質問をする権利があるはずだと思った。だって彼と自分は恋人じゃないか。だから聞かなくちゃ。聞かなくちゃ。どうしてかわからないから、聞かなくちゃ。そればかり頭に反響する。怒ってはだめだ。冷静に。……隣で眠る彼。無防備な寝顔。信じているからこそ、聞かなければ。
2012-05-18 13:13:24冷静に。そう思っていたはずなのに、どうしてか体は制御がきかなかった。壁に追い詰めるような真似を、服をはだけさせるような真似を、無意識にしていた。肌に散る無数のあとは、新しいものも消えかけたようなのも様々だった。認識するより早く、ぷつん、と意識が飛んだ。
2012-05-18 13:16:06嫉妬。独占欲。彼を所有しているのは。自分の感情が抑えきれない。つけられていた痕をすべて上から塗り替えるまで、気が済まない。真斗の声が聞こえる。いたい、いたい、トキヤ、トキヤが考えていたのは真斗のことではなく、この体を抱いた見知らぬ誰か。そいつへの嫉妬が、真斗の体に痕をつけさせる。
2012-05-18 13:21:02ずいぶん長く行為から遠ざかっていたせいか。たとえひどいキスでも、真斗の体に落としているうちに、トキヤは自らのからだに熱が宿るのを感じた。内腿にまで口づけ、たちあがった彼のものに口づけ、熱い後孔にも口づけ、それから自らの楔でもって、彼を貫いた。貪るようになかを蹂躙した。
2012-05-18 13:24:44いたい、と言いながら時折あまい声をあげる真斗。容赦なく抉り、散々に嬲って、中に出してやる頃には酷い後悔に襲われた。真斗は泣いていた。見ぬふりをして、風呂に入るようすすめた。シーツの上にひとり座って、トキヤは自らを苛む暗い感情を必死に振り払った。
2012-05-18 13:28:55真斗は質問に答えなかった。あそこまでして答えないということは、トキヤに言えないような事情を抱えているということだろう。……深い事情を。真斗といれちがいに風呂に入る。シャワーを浴びれば、醜い自分の嫉妬心がすこしは流れていくだろうか。……上がったらまずは謝らなければ。やり直すのだ。
2012-05-18 13:32:11トキヤは錯乱した。らしくない程に取り乱し、部屋のモノをすべてひっくり返す勢いで真斗を探した。いなかった。いなくなってしまった、また、かれを、うしなってしまった、……私のせいだ。私の。ものの散乱した部屋。そのなかでトキヤの心だけがからっぽだった。
2012-05-18 13:36:04本能的にか、握りしめていたのは真斗の使っていたタオルだった。抱きしめたそれは真斗のにおいがした。手が震えた。ひじりかわさん、聖川さん、……まさと。まさと。名前を呼ぶ。温かいタオルは心地よかったけれど、何も答えてはくれなかった。
2012-05-18 13:38:05あらゆる場所を探した。考えられる限りの知人に当たった。しかしだれも真斗の行方を知らなかった。会社にも来なかった。真斗の席は空白。……ふと、その壁の後ろに貼ってある業績表が目に止まった。ある時期から急に伸び始めた彼の業績。そしてトキヤの聡明な脳は、事の次第を理解した。
2012-05-18 13:41:07例の部長を問いつめれば事情はやはり想像に違わぬものだった。トキヤの剣幕に、彼は椅子から転げて逃げ回った。……彼にもう、構わないで頂けますか。私の大事な親友ですから。吐き捨てて部屋を出た。手にはあるホテルの住所。……ようやく、突き止めた。
2012-05-18 13:45:51人目をひく、美しく青い髪。……乗り込んでいこうと思った先の出来事。少し前を歩いているのは、間違いなく……!声の限りに名を呼んだ。真斗。走り出した。彼が振り返る前に腕のなかにおさめた。あたたかい。真斗の身体。やっと会えた。やっと。……!
2012-05-18 13:48:58真斗はトキヤを、拒絶しなかった。その腕がトキヤの体に、縋るように絡まる。トキヤはそれだけで、胸がいっぱいになった。真斗は泣いていた。……あのときの涙とはちがうそれを、今度こそ受け止める。すみませんでした。言葉は出て来ない。すみません、すみません、まさと、すみませんでした……!
2012-05-18 13:51:55ほかの言葉を知らないように、謝り続ける。いつしかそれすら難しくなった。頬を伝うなにか。……そうか、私は、……泣いているのか。抱きしめる腕がふるえた。
2012-05-18 13:54:48肩口に赤く咲いた花には、見覚えがあった。……自分のつけた痕だった。泣き止んだ真斗はその肩をちらりと見た。これは、トキヤの痕だ。おまえがくれた、痕。これがなかったら、きっと俺は、もう壊れていたから。あれほどひどく抱いたあの晩のことを、真斗はそう言って赦してくれた。
2012-05-18 13:57:31連れ立って、家へ。今度こそやり直すのだ。……まずは散らかりきった部屋を、片付けるところから。真斗にその話をしたら、笑われた。そうか、ならば、一緒に片付けよう。そう、今度こそ一緒に。一緒に、だ。……
2012-05-18 14:01:50@misonabe_5 「っはぁ、ちょうどいい加減ですよ……ふふ、食べ頃ですかね、っ……しっかりかき混ぜてあげないと、ね!」「んあああっ!トキヤ、ふ、沸騰しちゃうう!お鍋、あふれちゃうからぁ、ああん!」
2012-05-18 14:44:09「、……!い、ちの」「声をあげては……怪しまれますよ」「……っっ、う……」「聖川さん……ふふ、耐える姿もそそりますね」「いや、いや、だ、いちのせ」「スーツの上からでも興奮するんですね……?かわいい」「っ……やめ、て……」「あと少しだけ……ね?しばらくしていなかったから……」
2012-05-18 17:07:00「しかしすごいな、胸筋というのか」「そうですか?」「ああ、……この胸板になら抱かれたいな」「………………!!!!!!!!」「どうした一ノ瀬」「あなたが言ったんですからね?あなたが…………(ガバッ」「えっいちの、ちょっ、アッー」
2012-05-18 20:13:32玄関先まで漂う、あたたかい香り。部屋に電気がついていること、だれかがもう、家にいることの幸せ。日々噛みしめている。ドアを開ける前の、この一瞬で。知らず笑みが零れる。ぬくもり。あたたかさ。そんな使い古された言葉がしかし、いちばんしっくりとくるのだ。
2012-05-20 02:27:47ただいま。おかえり。響く声はやはり台所からで、振り返るその人はわらっている。今日もわらっている。昨日もわらっていた。明日もそうだといいなと、いつも願っている。今日の夕食は、なんですか?お前の好きなものだ。やはりにこにこと君が言うから、私も横に立つ。座っていていいのだぞ。いえ。
2012-05-20 02:31:37手伝いますなどとは言わない。二人で暮らすことはそういうことだ。君が盛り付けた皿を私は食卓へはこぶ。もう向かい合った二膳の箸が用意された食卓。湯気を立てる汁ものを最後に運んで台所に戻れば、君も片付けを終えてこちらを見た。ありがとうと彼は言う。どういたしましての代わりに、手を伸ばす。
2012-05-20 02:35:09右手でかきあげる彼の髪。柔らかな触り心地。手になじむ感覚。君はくすぐったそうに目を細めた。どうして赤くなるのだろう?ふたりで暮らす前だって毎日のようにしていたことなのだから、慣れているはずなのに。…考えながら、自分の頬にも赤みがさしている感覚。…まるで付き合い始めのようだ。
2012-05-20 02:38:24