お話「空に一番近い猫」

自分がツイッターに垂れ流した創作童話のまとめ。
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ヨコシマくん @QUIZcat

……そうだね、それじゃあhttp://t.co/YlmFHMAa これにまつわるお話でもしようか

2012-06-13 23:56:46
ヨコシマくん @QUIZcat

…この絵じゃわからないけど、この塔は湖のど真ん中に突き刺さるように建っている。島に建っているのでも浮いているのでもなく、本当に湖に突き刺さるように。元の入り口は沈んでしまっている。 何故か。 ……湖の名前は「ティアレイク」 涙の湖。 今日はこの塔にまつわる話をしよう

2012-06-14 00:00:12
ヨコシマくん @QUIZcat

森の中を一匹の黒猫が悠々と歩いている。黒猫は孤高だった。孤独をものともしない心を持っていた。黒猫は傲慢だった。高いところから自分以外の生き物を見下すことが好きだった。全ては自分ありきで、他はどうでもよかった。彼は彼にふさわしい場所を探して旅をしているのだ。

2012-06-14 00:03:22
ヨコシマくん @QUIZcat

森を抜けるとそこには開けた場所があった。 その中心にレンガで建てられた大きな塔がそびえ立つ。黒猫が空を見上げると、その塔は今まで見た何よりも高かった。この上に登れば全てを見降ろすことができるだろう。黒猫は入口を見つけ、長い長い階段を駆け上がった。

2012-06-14 00:06:29
ヨコシマくん @QUIZcat

螺旋階段をぐるぐると。ただひたすらに上へ上へ。小さい体で一生懸命に。ただ見降ろしたい。誰よりも高いところへ。何度も息を切らして休みながら。自分が今どのあたりにいるのか分からなくなるまで。 ちょっとずつ頂上が近付いてくる。そして、彼はとうとう天辺へ飛び出した。

2012-06-14 00:09:14
ヨコシマくん @QUIZcat

彼は見下ろすことはできなかった。空を見上げて息を飲んだ。疲れて仰向けにひっくりかえり、ただ雲ひとつない空を見上げた。空が近い。空色しか見えない。彼の頭にはもう見下ろすことは無かった。今まではどんなに見上げても、小さい彼の視界には人や建物が入ってきた。でも、ここには空しかない

2012-06-14 00:11:43
ヨコシマくん @QUIZcat

どんなに高いところに登っても、自分はこのどこまでも続く広い世界と、大きな空の中に生きる小さな黒猫でしかない。自分が見下してきた人間ですらそうだ。 初めて黒猫は世界を知った。見下ろすことの虚しさを知った。 黒猫は塔が好きになった。そしてここに住むことにした。

2012-06-14 00:13:55
ヨコシマくん @QUIZcat

毎日てっぺんに登った。最初は辛かったが、徐々に慣れていった。同時に、空に恋焦がれるようになった。もっと高く。もっと深い青の中へ。鳥のように飛びたい。彼の想いはどんどん強くなっていく。 …塔に住むようになってからしばらく経った春。風と春の雨が塔を襲った。

2012-06-14 00:16:39
ヨコシマくん @QUIZcat

暗い空から豪雨と雷が降り注ぐ。流石に彼は屋上には出なかった。塔の中間ほどにある部屋でただ雨が通り過ぎるのを待った。だが、空腹に耐えきれず、雨の中食料を取りに行くことにした。長い螺旋階段を下りる。雨で濡れた階段はとても滑る。 突如、大きな雷鳴が響き、彼は驚いて足を滑らせた。

2012-06-14 00:19:39
ヨコシマくん @QUIZcat

…塔の一番下。冷たい地面の上。彼はうずくまっていた。幸い命にかかわる高さではなかったが、脚を折ってしまったようだ。全身も痛む。空腹と濡れた大地が彼を弱らせていく。わずかにも動けない。どうせ死ぬなら、空に近いところがよかった。あの塔の上で。 彼は眼を閉じた。

2012-06-14 00:21:59
ヨコシマくん @QUIZcat

…まぶたの向こうに白い光が透けて見える。眼を開いても、霞んでよく見えない。誰かに抱きあげられた。暖かくて、柔らかくて、優しい。腕だ。人間の、腕。「可愛そう」透き通るような声が聞こえる。人間の、女の声。聞いたこと無いような、綺麗で聞き心地の良い、川のせせらぎの様な声……

2012-06-14 00:25:11
ヨコシマくん @QUIZcat

彼は暖かい藁の上で眼を覚ました。体が痛んで起き上がれない。折れた脚を見ると手当がされている。 「気が付いた?」 さっきの女の声。目の前に、白い服を着た女がいた。でも、その女には鳥の様な翼がはえていた。黒猫の知る限り、そんな人間は見たことが無かった。

2012-06-14 00:28:16
ヨコシマくん @QUIZcat

彼女は「天使」と名乗った。自分は見習いだとも言った。彼女は元々幼くして死んでしまった少女で、今は神に認められて天使になる為の試練を受けているのだそうだ。それがどんなものなのかは、黒猫には難しくて分からなかったが、彼女は「本当は貴方を助けるのはいけないことだから、内緒ね」と言った。

