誘拐犯「お前の子は預かった。返して欲しければ3億円用意しろ」親「あんなのいらないからあんたにやるよ!」

RTされまくったので書き続けているちょっとした物語をまとめました。未完です。ハッシュタグはわかりやすく「#誘拐犯物語」なのですが正式タイトルももう「誘拐犯物語」でいいやって思いますはい。 物語ツイートのみまとめてみました。物語だけ読みたい時にどうぞ。 http://togetter.com/li/286744 続きを読む
179
前へ 1 ・・ 9 10
不二式 @Fujishiki

隆は葉巻を吸い、煙を深く吐いて笑って言った。「結局それは子供が面倒だからだよ。子供なんてのは捨てにくいゴミのようなものだ。欲望のままに生きていれば自然と出来てしまう。」達夫は眉を寄せて言った。「人間はゴミじゃない!」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:13:42
不二式 @Fujishiki

隆は言った。「ゴミだよ。ほとんどがゴミだ。使えないゴミ。ほとんどが利用価値のあるゴミか、ないゴミのどちらかだ。ゴミに変わりはないんだよ。私たち経営者はそんなゴミをいかにリサイクルして価値を生み出すかをいつも考えねばならない」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:15:19
不二式 @Fujishiki

達夫は顔をひきつらせて言った。「経営者はゴミじゃないんですか?労働者はゴミだと?」隆は言った。「経営者もほとんどがゴミだよ。ある意味労働者よりやっかいだ。だが、利用価値はある事も多い。」達夫は言った。「あなたはゴミではないと?」隆は笑って言った。「ああそうだ」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:18:40
不二式 @Fujishiki

達夫は顔を歪めて言った。「私はあなたが嫌いだ」隆は言った。「好かれようとは思っていない。だいたい君はそもそも誘拐犯だ。好かれたいなどとは思わないさ」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:23:54
不二式 @Fujishiki

達夫は言った。「…なんで京を疎ましく思っていたなら、施設に預けたりしなかったんですか。虐待を受け続けるより遥かにマシだったのに!」隆は笑って葉巻を吸い、煙を吐いて言った。「大企業の社長をしている者が子供を捨てるのは印象が悪いじゃないか」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:25:12
不二式 @Fujishiki

達夫は眉根を寄せた。隆は葉巻を吸い、煙を吐いて言った。「それに、ちゃんと育ったら他の会社の子供と結婚させるつもりだったのさ」達夫は拳を固く結んで言った。「あなたは…あなたって人は…!」隆は言った。「陽子、席を外してくれるか。」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:26:46
不二式 @Fujishiki

陽子と呼ばれた女性は微笑みながら部屋から出て行った。隆は言った。「別に私は責任を全て放棄するつもりはないよ。京の養育費は出そうじゃないか。親権はあんたにやってもいいがね」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:29:28
不二式 @Fujishiki

達夫は苦々しい顔をした。隆は笑って言った。「金がいらないわけはないよな?弟の命を救うためにも、金はいるに決まっているからな」達夫はソファーから降りて土下座して言った。「…お願いです。養育費、前借り出来ませんか?」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:31:01
不二式 @Fujishiki

隆は高笑いした。達夫は頭を床につけて言った。「お願いです!京さんは責任を持って育てますから!」隆は言った。「悪いな、返ってくるアテのない金は貸さないことにしてるんだ。他をあたるんだな」 #誘拐犯物語

