Cold Color's 140 story 3rd

またつくっちゃった
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当日の取引はまずまずの成果を上げた。飲み会も終え、さて取引先をホテルまで、となった時、真斗はようやく部長の言葉の意味を理解した。…タクシーには、真斗と、その取引先の…ふたりきり、乗せられて。タクシーのドアの閉まり際、部長は笑って言った。期待しているよ、聖川くん。

2012-05-18 00:26:49
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その先のことは、思い出したくもない。車内から執拗なまでに体を触る下衆な男。痛みしか感じない行為。それでも、真斗は己の立場と言うものがわからないような、世間知らずの馬鹿ではなかった。快感に流されたふりをした。目の前の男を、必死にトキヤだと思いこめば、辛さは幾分かなくなった。

2012-05-18 00:29:06
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けれど本当につらいのは、…体の方ではなかった。抱かれた後、送っていくと言われたその言葉を柔らかく断って、エレベーターに乗った真斗のなかにあったものは、絶望だけ。これから、自分がどこに帰ろうとしているのか、誰の待つ家なのか。考えただけで涙は止まらない。どうして、こんなことに。

2012-05-18 00:31:13
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帰りの遅い真斗を、トキヤは心配して、待っていた。飲みが遅くなったので会社でシャワーを浴びてから来たのだ、そう言えば、トキヤはその嘘を信じた。せっけんの匂いも、それで誤魔化せたはずだ。疲れているでしょう?もう寝ましょうね、そう言って真斗の手を引くトキヤ。どうか振り返らないで。

2012-05-18 00:34:00
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その手のぬくもりに今にも、泣いてしまいそう。だから。

2012-05-18 00:34:20
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本当の悲劇は終わらない。携帯、何時の間に見られたのか、繰り返しかかってくる電話。また、抱かれた。繰り返し抱かれた。奴以外の男がいることもあった。皆、顔を見たことがある。業界ではそれなりに名の知れた企業の人間ばかり。真斗は成績を伸ばしていった。トキヤと肩を並べ、追い越すほどに。

2012-05-18 00:36:39
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その日は朝まで解放してもらえなかった。肩口や首筋に痕をつけられた。もういやだ。もういやだ。真斗は自分がひどく穢れていくのを感じていた。トキヤは急に朝帰りの増えた真斗を、案じることはあっても詮索はしなかった。その優しさが痛かった。シャツを着直して、会社に出た。

2012-05-18 00:38:54
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この日は定時にふたりで上がることができた。電車の中、疲労感ゆえに真斗は気を抜いていた。トキヤの肩によりかかり、眠って。…首元の痕が、トキヤの位置から見えることになるとも、知らずに。降りる駅に着き、目を覚ましてもトキヤはいつも通りの態度。だから、この後の展開を知る由はなかった。

2012-05-18 00:41:45
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部屋に入った途端、トキヤの態度は豹変した。壁に手をつかれ、シャツをはだけられた。誰ですか。感情の無い瞳が真斗を射抜いた。誰、ですか。その質問に返すべき答えを、真斗はとうの昔に、失ってしまっていた。いくつもの鬱血を残す肌。トキヤとの交わりは避け続けてきた。こんな形で暴かれるなんて。

2012-05-18 00:45:23
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トキヤは情け容赦なく、真斗を抱いた。落される口づけはいつものような、甘く優しいものではなかった。トキヤの存在を、所有を、刻みつけるだけの荒く、手ひどいキスだった。合間合間に囁くトキヤの声が、心をえぐった。ここも、ここも、ここも、わたしのもの、わたしだけのものです、渡さない、…

2012-05-18 00:47:50
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体を交わらせても、痛みしか感じなかった。トキヤとのセックスでこんな思いをしたことなど無かった。…痛いのは体ではなくて心だと、気がついたのはひとりバスタブにつかっている時だった。トキヤ、トキヤ。名前を呼んでも、もう、戻れはしない。結局真斗はトキヤに何も言えなかった。ただ抱かれた。

2012-05-18 00:50:02
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トキヤが体を洗っている間に、真斗は部屋を出た。最低限度の荷物をまとめ、何も残さぬようにと心に決めたのに、溢れる涙は止まらない。きっとフローリングに、痕を残してしまったのだろう。…消えない痕を。行く先は見当もつかなかった。ただ、一か所を除いては。

