跡もえ【別れました騒動】

@k5xm0e

「何してるん？」「やあおったり」「跡部は？１人なんてめずらしいなあ」「最近は１人ばっかだよ。けーご、おじさまの会社手伝い始めたから。それなりに重役やってるみたい」「へえ。んで何でそんな顔してるん？」「別に。じゃ、わたし授業だから行くね」　けーごが遠い、だなんて言えない。　#跡もえ

@k5xm0e

「もしもしけーご」『どうした？』「具合、悪いの。助けて」『…すまねえ、これから会議なんだ。どこにいるんだ？迎えの車「大丈夫。平気」『無理はするなよ？なにかあったら電話しろ』「会議なんでしょ？わたしは平気。じゎあね」　けーごが遠い。好きが零れ落ちていく。何も、見えない。　#跡もえ

@k5xm0e

けーごと付き合って約六年。喧嘩もたくさんした。だけどけーごが大好きで。けーごもわたしを大切にしてくれて。だから二人でやってこれたのに。今回ばかりは無理かもしれない。けーごが解らない。手のひらから砂みたいに零れ落ちていく好き。もう、何も見えない。　#跡もえ

@k5xm0e

「お帰り」「ただいま。もう遅い、早く寝ろ」「わたしまだ起きてるから一緒に寝よ？」「まだやらなきゃならねえ事があるんだ」「…そっか、おやすみ」　けーごが学生やりながら会社の手伝いを始めてから、すれ違いが増えた。一緒の時間は朝の通学と授業だけ。さみしいなんて言えなかった。　#跡もえ

@k5xm0e

それでも我慢できたのはけーごが好きだから。それなのに。　「パーティー？」「ああ。会社のパーティーがあるんだ。もえも参加するだろう？」「うん！」　ひさびさにけーごと一緒にいられる。そう喜んだのも束の間。パーティーなんて、行かなきゃよかった。わたしはすぐに後悔する事になる。　#跡もえ

@k5xm0e

豪華なシャンデリアの下聞こえる大人の会話。けーごに色んな人に紹介されたけど、みんなわたしなんか見てなくて。ご両親は何をなさってるの？とかわたしを値踏みするような会話ばかり。勿論わたしはけーごとは違って庶民だから、それを知るとみんな嫌な顔をした。それだけならまだよかった。　#跡もえ

@k5xm0e

けーごにわたしは釣り合わないと判断した人たちは連れて来た娘を紹介し始めた。どれも綺麗でキラキラしたお嬢様ばかり。けーごはそれを否定しなかった。取引先の偉い人とかだからだろうけれど、わたしにはそれが理解できなかった。　#跡もえ

@k5xm0e

「帰る」「もえ？」「帰る！」　けーごを無視してパーティー会場を出る。ロビーで足を止めた。慣れないヒールで足が痛い。悔しくて涙が出る。けーごだけがどんどん大人になってわたしは置いてけぼり。けどわたしは大人になれない。その日けーごがわたしを追いかけて来てくれる事はなかった。　#跡もえ

@k5xm0e

その日は跡部邸に帰るのもイヤで適当に時間つぶして、朝方帰った。待っていたのは怒った顔のけーご。　「何してたんだ」「別に」「心配しただろうが」「心配？追いかけて来ても、くれなかったくせに？」「仕方ないだろう。会社の大事なパーティーだったんだ」「そうだよね」　#跡もえ

@k5xm0e

「けーご、会社手伝い始めてから仕事仕事ばっかり。こんな事言いたくないけど、わたしと仕事ならわたしを疎かにしていい訳？」「別に疎かになんかしてねえ！」「してるよ！！最後にデートしたのいつ？一緒に寝たのは？キスしたのは？手だって繋いでない！！」「！」　#跡もえ

@k5xm0e

「今は仕方ないとしか、言えねえ。後少ししたら落ち着くから」「後少しってどれくらい？わたしけーごが理解できないよ！なんで今日のパーティーで娘を結婚相手にって言われてはっきり断らないの？」「それは」「取引先の大事な人だからだよね？わたしが、どう思うか考えてくれた？」「……」　#跡もえ

@k5xm0e

「ほらけーごの頭んなか仕事ばっかり。もううんざりだよ！！わたしの事なんてどうでもいいんだ！」　多分それが引き金。けーごは立ち上がるとわたしをベッドに押し倒した。　「お前は俺の事考えた事あるか？何で仕事始めたか解るか？俺がお前をどうでもいい？んな事あるわけねえだろう！」　#跡もえ　