2012-06-23 01:32:08

『お前の子は預かった!返して欲しければ3億円用意しろ!』
『あんなのいらないからあんたにやるよ!』
 倉原 美里(クラハラ ミサト)はクスクスと笑った。そしてまたICレコーダーを操作して再生する。スピーカーからまた達夫の声が流れる。
『お前の子は預かった!返して欲しければ3億円用意しろ!』
『あんなのいらないからあんたにやるよ!』
「あはははっ」
 美里は机をバンバンと叩いて笑った。
「止めなさいよ、趣味悪い」
 坂本 香(サカモト カオリ)はデスクに頬杖をついたまま咎めるように言った。
「えー、元々この案件に興味津々だったのは香じゃーん」
 美里は香の事務所で片足立ちでクルクルと回りながら言った。美里はその言葉遣いとは裏腹に、フォーマルなスーツを着ており、化粧も目立たないものをしている。髪型もきちっと束ねたポニーテールで髪色も黒だ。香はそんな美里を見て溜め息をつくと言った。
「美里も情報屋ならもうちょっと扱った情報は丁寧に扱いなさいよ…臼井 隆とかいう例の金持ちからたんまりお金は貰ってるんでしょ?」
「まあねー♪」
 美里は得意気にソファに座って脚を組んだ。香はまた溜め息をついた。香もフォーマルな服装ではあるが、カッチリした美里と違って少し緩い、少し洒落っ気のあるものだ。髪色も茶髪でメイクもフォーマルシーンに合わせつつ、少し穏やかな印象を抱かせるものになっている。
「んで?そういう探偵屋さんの香さんはここんとこどうなのよ?お仕事の方はさ~?」
 美里はニヤニヤしながら言った。香はデスクに突っ伏して言った。
「最近はダメね……小さな案件ばかり。ネコを探したり、浮気調査したり…まあ仕事があるだけマシっちゃマシなんだけどねー…」
「ウチから大きいお仕事回そっか~?」
 美里は立ち上がると、香の後ろに回り込む。香は察して椅子に背を預け直し横を向く。すると美里の唇が香の唇に重なった。んふ、と美里は笑むと耳元で囁く。
「香のためならそれくらいするよ…?」
 香も微笑んで言った。
「ええ…お金に困ったらまた頼らせて貰うわ」
「も~…香ってば本当つれないんだから~」
 するとピンポーンと呼び出し音が鳴った。事務所への来客を知らせる音だ。
「ほらね?美里に頼るまでもなかった」
「分かんないよ~?変な依頼人かもよ~?」
「もうっ!書庫にこもってなさいっ!」
「はいは~い」
 美里はクルクル回りながら書庫へと歩いていく。香が受話器を手に取って回線を事務所の呼び出しベルに回して言う。
「遅くなりました。ご依頼ですか?」
「ええ!娘が誘拐されたの!お金はいくらでも払うから!」
「ええ、ええ。分かりました、すぐに出迎えに向かいますね」
 香は錯乱気味にまくし立てる依頼人の声を穏やかに断ち切ってそう言うと、すぐに事務所の扉の前に来て丁寧に扉を開けた。ドタドタと女が入ってきて言った。
「娘が誘拐されたの!すぐにどこの誰がやったかを突き止めて欲しいのよ!」
「ええ、ええ。ひとまず落ち着いてください、こちらは出来ればスリッパに履き替えて頂きたいので…!」
 女は謝りもせずに靴を玄関に足をバタバタして放るように靴を投げ出し、スリッパに履き替えてまたドタドタと歩く。女はそのままドスンとソファに座り、スーツケースを無断で机の上に置いてバッと開けた。香は笑顔を貼り付けた顔のまま丁寧に歩いて向かいのソファに腰かける。
「ここに1000万円あるわ、必要があるならもっと蓄えもあるから、お願いだから娘を…」
「ええ、ええ。まずはお名前をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
「金本 佳奈美(カナモト カナミ)!金本 佳奈美です!結婚していた頃は臼井 佳奈美でした!探して欲しいのは娘です!京という名前の5歳の女の子です!」
 香はメモを取る手を止めずにニヤリと笑んだ。
(美里の抱えてた案件ね…これはあっさり片が付きそうだけど、それじゃあ儲けが少なくなってしまうわね)
「分かりました。何か手がかりになりそうなものはありますか?」
「ええっと…元夫の住所ならここです!今書き出します!私にも紙とペンを!」
「お子さんのお写真とかはあります?」
「はい!これです!」
 佳奈美が出したのは赤ん坊の写真だった。
「…失礼ですがもう少し大きくなってからの写真は?」
「ありません!離婚後は他の男性とお付き合いしていましたので!」
 佳奈美の目は真剣そのものだったが、どこか焦点がおかしく香には映った。
(あまり関わり合いになりたくないタイプだけど…)
 香はスーツケースの中身を目だけでチラリと見る。
「お願いです…!元夫のお金も持っていますし、他の男性からもお金は集められます!だからお願いですので娘を!どうか!」
 香は優しげな微笑みを顔に貼り付けて言った。
「分かりました、そのご依頼引き受けましょう」

