- sm_14th_Invidia
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ミサキの手にあるのは【魔女族】から貰った雷撃の剣があります。 それは魔女たちの間ではありふれた魔法で……2対1交換と呼ばれる力を持ちます。
2012-04-29 23:30:22そう【魔女族】の力は【悪魔族】の力と同じ生き物の魂をエネルギとして奇跡を起こす力、奇跡には代償を必要とします。 その剣は【鳥獣族】を一人とそして剣自身を生け贄捧げることで対象一匹に死を与えます。
2012-04-29 23:30:47そう、命と剣の二つと命一つの交換。 二対一交換の力です。 一見損しているようですが、58位の【鳥獣族】の命で5位の【ドラゴン族】の命を取れるというのならそれは奇跡と呼ぶに相応しいでしょう。
2012-04-29 23:31:05魔女たちの言う通り、ミサキはいつでも自分の意志で英雄となることができます。 【鳥獣族】の雛のうち一羽をその剣で突き刺せばいいのです。 それで剣は力を持ち、停滞竜カブトを殺す罠となります。
2012-04-29 23:31:32その剣が渡されたのは【魔女族】の悪意なのか、それとも彼女たちにとっては奇跡のために犠牲を必要とするくらい当たり前のことで意識せずに渡したのか、それはわかりません。 わかっているのはミサキが竜殺しの英雄になるためには【鳥獣族】を殺す必要があるということです。
2012-04-29 23:32:15ミサキは悩んで、悩んで、そして絶望することを選びました。 彼はすでに幻想の魔術師マハラドに、【鳥獣族】の雛たちに救われていたのです。 今さら英雄などになる必要はなかったのです。 あと一歩のところでマハラドとの約束を果たせないのは悔しいですがそれだけです。
2012-04-29 23:33:25ミサキは里に戻り、余ったお金の使い道や【鳥獣族】の雛たちにどう説明するか考えつつ、クズ鉄集めの仕事をして過ごしました。 【鳥獣族】の雛たちに聞かせる物語はもっとハッピーエンドでなければいけないと考えたのです。
2012-04-29 23:34:57そして仕事の帰り「ミサキ!ミサキでしょ!」と、後ろからミサキを呼ぶ声がしました。 振り向くとそこにいたのは【鳥獣族】の女性――――成人になり里を出て行ったはずの黒い雲のヒジリでした。
2012-04-29 23:35:23ミサキの心は恐怖に染まりました。 【鳥獣族】の雛たちがミサキのいうことを信じたのは世間を知らない雛だったからです、もし外に出て色んなことを学べばミサキの言ったことが全て嘘だったことなどすぐわかったでしょう。
2012-04-29 23:36:58ヒジリは自分を怒っているのか、恨んでいるのか、それとも哀れんでいるのか、それとも広い世界を知ってミサキのことなどどうでもよくなったのか、ミサキの頭に様々なパターンが浮かび、そしてそのうちには一つだっていい想像はありませんでした。
2012-04-29 23:37:37ミサキには何故ここにヒジリがいるのかわかりません、でもわかるのはヒジリはミサキのこのせっかく作り上げたなんとか生きていける優しい世界を簡単に壊してしまえるということです。
2012-04-29 23:37:59ああ――――、なんでヒジリはこの里に戻ってきてしまったのでしょうか、好かれていた記憶さえあればよかったのに、それだけ抱えて生きていけるはずだったのに。
2012-04-29 23:39:10ミサキはヒジリから逃げました。 考えなどありません、ただ世界を壊されてしまうことを恐怖したのです。
2012-04-29 23:39:32「待って!ミサキ!」ばさり、と空気が大きく潰され流される翼の音が背後から聞こえます。 そして次の瞬間には【鳥獣族】のするどいかぎ爪によって地面に押さえつけられてしまいました。
2012-04-29 23:41:07そう、【鳥獣族】は58位で【遺物族】は76位、竜殺しなどではない、ただの【遺物族】のミサキではどうしたってヒジリから逃げることはできません。
2012-04-29 23:41:27「聞いて!ミサキ!」ヒジリは叫びます。「私、あれから色んなこと知ったの!」ミサキはそんなヒジリの言葉を聞きたくはありません、でも逃げることが出来ない以上、声は聞こえ続けます。
2012-04-29 23:41:40「私、いっぱい冒険して色んなこと知ったの。ミサキがどうしてああいう風に言ったのか、ミサキがどんな気持ちだったのか、全てはわからないけど少しはわかったつもり。こんなことを言うと私みたいに恵まれた人間が何を言っているんだ、って思うかもしれないけど……」
2012-04-29 23:42:32その言葉だけでミサキは自分のことの多くをヒジリが分かっていることが分かりました。 そう、確かに《善行》を行う未来が待っているヒジリのことをミサキは妬んでいました。
2012-04-29 23:43:01「あのとき、ミサキは言ったよね、どんな困難な状況でも諦めず道を探せばどこかに道があるって、ミサキはそうやって【ドラゴン族】停滞竜カブトをあと一歩で殺せるところまで来たんだよね」
2012-04-29 23:43:37「なぜそのことを……」ミサキは呟きます。 仮に【鳥獣族】の雛たちの館に言って話を聞いたとしても、彼が【魔女族】から雷撃の剣を受け取ったことまではわからないはずなのです。
2012-04-29 23:43:52「言ったでしょ、ミサキと一緒に冒険したいからミサキを追いかけるって。私、ミサキのこといっぱい調べたの。だから【魔女族】から剣を受け取ったことまで含めて、全部知ってる。私、ミサキのこと尊敬してるの」
2012-04-29 23:45:09ああ、ヒジリは全てを知ってなおミサキのことを尊敬していると言うのです。 そのときミサキが感じた感情は喜びよりも羞恥を憎悪でした。
2012-04-29 23:45:43