山本七平botまとめ/「何故、日本の法と伝統的規範は乖離しているのか?」/~「神」が律する西欧と「人間関係」が律する日本~

山本七平・岸田秀の対談集『日本人と「日本病」について』/78頁以降より抜粋引用
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】【岸田秀:以下[岸田]】彼らの場合(註:ユダヤ人の律法等を指す)なぜそうなったんですかね。それだけブレーキが必要だったのか。禁止を一つ一つ細かくつけないと行動の規範がつかない、という事なんでしょうね。日本の場合は人間関係です。<岸田秀との対談集『日本人と「日本病」について』

2012-05-21 03:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

2】【岸田】自分の自我が相手によって支えられているから、相手からブレーキがかかるわけだ。相手のいやがることをしない。何かいやがることかは決めてなくて、対応において決まるわけだけど、その一線が歯止めになっているんですね。

2012-05-21 03:56:53
山本七平bot @yamamoto7hei

3】【岸田】彼らは「汝、殺すなかれ」という戒律があるから殺さないんだけれども、われわれは相手を殺せば相手がいやがるから殺さない。だから、原則的にいえば、日本の道徳では自殺幇助罪などは罪じゃないでしょうね。法律には触れるにしても、その人に罪悪感はないんだろうと思います。

2012-05-21 04:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

4】【岸田】自殺に罪悪感を持たないというのもそれですね。自殺であって、人を殺す訳ではないから、人に迷惑はかけていない。誰にも迷惑をかけないというのが、日本人のジャスティフィケーションですからね。ヨーロッパでは人に迷惑をかけないからいいじゃないか、という理屈は通らないでしょう。

2012-05-21 04:56:40
山本七平bot @yamamoto7hei

5】【山本七平:以下[山本]】通らない。これはもう絶対に通りません。 【岸田】神との契約に違反すれば、他人の迷惑いかんにかかわらず、通らない。だから向こうの法律で同性愛が禁止されているのもその一例ですね。これも二人で楽しむだけで、他人に迷惑をかけるわけではないんだけど。

2012-05-21 05:26:31
山本七平bot @yamamoto7hei

6】【岸田】つまり、法律というものは、なんらかの形でその国の人々の共同幻想を反映するものなんです。日本人には、なぜ同性愛が犯罪なのか、どうしても理解できませんね。

2012-05-21 05:56:52
山本七平bot @yamamoto7hei

7】【山本】その意味で明治の日本における一番の問題点は、例の民法典論争ですね。近代的な法がないと条約改正ができないというわけで、民法を慌てて作るわけです。ボアソナード(フランスの法学者)などが顧問としてやって来まして、独仏の民法をまぜこぜに翻訳して、急いで施行しようとする。

2012-05-21 06:26:35
山本七平bot @yamamoto7hei

8】【山本】外国の民法を翻訳して強制施行する、そんな馬鹿なことをやった国はないというので、この時は民間からも強烈な反対が出る。法学士会や穂積八束(1860~1912、法学者)が大反対するわけですね。

2012-05-21 06:56:44
山本七平bot @yamamoto7hei

9】【山本】それに対する政府の答弁はというと、ちゃんとヨーロッパ式の民法がないと、条約改正してくれないというんですな。民法というのは、どこの国でも、その国の伝統的な慣習法を合理的に体系化したものであって、イスラム法を訳して日本に施行したら大変なことになるわけでね。

2012-05-21 07:26:38
山本七平bot @yamamoto7hei

10】【山本】これと基本的には同じ事をやった日本における法律と、伝統的文化的規範とは、どこかズレているんです。だから、日本人はなんとなく法律を信用してないでしょう。

2012-05-21 07:56:58
山本七平bot @yamamoto7hei

11】【岸田】日本人はなかなか告訴しないですね。最近はそういう習慣も多少できてきたけれども、元来、あまりしない。告訴しても裁判所からまず和解を提案してきますよ。

2012-05-21 08:26:59
山本七平bot @yamamoto7hei

12】【山本】中国の「律」は元来刑法のことで民法ではないので、この影響で裁判への一種の偏見があるだけでなく、まず”話し合い”の民族ですからね。明治時代に「三百代言」という言葉があったでしょう。一種の軽蔑の言葉です。

