#僕の廃墟体験記 2(ゾンビサバイバル、体験記風まとめ。)

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@n_kano_mywords

「そういえば…」さっきの猫はどうしただろう。緑の無機質な光沢に包まれた、猫のバラバラ死骸。それは、果敢に闘った勇者の弔いとしては、あんまりだと感じたし、青年も同様な感想を述べて……カウンターにいた青年は、僕の様子に気付いて身体をずらした。ここですよと言うふうに。 #僕の廃墟体験記

2012-07-24 18:16:15
@n_kano_mywords

青年が身体をずらして、見えるようになったカウンターの奥にあったのは小さな桐箱だった。「それは…」「ええ。」僕は車に歩み寄った。「触って…いいですか。」僕自身も驚いたが、口をついてでた言葉はそれだった。青年はもちろんといって箱を開ける。僕は驚いた。 #僕の廃墟体験記

2012-07-24 18:17:18
@n_kano_mywords

桐箱のなかには、綺麗な毛並みの猫がうずくまっていた。僕は息を呑む。疵一つない…。それは、写真のなかで見た生前のような姿で、上質な和紙の上に佇んでいた。「すごい……。」僕は、感嘆した。#僕の廃墟体験記

2012-07-24 18:19:01
@n_kano_mywords

人間が…それも瞬時になす業ではない。これまでも不可解なことは多かったが、この時僕は確信した。…よくおわかりで、と言った風に頷く青年。しかし、その目元は決して怒っておらず、むしろ優しげだった。「本当はその場で出してあげたかったのですが…、他の方の神社ですからね。」#僕の廃墟体験記

2012-07-24 18:21:58
@n_kano_mywords

「他の…方…。」彼は肩をすくめて言った。「僕のホームだったら、こんな猫さんを「穢れ」扱いして外に持ち出したりなど、しませんよ。」僕は漸く意味が解った。そうか、神道では死体を「穢れ」として扱うから……、境内のなかでは袋から出せなかった、ということか。#僕の廃墟体験記

2012-07-24 22:32:25
@n_kano_mywords

「撫でて、いいですか。」生きているのかな…と思って、そっと手を伸ばす。すやすやと、うずくまって寝ているようにも見えたから。…しかし、触れた感触は、冷たかった。僕は、その瞬間―下手に、希望を抱いてしまったから余計―途方もなく悲しくなった。#僕の廃墟体験記

2012-07-24 22:33:18
@n_kano_mywords

「残念ながら」青年は淋しそうに言う。「亡くなった者を、生き返らせることは、出来ないんです。」とりつくしまもない、言葉だった。「でも…」僕は言う。「ここまで回復、させてくれたんですよね?」#僕の廃墟体験記

2012-07-24 22:34:33
@n_kano_mywords

僕は不思議だった。貴方はきっと、神か妖の類でしょう。人智を超えた能力をもっていて、…現に、猫の身体がこんなに綺麗に治せているのに……なぜ。と #僕の廃墟体験記

2012-07-24 22:35:16
@n_kano_mywords

「魂は、戻せないんですよ。」青年は、少しさびしそうに言った。「僕は釈然としなくて…つい、口に出してしまった。「神様、ですよね?」青年は、肯定も否定もしなかった。ただ、何か言いたげで、しかし少し迷っている目をしていた。風がないだ。そして青年は重々しく口を開いた。 #僕の廃墟体験記

2012-07-25 13:27:33
@n_kano_mywords

「あなたがたが思っているより、我々は万能ではないのですよ。」静かな、そして、諦めたような物言いだった。「確かに、普通の人間にはできないことができる面はあります。多少の物質が操れたり、天気を誘導できたり。しかし、それは世界の秩序のほんの少しを操る力、に過ぎません。」#僕の廃墟体験記

2012-07-25 13:36:00
@n_kano_mywords

だから、僕にもこればっかりはどうしようもないのですよと弱弱しく笑って、彼は猫の背中に手をおいて、撫でた。綺麗な指先だった。けれど…と僕は違和感を感じた。その撫でる様子は、無念さ、というよりはむしろ、猫を力強く励ましているような感じだった。 #僕の廃墟体験記

2012-07-25 13:42:09
@n_kano_mywords

僕は、はっとある可能性に気付く。青年は、「魂は戻せなかった」と言っていた。しかしその原因については語らなかった。もしかして…。僕は思った。この人は、『魂を戻す』こと自体はできるのかもしれない、けれど、その魂の方が、戻ることを拒んだとしたら…。僕は彼の顔を見上げた。#僕の廃墟体験記

2012-07-25 13:48:38
@n_kano_mywords

青年は、相変わらず猫を見つめたまま言う。「先ほど、『彼』と会ってきましてね。少し話しこんできたものですから、あなたの元へ戻るタイミングが遅れました。あと少し遅れたら貴方が大変なことになる所でしたね。ごめんなさい。」え…、僕はたじろいだ。まさか謝られるとは。 #僕の廃墟体験記

