ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/06/09
マンドラゴラを飼い始めた。私はある朝、彼女と運命的な出会いを果たし、その魅力的な声に惹かれて自宅に連れ帰ったのだ。ご近所迷惑にならないように防音室まで作り、彼女との共同生活を楽しんでいる。植木鉢から引き抜いてはその声に浸り、満足しては元通り植え直す毎日だ。 #twnovel
2012-06-09 01:04:09ボックスの中には三枚の紙が入っています。一枚はこれから起きること、一枚は過去に起きたこと、もう一枚はこれからもこれまでもずっと起きないことが書いてあります。どれがどれなのか、あなたには判断できません。さあ、一枚を引きました。そこには何が書いてあって欲しいですか? #twnovel
2012-06-09 02:04:32ライオンさんはたてがみを外して僕の首にかける。僕はドーナツを外してライオンさんの首にかける。どう? ライオンに見える? 俺はどうだ? ドーナツに見えるか? 見えない。だろ? 僕らは笑う。再びドーナツとたてがみを交換する。しっくりくる。僕はやっぱりドーナツの穴だ。 #twnovel
2012-06-09 03:16:43#twnovel 法律が変わったのだ。窃盗も詐欺も、はては殺人でさえ解禁されることになった。そうはいっても、世界で一人しかいなくなった以上、誰からも窃盗できないし、騙すこともできないし、殺すこともできない。いや、待てよとシェルターの中でタロウは考えた、自分を殺すことは可能だ。
2012-06-09 08:46:38さよなら屋さんがやって来た。「さよな〜ら〜、さよ〜おぉ〜なぁらぁ〜〜〜」低く響く声でゆっくりと道を行く。彼とのさよならを買おうか、迷った。すれ違ってばかりの彼とさよならしたら、デートが直前で彼の仕事に潰された今の気分も晴れるだろうか。彼との別れは一体幾らだろう? #twnovel
2012-06-09 09:51:01#twnovel 電車は闇夜をひた走る。外の灯りは徐々に減り、ついさっきとうとうなくなった。ここはどこなのだろう?窓の木枠に手をかけた僕を車掌が咎める。「お客様、窓はお開けにならないでください。貴重な空気が逃げてしまいます」
2012-06-09 09:59:03#twnovel 後頭部にこぶがあることに気がついたので、掌でくりくりと押してみる。暫くくりくりやっていると突然ぺこん、と引っ込んだ。掌で後頭部をなぞる。えもいわれぬ不安に襲われて鏡を見ると、後頭部にぽっかり凹みが出来ていた。それからずっと側頭を押しているが、直らない。直らない。
2012-06-09 11:13:23いつごろか僕のiPodの中で風が吹きはじめた。ディランもビートルズも風の中で歌ってる。しまいに風の音しか聞こえなくなった。仕方なく僕はプレーヤーを変えたけど、たまにそのiPodを取りだしては聞く。電柱と砂埃とハイウェイ。そこではいつも強い風が吹いてるんだ。 #twnovel
2012-06-09 11:17:35ペンギンは空を飛び海にも潜れるのが自慢でした。世界が急に寒くなって他の鳥が餌に困り「魚を分けてくれないか」と頼んでも「自分で取りなよ」とすげない。怒った神様は「ならずっと魚を取るがいい」ペンギンは飛べなくなり、世界が暖かくなっても寒い所にしか住めなくなりました。 #twnovel
2012-06-09 11:29:45#twnovel 田舎の家には井戸があって、夜中に度々奇妙な少女を見た。井戸の縁に座って微笑むのだが、必ず足は井戸の内側に向いている。人ではないのだ。やがて井戸は潰されたが、上京して一人暮らしを始めたアパートで少女に再会した。少女はやはり流しの内側に足を向けて座り、僕に微笑んだ。
2012-06-09 17:04:14ウサギパンは嫌いだと、女の子が言います。耳から齧っても可哀想だし、顔をはじめになんて齧れないでしょ?雨は嫌いだと、女の子が言います。髪は纏まらないし、ふわふわのスカートも穿けない。そんな女の子たちを、思春期の男の子たちは不思議そうに見つめるだけです。#twnovel
2012-06-09 18:06:26世にも稀なる瞬く小鳥は瞬く木の実を食べるらしい。それなら木の実を育てよう。 手間暇かかるその苗を、労を厭わず十余年。苗は木となり実をつけた。綺麗に瞬く木の実にある日、瞬く小鳥が寄ってくる。僕の木の実を啄む小鳥。僕の木の実を、僕の、僕の。僕は小鳥を撃ち落とす。#twnovel
2012-06-09 19:05:36文化祭、絶対に行くねって言われたから緊張して待ってたのに結局来なかった。がっかりしながらかたづけをした。帰りがけ玄関に君がぺたんと座っていた。誰か待ってるの? 顔をのぞき込む。事故っちゃって来れなくなっちゃった。ごめんね。それだけ言うと君は消えてしまった。嘘だ! #twnovel
2012-06-09 21:01:07私はぼぉっとあなたを見つめていた。すきっぱ気味の歯を見せた笑顔。その歯のひとつが引き戸式にカラカラと開き、奥から小さいあなたが出てきた。両手でたくさんのハートを抱え、手当たり次第に投げつけてくる。そっと摘まみ上げて「十分よ」と言ってやると、照れたように笑った。 #twnovel
2012-06-09 22:13:05君がよく笑うから、俺は目を離せずにいた。熟れた果実のような唇から八重歯が見え隠れする。いっそう大きく微笑んだ時、歯のうちのひとつが引き戸式にカラリと開き、中から小さい彼女が顔を出した。俺をちらりと一瞥して、一瞬顔をしかめる。そしてすぐに引っ込んでしまった。 #twnovel
2012-06-09 22:20:32#twnovel 月が貴方を連れていくから、私は毎日貴方の葬式をする。氷のような温度の肌を優しく拭いて、綺麗な布でそっと包んで、連なる山の間から太陽が貴方を返してくれるのをじっと待つの。寝ぼけたその瞼が開いて私を捉えるまで、もう少し。
2012-06-09 22:58:28「皆さん。あの姿が見えますか。怪獣です。道路に沿って進んでいます。免震していない住宅が倒れていきます。あ、火を吐きました。防火対策が弱い家屋が燃えています。火災保険は利くのでしょうか。あ、こちらに向かって来ます。生命保険の規約は災害扱いでしょうか。いよいよ最後」 #twnovel
2012-06-09 23:09:44