2012-06-14 00:30:52
ヨコシマくん @QUIZcat

天使は、毎日彼の為に餌を運んできて、傷の手当てをしてくれた。藁を変えて、地上や天界の様々な話をしてくれた。黒猫は初めは警戒していたが、徐々に天使の事を好きになっていった。彼女は時に鈴の様に笑い、風のように歌い、母親の様に子守唄を奏でるのだ。 猫は初めて恋をした。

2012-06-14 00:33:37
ヨコシマくん @QUIZcat

だが、天使は太陽が沈むと同時に天界へ帰ってしまう。決められたことだからと、猫を悲しそうに見つめ、後ろ髪を引かれるように空と帰っていく。翼を広げて、自分が恋い焦がれた空へ。紅く燃えあがる夕日へと、帰っていく。そして夜、暗く冷たい時間を彼は泣きながら過ごす。 猫は初めて孤独を知った。

2012-06-14 00:35:40
ヨコシマくん @QUIZcat

猫が天使に夜の寂しさを伝えると、天使は悲しそうな顔をするから、猫は我慢することにした。その代わり、天使の事をたくさん聞いた。天界はどうなっているのか、神様はどんな人か、世界はどう見えているのか。彼女はどれも教えてくれなかったが、死んだらどうなるのかと言う質問には答えてくれた。

2012-06-14 00:37:58
ヨコシマくん @QUIZcat

「死んだ生き物の魂は星になるの。空に昇り、そこから生きている者を見守るの」彼女は生前よい行いをしたから天使になる資格を得たのだそうだ。天使になれば天使の輪がもらえるのだとも言った。 猫は、自分は天使になれるのだろうか。と聞いた。彼女は分からない、と。そう言って笑った。

2012-06-14 00:40:24
ヨコシマくん @QUIZcat

…長い時間が流れ、猫はもう自分で歩いて、餌を取れるまでに回復した。階段を上っても平気だ。猫は飛び跳ねながら天使に向かってそう言うと、彼女はまた悲しそうな顔をしてこう告げた。「もう一緒にはいられない。」

2012-06-14 00:43:11
ヨコシマくん @QUIZcat

天使は死んだ者の魂を空へと運ばなくてはならない。だが、彼女は本来死ぬべきであった黒猫を助けてしまった。神様はそれに気づいていたのだ。神様は「猫の面倒を見ることは止めない。ただし、早く離れなさい。離れなければ、然るべき時に貴方は罰を受けるだろう」と言ったのだ。

2012-06-14 00:45:30
ヨコシマくん @QUIZcat

天使は離れられなかった。彼女を求める黒猫の想いが、彼女に辛い選択をさせなかった。明日こそ別れを言おう。その気持ちが決まることなく、ついに怪我が治るまで彼女は黒猫と過ごしてしまった。彼女は罰を受けに天界に戻ると言った。 黒猫は、自分が彼女を引きとめてしまったと言う事実に愕然とした。

2012-06-14 00:47:52
ヨコシマくん @QUIZcat

いかないで。俺のせいで。離れたくない。いろんな気持ちが黒猫の心を洪水のように駆け巡る。黒猫は泣いた。天使も泣いた。天使は飛び去ろうとしている。 黒猫は屋上へと駆け上がった。心臓が張り裂けそうなくらい走った。怪我で動けなかったため弱った脚を精一杯使って。

2012-06-14 00:49:58
ヨコシマくん @QUIZcat

何ヶ月振りかの屋上へとやってきた。空は相変わらず青い。天使がもう小さな点くらいにしか見えない。 どうして自分は飛べないのか。もっと高い所へ行きたい。もっと天使と一緒にいたい。天使に謝らなくちゃいけない、罰を受けるくらいならずっと地上にいればいい。 助けて。  あなたを愛してる。

2012-06-14 00:52:06
ヨコシマくん @QUIZcat

飛べると思ったのだろうか。 もっと大きな怪我をすれば一緒に入れると思ったのか。 偶然足を踏み外したのか。 それともすべてに絶望したのか。 もう、誰にもその意図は分からない。 猫は、塔の屋上から飛び降りた。

2012-06-14 00:54:02
ヨコシマくん @QUIZcat

塔のふもと。冷たい地面の上。猫が無残な姿で横たわる。天使は、ただその亡骸の前で泣いた。 ひたすらに声をあげて泣いた。 空の向こうまで届くほど大きな声をあげて泣いた。足元に水たまりができるまで。

2012-06-14 00:56:23
ヨコシマくん @QUIZcat

神様が天使に語りかけた。「貴方は罰を受けました。そして、天使になる資格も失いました。貴方はあるべき姿に戻ります。元の運命通り、貴方は星となるのです」 天使の体が光に包まれて行く。 そして、天使が抱く黒猫の亡骸も、同時に光に包まれた。

2012-06-14 00:58:51