ヨッカ小話まとめ

すぐ忘れるのでまとめたもの。
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空間 @nyannyannyanno

「どうぞわたしをお食べなさい。」路地に横たわり死を待つ孤児に、黒い蝶は声をかけた。乾いた瞳はぼんやりとはばたく影を見る。「わたしの躰はあなたの望むものを授けます。そうこの世のあらゆる」孤児は彼女の躰を掴みむさぼった。何の価値もない孤児の腹はくちくなったが、ただそれだけだった。

2013-03-05 21:06:04
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赤い瞳の鳩が飛んでいく。鳩が羽ばたき遠ざかる端から黒い黄昏がおりていく。鳩は振り向かない。鳥は頭だけ振り向くことはできない。彼は旋回し戻るつもりもない。彼が遠のく姿に、はじめは嘲笑い、次に呆然と、今は泣き叫びながら追いすがる人間たちの姿を、赤い瞳は二度と映さない。#twnovel

2013-03-05 20:43:34
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この世にまず言葉があり、そして口ができた。次に口を開閉させる骨と筋と肉ができ、首ができた。次に血と血漿液が、それらを巡らすための心の臓ができた。そして心の臓、肺腑、臓腑ができ、世界には空気と食物に溢れた。ただし、口から上はついぞ作られず、世界はいつまでも平和だった。

2013-02-20 22:17:08
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マトリョシカを開けると中にはまたマトリョシカが、そのマトリョシカを開けるとやはりまたマトリョシカが。マトリョシカはそういうもの。女児をかたどった器。けれどこの一抱えもあるマトリョシカを開けると、だるまが入っていた。おかしい。マトリョシカは女児だけではなかったか。なぜ達磨が。

2013-02-18 20:14:25
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「子どもが欲しくない?あなたの子どもが欲しくない?わたし、手伝ってあげる。」黄色い蝶が風に揺れる花々に囁いている。若い花は、身動きできない体を歯痒く思っていたので、熱心に聞いていた。年経た花はさめた目で、この蝶は蜜だけ持ち帰り、けして子作りの手伝いはしないのだ、と沈黙している。

2013-02-13 09:36:42
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花を摘みに参ります。野に咲く花を摘みに参ります。ぶつっ。ぶつっ。ぶつっ。籠に花をいれていると、白い蝶が寄って来ました。「あなた死んでしまったのね。かわいそうに。せめてあなたの子供をつくってあげる」と籠の花にささやくのが聞こえます。そんな。おぞましいことを。わたしは蝶を潰しました。

2013-02-11 15:29:16
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「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 「いない いない」 ばあ がこわくて言えない。

2013-02-11 14:54:20
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あなたの亡骸を埋めたところに花が咲いていました。明るい紫色の、上品な花です。わたしはそれをいくつか摘み取り、洗ったガラス瓶に挿しました。部屋に差し込む白い日差しに花が映え、なんとも暖かい気持ちになります。花がしおれてしまったら、また摘みに行きますね。愛しています。

2013-02-11 11:48:31
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教室という言葉を聞いて想像した「教室」が、広さ、大きさ、壁の質感、天井の模様、床の光沢、カーテンの色、教壇の位置、机の配置、窓からの景色、季節、黒板の日直の名前、壁に貼ってある試験の日程表まで、あなたとわたしとで一致していたらこわいよね。だれもそれを確かめることはできないけれど。

2013-01-29 21:11:15
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ずりずりと畳を擦る音が其処彼処で響く。ここは畳敷の世界。地平線まで畳が敷き詰められている。土足は厳禁。膝を擦りながら歩くことしか許されない。客人よゆめゆめ気をつけなさい。まだ健常なその脚で、まかり間違ってこの地を踏みしめてご覧なさい。その粗相への、仕置きをしなければなりません。

2013-01-01 14:09:28
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「ずっと咲いてる桜の花と椿の花、どっちが好き?」黒髪の女が手元の容器を弄りながら問いかけてきた。椿?冬に咲いている赤い奴か。あんまり馴染みがない。桜と答えると、女は手元の容器を撫でた。中には何かの軟膏が入ってるようだ。華やかな香りが舞う。いっそ禍々しいくらいの--椿の匂いが。

2012-12-30 19:05:16
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「おきないこだれだ」が教室を闊歩する。子供たちはみな腕を枕に寝たふりをしている。「おきないこだーれだ」という声がしんとした教室に響く。どうしてこんな様子になったのか。さっきまで先生がいて授業をしていたはずなのに。わかるのはこのまま寝たふりをしなくてはならないこと。さもなければ、

2012-12-28 23:20:09
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①狂瀾マッドサイエンティスト②背徳ピグマリオニスト③狂喜セリアンスロープ④憂鬱ウィッチクラフト⑤陰鬱ヴァーサーカー #勝手にフォロワーさんキャラ化