2012-05-21 08:56:57
山本七平bot @yamamoto7hei

13】【山本】伝統的規範に従ってやって、ちっとも悪くないつもりが法律的には悪いというケースは幾らでもあるわけですね。それを巧みにひっかけたり、ごまかしたりしたのが当時の代言人、即ち弁護士なんです。これが、ずるい事をやる人間だという意識から軽蔑の対象になる。

2012-05-21 09:26:52
山本七平bot @yamamoto7hei

14】【山本】要するに伝統的規範と法とが、乖離しているからです。 【岸田】だから、この間隙をつかれると、簡単に詐欺にひっかかる。相手は伝統的規範で押してくるし、あんまり何度も頼まれたからという、相手に対応する倫理でハンを押してしまう。その挙句、法律に裏切られるわけです。

2012-05-21 09:57:13
山本七平bot @yamamoto7hei

15】【岸田】だから日本人にとって法律は常にうさん臭い。 【山本】そのかわり犯罪の件数はというと、日本は極めて少ないんです。

2012-05-21 10:27:24
山本七平bot @yamamoto7hei

16】【山本】これは日本の社会が共同体だからなんですね。共同体の崩壊は必ず犯罪につながるわけで、いわゆる機能集団だけで、共同体がなくなっている社会では、犯罪が幾らあっても不思議じゃない

2012-05-21 10:57:01
山本七平bot @yamamoto7hei

17】【山本】日本では機能集団ができると共同体になってしまうし、家族が一家心中するぐらい一人格化しているから、共同体の名誉と家族という歯止めが効いて犯罪が起きないんですよ。会社のことと女房子供とが頭に浮かんで犯罪を思いとどまったなんてね。

2012-05-21 11:26:49
山本七平bot @yamamoto7hei

18】【山本】たしかに日本では凶悪犯罪は減っていて、特に強姦罪は徹底的に滅っている。減っているのは日本だけでね、日本人は少しおかしいんじゃないか、と外国の犯罪学者がいってます。犯罪が一定比率あるのが、社会としては健全なんだ、と。

2012-05-21 11:57:36
山本七平bot @yamamoto7hei

19】【岸田】そうですね。日本では共同体がまだ健在で、共同体の道徳が生きているからですね。どのような社会体制でも、そこに住んでいる全ての人が完全に満ち足りているというわけにはいかないんで、どうしてもいくらかは社会体制を乱す奴が出てくる。

2012-05-21 12:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

20】【岸田】だから、どのような社会体制でも、何らかの規範と、その規範を破った奴に対する何らかの罰は必要なわけです。この規範は、当然、文化によって違っているし、罰だって文化によって違っています

2012-05-21 12:57:33
山本七平bot @yamamoto7hei

21】【岸田】罰が文化によって違っているというのは、ある文化の中に住む個人と別の文化の中に住む個人とで、何か恐ろしいかが違っているからです。勿論、死や肉体的苦痛が恐ろしいという点では、どの文化に住む個人でも大体同じでしょうが、人間には死や肉体的苦痛より恐ろしいことがあります。

2012-05-21 13:26:47
山本七平bot @yamamoto7hei

22】【岸田】自我の崩壊がそれです。それは、自我や、自我を支えている信仰、理想、名誉などを守るために、死や肉体的苦痛を辞さなかった人が無数にいることからも明らかだと思います。

2012-05-21 13:57:32
山本七平bot @yamamoto7hei

23】【岸田】死や肉体的苦痛も、罰の手段としてある程度は有効ですが、どれほど強大な権力でも、全ての人の日常生活のすみずみまで監視の眼を光らせ、全ての違反を摘発し、罰することはできないわけですから、その有効性には限界があります。

2012-05-21 14:27:23
山本七平bot @yamamoto7hei

24】【岸田】どのような圧制的権力も、人々が多かれ少なかれ自発的に規範を守るから維持されているわけです。人々が自発的に規範を守るのは、規範への違反が自我の崩壊の不安を呼び起こすからです。

2012-05-21 14:57:14
山本七平bot @yamamoto7hei

25】【岸田】文化によって、どういうことがこの不安を呼び起こすかが違っているわけですが、それは文化によって自我の構造が違っているからです。

2012-05-21 15:26:49