@k5xm0e

「なんでお前はそうやって、我が儘ばっかりなんだよ。我慢しなきゃなんねえ時だってあるだろ。少し大人になってくれ」「やめて、けーご」「全部全部、お前の為だろ？解れよ」「やめてってば」　身体を這いずり回る手。どんなに抵抗しでも止めてくれなくて。わたしは初めて無理やり抱かれた。　#跡もえ

@k5xm0e

「もうやだ。けーごのうそつき。ずっとわたしの味方って言ったじゃん」「……」「それもわたしたちが子供だったから言えた事だもんね。大人なけーごには守れない約束なんだもんね。ごめんねけーご。わたしけーごが解らない。もう、むり」「そうか」「ーーっ」　#跡もえ

@k5xm0e

けーごは泣きながら荷物を纏めるわたしをただ見ているだけで、引き留めてはくれなかった。ねえ、大人になるってこうやって大切な物を切り捨てて行くって事なの？大人になるってそういう事なの？だったらわたしは大人になりたくないよ。#跡もえ

@k5xm0e

行く宛のないわたしは適当にぶらつく事にした。学校も行きたくない。実家には帰れない。もうなにもしたくない。大好きだった。愛してた。それなのに、もう解らない。あんなに長い間過ごしたのに。全部、消えてしまった。　その場から足も踏み出せなくて。うずくまって泣きじゃくる。　#跡もえ

@k5xm0e

「あれ？七瀬じゃん」「ほんまや、何してんねん」「具合悪いのか？激ダサだぜ」　そんなわたしに降りかかる声。それは紛れもなく中学からの友達で。　「ガックン、おったり、しっしー…！」　わたしは、涙でぐっちゃぐちゃの世界一不細工であろう顔を三人に向けた。　#跡もえ

@k5xm0e

それからわたしは慌てる三人に連れられガックンの実家で話を聞いてもらった。それから、ガックンのお母さんのご好意でしばらくお世話になることになった。　こうしてわたしは、けーごと別れた。　#跡もえ

@k5xm0e

けーごと別れて１ヶ月。わたしは学校へも行かずぶらぶらして過ごしていた。大学に進学したのはけーごと居たかったから。それなのにけーごと別れた。今更行く意味があるのかな？　けーごは相変わらずらしい。おったりが言ってた。ふらふら当てもなく歩いて。気づいたらわたしは、氷帝に居た。　#跡もえ

@k5xm0e

もう遅い時間だから人はほとんどいない。テニスコート、生徒会室、中庭、教室。けーごと過ごした思い出の場所を歩いた。　最後にたどり着いたのは中学二年生の時の教室だった。ここで出会って、ここでけーごにプロポーズされたんだ。　ぽたり、ぽたり　枯れた筈の涙がまた零れた。　#跡もえ

@k5xm0e

「よお、七瀬」　そんなわたしに声がかけられる。担任だった。わたしとけーごが付き合うようになったそもそものきっかけを作ってくれた人。　「先生」「な、お前泣いてんのかよ！」「わたし、けーごと別れた」「は？」「別れちゃったんだよ…！」「あーもう、泣くな！ったく来い」　#跡もえ

@k5xm0e

先生は変わってなかった。相変わらず適当でやる気なさげで。だけどわたしの話を黙って聞いてくれた。　「つまり、お前は大人になってく跡部についてけなくて好きかどうかも解らなくなって、挙げ句の果てに別れるって言ったと」「うん」「餓鬼だな、お前。ほんと、成長してない」　#跡もえ

@k5xm0e

「解ってるよ。でも、わたしは、大切な物を切り捨てたり我慢するのが大人になるって事なら、大人になんかなりたくない」「お前は馬鹿か。跡部の気持ちも考えてやれ」「けーごの気持ち？」「そうだよ。あいつがなんで仕事始めたか解るか？」「いずれは会社継ぐからでしょ」「…可哀想な跡部」　#跡もえ

@k5xm0e

「跡部が仕事を早い内から始めたのは、お前の為だろうが」「？」「跡部はお前を守るために早く大人になりたかった。仕事をして、財力つけて、お前を養うためだろう？」「でも、そんなの、違うよ。けーご毎日仕事仕事だったもん」「そこは跡部がまだ子供だったんだな。目的を見失ったんだろ」　#跡もえ

@k5xm0e

「跡部としては、お前を自分の稼いだ金で養えるようになりたかったんだ。一刻も早く、な。だから大人にならざるを得なかった。それを選んだのは跡部だ。でも、お前の為だって事を忘れるな。なのに大人になりたくねえ、なんて言われたらそりゃあ怒りたくもなるだろう」「………！」　#跡もえ