2012-12-18 19:34:54
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憂鬱ウィッチクラフトは塔の上から中庭にいる陰鬱ヴァーサーカーを面白そうに見ている。男は塔の中には入ってこないことを知った上での余裕だった。城内から狂喜セリアンスロープが笑いながら男に向かっていった。動きはさすがの猫のよう。

2012-12-18 19:23:18
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だけどそんな歪な平穏は破られる。城内に黒い影のような剣士が侵入した。剣士が走り行くと上等な肉を切り分けるように、バラバラになった死体が転がっていく。銀髪マッドサイエンティストが作り出した凶暴な異形の生物もまた、その剣士にかかれば飼い慣らされた家畜に等しい。

2012-12-18 19:17:18
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黒髪長髪の魔法使い(ウィッチクラフト)は食客として西の塔に寝泊まりしている。彼は家主たちとは違ってまだまともな方で、日ごと行われる狂宴にうんざりしている。今日もまた塔の上でため息がこぼれる

2012-12-18 18:46:29
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水晶色の毛色の半獣半人(セリアンスロープ)は銀髪マッドサイエンティストの作り出した召使。いつもニヤニヤ楽しそうにしてる。それでも刻まれた本能のままに夜ごと死体や人間を運んでくる。傷んだ死体に銀髪マッドサイエンティストが憤慨しても、水色の猫に似た耳を動かしてケタケタ笑ってる。

2012-12-18 12:09:48
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銀髪マッドサイエンティストは自分で作った従者が実験体を攫ってきては実験する。黒髪ピグマリオニストは気に入った実験体がいたら譲り受けて人形にしちゃう。二人とも基本的にテンション高くて二人が住むクリスタルの温室城に二人の高笑いが夜毎響いてる。

2012-12-18 00:09:45
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あの人のことが好きで好きで仕方がないので捕まえて一生閉じ込めてやろうと思った。そのためには実入りの良い職に就かなければと、勉学と部活に励み必死にその日のために努力し続けた。全て彼との蜜月のため。だけどどうしてだろう。充実した毎日は彼への思いを薄れさせていく。#twnvday

2012-12-14 21:55:47
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胃の薬を山のふもとの薬屋に貰いに行く。これがよく効くのだ。だけど今月は忙しくてなかなか行けなかった。少なくなる煎じ薬に不安になっていると、配達人が戸を叩く。薬屋がわざわざ送ってくれたのだ。箱を開けると馴染みの薬草の匂い。薬屋の住む森の匂い。#ファンタジーホモ #twnovel

2012-12-10 21:09:09
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有角種の中でもひときわ美しい彼らは断絶の間際だった。理由の一つは、城の中には領主の子息とその従者の二人しか最早いなかったのだ。それでも彼らは城下の人間たちには関わらずひっそりと暮らしてきた。だが彼らの鋭敏な角は、村人の恐怖がやがて自分たちを滅ぼす炎となることを察知していた。

2012-12-04 12:18:07
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アニマ・ムンディは久方ぶりに夫を持とうと考えた。そして殺人に何の躊躇いもない者共を一つ処に閉じ込め、殺し合わせた。虫は最後の一匹が最も優秀なのだ。血まみれで立ち尽くす勝者を慈母の微笑みで抱きすくめる。もし飽きたら腹に収めてしまえばいい。スープは最後の一滴が美味いのだから。

2012-12-03 22:48:28
空間 @nyannyannyanno

商人は拳大の塊を数個取り出した。黄灰色のざらついたそれは砂の固まりにしか見えないが、客たちは色めき立つ。その砂は戦場の砂。商人が渡り歩いた数々の戦場の砂だ。その砂を食べると夢に砂の記憶を見る。戦場の無惨な様を安寧に観察できるエンターテイメント。好事家たちは熱っぽく見つめている。

2012-12-03 20:26:56
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水蛇の高慢な申し出に酒精は答える。自分が酒をこしらえるためには澄んだ水がいる。水蛇はこれに鼻を鳴らして、俺を何者だと思っているのだ。見ろ、この池の水の澄んだことを。これ程清浄で力ある水はこの辺りではあるまい。これに酒精は眉を上げて笑う。馬鹿を申せ。

2012-11-24 17:37:44
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ならば私が酒をこしらえてやろうか。ここで出会ったのも何かの縁だ。空になった酒樽の前に突っ立っている池の主の水蛇に訊くと少し驚いた様子で頷いた。重ねて問いかける。酒はいける口かと。すると水蛇はくしゃりと笑い答える。蟒蛇に対して何て問いだ。是が非とも酒精殿にお願いしたく。

2012-11-21 22:37:42