろうか。せめて、故郷の彼を想う。

2012-03-22 00:22:19
とおる7th @windcreator

魔王はいつから呼吸を停めていただろう。歌はいつから止んでいたのだろう。破壊し尽くした魔王城には沈黙しかない。暗雲は消え果て、魔界の赤い空が美しく広がっている。涙。魔王はなぜ最期に歌を選んだのか。手から剣が零れる。俺は強くなれたのだろうか。誰一人救えなかった俺は。 #twnovel

2012-03-22 01:03:09
とおる7th @windcreator

男は二度と剣を持たなかった。 #twnovel 女は、魔王討伐の顛末を語り終えると、どこか懐かしむように静かに歌った。子どもの笑い声が響いている。「……貴女は、何者なのですか?」女の瞳は、赤い。「貴女こそ人に問う前に名乗りなさい。その身のこなしで王宮の歴史家だなんて役不足よ?」

2012-03-24 00:15:22
とおる7th @windcreator

音もなく刃が走る。 #twnovel 「Lv.79かな……つまり、貴女が"本命勇者"だった? 魔王を討伐する"予定"の?」赤い目の女は首元の剣に動じない。「私の過去はどうでもいい。もう意味はない。今の私の御役目は"真の勇者"の捜索と、魔王の血を絶やすこと。それだけ」赤い目が光る。

2012-03-24 02:10:42
とおる7th @windcreator

魔王の物語を誰も語ろうとはしない。 #twnovel 「当たり前だ! やはり貴様、魔王の配下だな! 近所の子に何を吹き込んでいる!?」激昂する刃。赤目は静かに目を閉じ、再び歌う。「魔王には人の命が唯一の糧だった。生まれた時に触れたモノが、我々の生きる糧になる。そういう呪いなのよ」

2012-03-24 02:22:46
とおる7th @windcreator

だから父は魔王を、名乗った。 #twnovel 赤い瞳が告げる。「魔王の、娘?」「そう。記憶と力と、そして呪いを受け継ぎ、父の死とともに生まれたのが私。ただ、私が生まれて最初に触れたのは、歌だった。あの人が歌っていた、歌だったのよ」子どもたちの歌う声が響いている。「歌が私の糧よ」

2012-03-24 02:30:36
とおる7th @windcreator

王様によろしく。 #twnovel 歴史家に戻った女は一礼で応え、「創作は苦手だけど、王が納得のいく"歴史"を伝えるわね。また会いに来ても?」「歌ってくれるなら」「ところで、"真の勇者"のその後は?」「紆余曲折右往左往の末、平凡な農夫になったらしいわよ? 妻の瞳が赤いのだとか」

2012-03-24 02:41:40
とおる7th @windcreator

--勇者だったのは誰なんだろう。

2012-03-24 02:43:29