 その後も佳奈美との話は嵐のようで、香は前金として500万円を現金で受け取っていた。佳奈美が事務所を出て行った後も、佳奈美が食べ散らかしたお客さま用のお菓子のクズを、香はホウキで丁寧にソファから掃き出していた。
「うっひゃ~…めったに見れないよこの量の現金は…!相当ヤバイ女っぽいねあのおばさん。まー可愛いし男ウケは良さそうな見た目だけど」
 美里は現金が全て本物かどうか、手元のハンディライトにかざして透かしやホログラムを見ていた。職業柄いつも持ち歩いているらしい。
 香はふふふ、と笑んで言った。
「まあいいんじゃないかしら。ああいうお客さまって実はいい感じのお付き合いができるものよ」
「香も人が悪いね~…さっき言ってた子の居場所なんてとうの昔に私が調べ上げてるっていうのに」
「いいじゃない、情報屋の情報は高くて当然。そうでしょ?」
 香は笑んで言った。
「たまには私自ら、潜入捜査ってのをやってみるわ。ああいうお客さまほどそういうやり方を好むから」
 美里も笑んで言った。
「本当、香も好きだよねえ…世間の思う探偵のイメージそのままに振舞うのがさあ…」
 立ち上がり、冷めたカフェオレを一気に飲み干すと香は言った。
「エンターティナーなのよ、私は」

 達夫はためらいながらも、笑顔で呼びかけた。
「京……ごはん、出来たぞ」
 以前なら返ってきていた返事は今はなかった。達夫の部屋の隅に京はいた。だがずっと座り込んでいる。体操座りでごめんなさいごめんなさいと、誰に言っているのかも判然としない言葉を、彼女は延々と繰り返していた。達夫はひどく後悔していた。
(想像力が欠けていた……京はあそこに連れて行くべきじゃあなかった)
 達夫の脳裏に、京が陽子に腹を殴られる様子がまたフラッシュバックした。あれから、この部屋にまで帰っては来られたものの、京の顔面はずっと蒼白で、食べてももどしてしまう程に弱っていた。おもちゃにも興味を示さない。達夫はどうすればいいか分からなかった。飲み物は何とか口に出来るらしく、スポーツドリンクを口元に近づけては、ストローですするのを見守っていた。
(くそ……こういう時どうすればいいんだろう……)
 達夫は椅子に腰掛けた。京が食べやすいようにと、その日作ったのは赤味噌を溶いた雑炊だった。土鍋で作ったそれは当分冷めないだろう。達夫は自分の幼少期を思い出そうとした。自分が同じような事になった時、親はどうしてくれたか、と。父親は何もしなかった。むしろ自分が怖がって苦しんでいた対象こそが父親だった。達夫の表情が苦痛に歪む。達夫にとっては過去は毒そのもののようだった。思い出す事そのものが彼にとっては苦なのだ。借金、ギャンブル、浮気、大酒、タバコ、風俗遊び……何でも父親はしてきて、その後始末に追われるのはいつも母親で、仕事のストレスをぶつけられるのは自分と母親だった。母親が弟を宿してもそれは同じだった。達夫の額に汗が浮かぶ。それでも達夫は必死に記憶を辿る。母親はどうしてくれていただろうか?自分が泣き止まなかったり、しょげてしまったり、ひどく怖い目に遭った時、母親は……。
 達夫はハッとした様子で、京のそばへとゆっくりと近寄った。
「ごめんな、京……」
 達夫は京の小さな身体を優しく抱きしめた。京のごめんなさいが止まった。
「ごめん……俺が悪かった……お前は何も悪くないんだ……だから……」
 達夫はさらに強く京の身体を抱きしめて言う。
「頼む……少しだけでいい……プリンでもなんでもいい……食べたいものだけでいいから……何か食べてくれ……お願いだ……」
 達夫は震え、涙を流し、嗚咽を漏らしていた。京はぼんやりと達夫の温もりを感じていた。京の目は相変わらずうつろなままだったが、その目からは涙がこぼれ落ちていた。

