「新日本国憲法ゲンロン草案」(「思想地図β」第3号)への後藤和智の反応及び批判
逐条批判
さて、消えた条文を追ってきたところで、今度は改正された、もしくは追加された条文を見ていくことにしたい。まずは第1章では「元首」として、「象徴元首」を天皇、「統治元首」を総理としているのだが、天皇は《伝統と文化の統合の象徴》とされている。ちなみに現憲法では(続く)
2012-07-14 22:54:02(承前)《日本国民統合の象徴》(第1条)。現憲法では統合する対象が「国民」となっているところが、ゲ改正案では「伝統と文化」となっている。この点、かなり引っかかる。
2012-07-14 22:57:42ゲ改正案第10条では、「象徴元首」=天皇と並ぶもう一つの元首「統治元首」として総理(「内閣総理大臣」ではなく「総理」)を規定している。そして総理は、ゲ改正案第11条第1項によれば《日本国憲法の実現者として、この憲法で保障される国民および住民の自由と権利を実現するため(続く)
2012-07-14 23:00:27(承前)、政府を指揮して国を運営する》となっている。既に示したとおり、国務大臣に関する条項が消失したので(一応内閣に相当しそうな機関は存在するけど)、かなり総理の権威が強いことになる。同条第3項では、徴税も「総理が」行うこととなっている。さらに予算の作成や条約の締結も(続く)
2012-07-14 23:04:34(承前)「総理が」行うこととなっているが(現憲法73条、ゲ改正案15条に共通)、反面、予算や条約締結に関する国会の議決を定めた条項(現憲法60,61条)は消失したのだから、総理の権限が相当強くなることがわかると思う。果たしてこれっていいことなのかな。
2012-07-14 23:06:34訂正:繰り返しますが、現憲法60・61条に相当すると思われる条文は、ゲ憲法案58条に少しですが存在します。
ゲ改正案第16・17条においては、「日本国民」と「日本住民」という概念が新たに創出されている。「住民」とは合法滞在外国人のこと。「国民」も「住民」も、憲法の定める人権によって守られる対象となる。ここまではいい。しかし現憲法の衆議院にあたる「住民院」の議員の選出には、(続く)
2012-07-14 23:16:02(承前)「国民」も「住民」も参加できるとされている(ゲ憲法案41条の2)。外国人の「地方」参政権については認めている国も多いけど、国政への参政権について認めている国はかなり少数だ。ひとっ飛びに国政への参政権まで認めちゃっていいのかなぁ。
2012-07-14 23:19:12訂正:ゲ憲法案には、投票の要件については記載されておりません。ただ、同誌に掲載されているコンメンタールを読むと、「住民」への参政権の付与を行うべきだとすることが示唆されています。
ゲ憲法案第23条~27条では、現行の地方公共団体に代わるものとして「基礎自治体」なる概念が創出されている。ここで気になったのが第25条。《基礎自治体は、住民自治と団体自治を原則とし、運営の組織と形式は住民の総意と創意に基づき選択する》。つまり、それは議会じゃなくてもいいってこと?
2012-07-14 23:21:41(承前)さらに自治体の首長(と議員と法律の定める吏員)の選出に関する条項も飛んだので、結局誰が責任を持つのかわからなくなる。
2012-07-14 23:23:17ゲ憲法案第35~39条では、行政の特別機関としてこの改正案で新たに設置される「監察院」と「人事院」について述べられている。それぞれに院長が置かれ、監察院は議会である「国民院」(後述)、人事院は「住民院」(後述)が、それぞれ日本国民の中から指名することとなっている。なんで違うの?
2012-07-14 23:27:29第40~62条は立法府について定められたもの。ゲ憲法案では国会は、現行の衆議院に該当するものとして「住民院」、参議院に該当するものとして「国民院」、この2つで構成されることとなっている。
2012-07-14 23:30:18この2院に関する説明の前に先のツイートの訂正。両方の議員について、誰が選挙権を持つかは明示されていませんでした(現憲法でもそうです)。謹んでお詫び申し上げます。
2012-07-14 23:31:19「住民院」は《日本住民を代表すべく、成人たる日本国民の中から選挙された議員で》構成される。これはまだいい。しかし前にも述べた通り、「国民院」は国籍・居住地を問わず、高い見識を持つものとして法律で定められた人から選ぶというものである。少なくとも被選挙権については(続く)
2012-07-14 23:33:03(承前)恣意的な運用も予想されないか。ちなみにこれが普通選挙の理念に反するのでは、という考えは間違っていました(普通選挙は選挙権のみ対象となる)。謹んで訂正いたします。
2012-07-14 23:38:12それともある種の文治主義なのだろうか?エリート主義みたいなもの?こういうのにした理由がどうもわからない。現状の参議院が機能不全に陥っている(と考えている)からといって、このように議会のあり方をがらりと変えるようなものを出して解決するようなものかね。
2012-07-14 23:39:37なんかいろいろ調べてみたのだけど、ひょっとしてゲ憲法案の政治の概念ってイギリスをモデルにしているのかなぁ…。国民院ってイギリスの貴族院っぽいと言われればそうかもしれないし、地方自治についてもそれなりに似ている気がするけど。でもいきなり違う形の制度を入れて、弊害は考えたの?
2012-07-14 23:48:34第58条。消滅していた予算案の可決と条約の批准はここにあった。これら(と、住民院の解散と憲法の改正に関すること)は、住民院だけが行うことができ、国民院はできない。この起草者たち、相当参議院が憎いと見た(笑)。
2012-07-14 23:51:47司法条項と権利諸条項についてコメントするところはない。とはいえ財政条項と最高法規条項がごっそり消えてしまっているのはどうも理解できない。
2012-07-14 23:53:58まとめ
結局ゲ憲法案は、現在の政治のあり方が我慢ならない、そこで自分たちの考えた政体、ネットスラング風に言えば「ぼくのかんがえたさいきょうのせいたい」、それも現行の政体とは抜本的に異なるものを挿入することによって変革しようという、大変清算主義的要素の強いものとなっている。
2012-07-14 23:56:06まさに中二病と言うよりは八つ当たりと言ったほうが正しい。権利諸条項にほとんど修正がかかっていない点を見ても、政治に対する八つ当たり的思考が見え隠れする。また政体を急激に変更することの弊害とかもどうも考えていない様子。こんなのだったら現憲法のほうがよっぽどマシと思える。
2012-07-14 23:58:47私は憲法に関しては素人だけど、少なくともゲ憲法案の示す政体が現状の政体とは大きく異なることは理解できるし、またその弊害について考慮されていないことも問題だと考えることはできる。これを憲法学者や政治学者が見たらどう考えるのだろう。いずれにせよ極めて問題の大きい憲法案だと思う。
2012-07-15 00:00:57