2012-07-25 13:53:59
@n_kano_mywords

「別に、それは構わないんですけど、『彼』…とは。」わかっていたが、確かめないと気が済まない気分だった。「ええ、お気づきの通り、」青年は相変わらず力強く…そして優しく、撫でている。「猫さんですよ。」 #僕の廃墟体験記

2012-07-25 13:56:01
@n_kano_mywords

「向こうでは、今はかつての親しかった人たちと、きっと再開しているとことでしょうねえ。」「男の子…とも。」「ええ、きっと、ね。」青年は僕の方をみて微笑んだ。だから、魂の方はどうしようもないんですよ、と付け加えた。言っている言葉は同じでも、僕にはとても違ってきこえた。#僕の廃墟体験記

2012-07-26 05:02:17
@n_kano_mywords

僕は…白状しよう、唐突にあふれる涙に、どう対処していいかわからなくなっていた。僕はあわてて顔を伏せる。さぞかしみっともない相貌だろうと思ったが、多分青年にはばれている…モロばれだと思う。ふっと気持ちが緩んだすきに、とめどなくあふれる涙。僕はそれほど…安堵していた。#僕の廃墟体験記

2012-07-26 05:08:41
@n_kano_mywords

一度死んだ者は生き返りはしない。事実は事実だし、悲劇は悲劇だ。…でも、少しだけでも、猫は…そして少年は、救われたのだと、浮かばれた…のかと思った。ぼくのしたことは無駄ではなかった。 #僕の廃墟体験記

2012-07-26 05:13:46
@n_kano_mywords

青年はにこりとほほ笑んで、いった。「無駄なことなんて ないんですよ。」手元のカップに温かいコーヒーを継ぎ足してくれる。けっして、完全なハッピーエンドじゃないけれど…、でも、猫の、そして男の子の精神は少しでも安らかな地へいけたと知って、本当にほっとした。 #僕の廃墟体験記

2012-08-01 19:18:01
@n_kano_mywords

ふとした瞬間、力がふっとぬけて、倒れ込みそうになる。けれど、僕は大丈夫だった。彼=青年が支えてくれたからだ。今は大丈夫、と僕は思った。だって、ここは守られた結界だから。今まで荒廃とした地で生きてきたのがとても別次元の夢物語に―但し悪夢であるが―すら思えた。 #僕の廃墟体験記 

2012-08-01 19:25:07
@n_kano_mywords

僕が落ち着いてから、彼は、ケータリングカーの内部に案内してくれ、いろいろな品物を楽しげに紹介してくれた。僕もそのきらきらした商品群を懐かしく眺めていた。(この街が荒廃する前に慣れ親しんでいたような物だったからだ。) #僕の廃墟体験記

2012-08-01 19:35:53
@n_kano_mywords

青年は得意げに言う。「僕の店舗では、お客様のお探しのものは、何でも揃っているんですよ。」「何でも?」元来ひねくれた所のある僕は流石に『何でも』はないだろうと思った。例えば、失くした思い出の品とか。「それがあるんですよ。」まるで僕の考えが聞こえたかのようにいう青年。#僕の廃墟体験記

2012-08-01 19:38:53
@n_kano_mywords

そういえば、この人は、狐神のような類の人なんだっけな、と思いだした。だったらあるかもしれないな、そういうことも。「じゃあ、僕のほしいものも…?」聞きながら、僕は自分に対して不思議に思った。僕は今、なにが欲しいんだろう…?思い浮かばない。 #僕の廃墟体験記

2012-08-01 19:44:30
@n_kano_mywords

さあ、あなたはここから本当に欲しいものが見つけられますかとでも問いかけるような目をして無言で微笑む青年。僕は向こうの棚まで見渡してみる。けれど、とりわけ僕の心をひきつけるものは「…ないみたいです。」 #僕の廃墟体験記

2012-08-01 19:47:20
@n_kano_mywords

「ええ。そうなんです。あなたの探している物は、ここには置いてはいないんです。」さっき、何でも用意できるみたいなこと言ってなかったっけ?と僕は思った。「あなたの欲しいものは、ここに置けるような「物」ではないようですからね。」そう言って青年はいたずらっぽく微笑んだ。 #僕の廃墟体験記

2012-08-01 19:52:11
@n_kano_mywords

「え?物ではない…。」じゃあ、なんだろうと思った。それ以外で僕が本当に欲しているもの…?「安心感とか、温もりとか、何かに守られているような感覚、でしょう?」僕はそれを聞いて恥ずかしく思った。…図星だ。言われてみればそうだ。そして今までこの人は僕に対してそれを… #僕の廃墟体験記

2012-08-01 20:00:24
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