2012-05-18 00:52:45
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君の方から来てくれるなんてね。決して使わないと思っていた電話番号、男はすぐに応じた。言われたホテルは最初に抱かれた時のものだった。その時と何も変わらない痛み、絶望。それでも行くあてなど無かった真斗には、この男が最後の行きつく場所になってしまった。下卑た笑いで男は言った。

2012-05-18 00:57:27
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ここにいるといい。行くところが無いのだろ?お金なら気にしなくていい、その代わり、わかるね?真斗は頷くしかなかった。会社に行くこともせず自ら閉じこもった部屋で、真斗はただただ絶望ばかりを噛みしめ、上書きして。トキヤのつけてくれたキスマークは、肩口のそれを残してすべて消えてしまった。

2012-05-18 01:00:48
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トキヤ。トキヤ。あいたい。…外に出たのは気まぐれだった。煙草を買ってくるようにと言われて、コンビニまでの道を歩いていた時。…真斗。名前を呼ぶ懐かしい声。隔たっていたのはほんの2日のはずだったのに、どうしてこんなに、懐かしくて…切ないのか?振り返るとそこには、トキヤの腕があった。

2012-05-18 01:03:59
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言葉になど、ならなかった。ただそこにトキヤがいて、自分を抱きしめていることが、真斗にとってのすべてだった。溢れる涙を止める理由など無かった。深夜の都会の月明かりのもとで、真斗はトキヤにすがった。ずっとそうしたかった。勝手に一人で抱え込んだ。あのときの、二の舞だったのだ。

2012-05-18 01:06:04
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トキヤは泣きじゃくる真斗に、ずっとすみません、すみません、と繰り返した。その言葉の響きに心がまた締め付けられそうだった。謝るべきは自分だったのに。どうしてまたすれ違ったのだろう。今度こそは、やり直すはずだったのに、どうして。…いつしか嗚咽はふたり分になっていた。

2012-05-18 01:07:40
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思いのたけを零してしまえば、あとはなにも残らなかった。トキヤは優しく手を引く。帰りましょう、疲れているでしょう?もう、寝ましょうね。あのときの台詞と同じそれを、トキヤはもう一度真斗にくれた。あのときの真斗には、答えられなかったその言葉。真斗は今度こそ笑って、手を取った。

2012-05-18 01:10:31
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ああ、ずっとだきしめて、いてくれ。

2012-05-18 01:10:43
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一話のなかで視点が切り替わるのあんまり好みじゃないのでそういうのはしたくないんだが、昨日の話は完全に真斗視点で、トキヤの壮絶な苦悩を見せられないのが非常に

2012-05-18 11:58:57
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自分のせいで失いかけたものを、寸でのところで取り返したのが琥珀色一ノ瀬だから、失うことに対する恐怖は尋常でない 自分自身がその原因にならぬように努めなければと、最大限のやさしさとおもいやりと慈しみと、持てる限りの愛をこめて真斗をふかくふかく愛するって誓ったの

2012-05-18 12:04:52
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ともすれば行きすぎた愛情になることを一ノ瀬さん自分でわかっているから、セーブするところはするって決めた。仕事については特にそう。真斗がこなせると自分で判断したなら、口出しは絶対しない、見守るし手伝いはするけど。みたいな風に。そのぶん家で甘やかしてあげる、それでバランスをとる。

2012-05-18 12:10:58
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そんな形で真斗のことを信じて、バランス取りながら愛していたつもりだったイッチー。でもだんだん真斗の様子がおかしくなっていく。何が、とは言えない、でも何かがおかしい。朝帰りが増えて、一緒に眠ることも減った。真斗は前、こんな風にひとりきりのベッドにいたのか、と思うとトキヤさん切なくて

2012-05-18 12:19:02
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まさかその同じ時間に真斗が誰かに抱かれてるなんて考えもしなかったわけね……。だから帰ってきた真斗を本当に気遣うの。無理させたくないからおせっくすも我慢する。ぜんぶぜんぶ真斗のため。自分が彼を傷つけた、それに比べれば安いものだって、そう信じて耐える。ずっとずっと耐える。

2012-05-18 12:21:52
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で、電車内での発覚につながる。トキヤさん動揺したなんてレベルじゃない。だって自分はずっとずっと彼とそういうことしてないんだもの。……理解できない。どうして。頭のなかには疑問しか浮かばない。妙に冷静になってくるのがわかる。どうして?どうして。

2012-05-18 13:07:54
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