 香はプリントアウトした地図と手書きした部屋番号などのメモを見ながら、アパートの表札を見て回っていた。
(最近は用心してるのか、表札に自分の苗字とか出さない人も多いからねえ…こういう時は美里の情報が本当に頼りになるわ……っと)
 香は表札に「河野」の表示を見つけて舌なめずりをした。
「みーつけた……!」
 香はにんまりと笑んでそうつぶやく。隣部屋は既に美里の手配で借りてあるらしい。香の服装はというと、今日はモダンな配色のボーダー柄の入ったタイトなニットワンピースの下に、少し薄まった紺のデニムパンツを合わせ、茶髪も下ろしている。メイクも大人っぽい普段用のものに変えている。香はバッグの中にあるビデオカメラを、慣れた手つきで器用に取り出さないまま操作すると、隠し穴から映像を隠し撮りできるようにして、河野家の呼び鈴を鳴らした。
「……はーい」
 やけに陰鬱な雰囲気を帯びた声がドアホンから聞こえた。
(あれ~……?聞き込みによるとこの誘拐犯さん、愛想はいいはずなんだけどなあ……)
「はじめまして~、隣に越してきた片桐と申します~、今日はご挨拶にと思いまして~」
 もちろん偽名だ。メイクやファッションやらの変わり映えもあって、今の香はまるで普段の探偵としての姿とは別人のようだった。
「……今開けますね」
 少し間が合って、カチャカチャという鍵を開ける音がした後、ドアが開かれた。達夫の顔は少し目鼻が腫れていた。
(花粉症……ってわけではなさそうね。こりゃあ弱ってる……漬け込むチャンスかも)
 にっこりと笑みを浮かべて香は言った。
「改めてはじめまして~、205号室に越して来ました片桐です~。どうぞよろしくお願いします~」
 見た目は美人でとても優しそうな雰囲気に見え、スタイルも良い香の姿が目に入って、思わず達夫の表情が緩む。すかさず香が片脚を上げ、そこに紙袋やバッグを置いて、「粗品」と書かれたタオルを取り出して渡そうとする。
「こっこちらつまらないものですが……ぁ~っ!」
「おわっ?!」
 香がバランスを崩して玄関の中まで倒れ込んで来る。思わずそれを抱きとめる達夫。
「だ、大丈夫ですか……?」
「え……ええ……!すいません、お恥ずかしい所をお見せしてしまって……」
 香は自然と胸を達夫に押し付けるようにする。意識をそらすためだ。達夫が頬を赤くして目をそらす。その間にバッグを上手い位置に置いて、ビデオカメラに部屋の中がよく映るようにする。
(あはは、男相手の仕事って本当らーくちん……♪)
 すると、その様子を睨んでいた子供がいた。京である。見た目は女の子に見えるが、服装はイマイチ垢抜けない。
(この子が例の……)
「……お姉さん、今わざと倒れ込みましたよね……?」
「えっ……?!」
 香は焦った。
「そっ……そんなわけな」
「京っ!」
 達夫はひざまずいて京の手を取って笑顔を浮かべた。
「お前……話せるようになったんだな……!?」
 達夫の目には涙が浮かんでいた。京の目線は相変わらず香に突き刺さっていた。その目はまるで親を殺された……いや、自分の恋人を盗まれた女のような……
(いや……まさかそんな……5歳の女の子が……)
「達夫さん、気を付けて……このお姉さん、嘘をついてる」
 香の背筋が凍りついた。ゾクッとするような鋭いまなざしと言葉だった。達夫は申し訳なさそうな顔で香に向き直って言った。
「す……すいません……この子、いま弱ってて……疲れているので……こっ、こちらはありがたく使わせて頂きますね……それじゃ……!!」
「あ!ま、待ってくださ……」
 香はそのままバッグと紙袋とを渡され、ドアを手早く閉められた。
(まさか……私に限って一発で部屋に上がれないとは……ちょっと今回のは……)
 冷や汗を流しながらも、香はニヤリと攻撃性を含むような笑みを浮かべた。
(……面白いじゃないの……ッ!)

前へ 1 ・・ 9 10